5話 勢力拡大。
5話 勢力拡大。
ディアブロコミュニティの勢力は、日に日に拡大していた。
正式メンバーは300名ほど。
ただし、その300人は、そこらのチンピラではない。
それぞれが舎弟や取り巻きを抱えている、地域の顔役ばかりだった。
「「「お疲れ様です!! 総長!!」」」
「あ……うん、はい……どうも、こんにちは」
蝉原は、ただのバカには興味を示さなかった。
必要なのは影響力。
10人を従えられる人間なら、11人分の価値がある。
だから蝉原は、人を集められる人間を集めた。
結果として、ディアブロコミュニティの正式メンバーは300名程度でありながら、蝉原の号令一つで動く人間の数は、数千人規模にまで膨れ上がっていた。
「総長! 肩を揉ませていただきます!」
「あ……うん……ありがとう……でも、しんどくなったらやめていいからね」
こういうコワモテの人たち相手だと、しっかり委縮してしまう。
みんなは、僕が遠慮すると、『優しい』とか『寛大』とか言うけど、違うよ。
怖いんだよ、あんたら、全員。
タトゥーとか、ピアスとか、ドレッドとか……やめてほしいんだけど、普通に。
「どうすりゃ、総長みたいなイカした男になれるんですか?!」
「……えっと……まあ、ヤクザの幽霊に憑りつかれたら一発だよ」
「はははははは! 総長はギャグのセンスもヤベェや!」
「総長! 今日の上納金です! どうぞ、お納めください!」
「……うわぁ、今日は結構多いね……」
「頑張らせていただきました! 偉大なる総長のために!」
「あ……そうっすか……」
人が集まれば、金が集まる。
金が集まれば、権力が集まる。
権力が集まれば人も集まる。
カリスマがあれば、理想的なサイクルを創り出すことが可能。
蝉原は、裏社会で闘うために必要な資源の大半を手にしていた。
当然のように、龍星会内部での発言力も増していく。
今では若頭ですら、蝉原の顔色をうかがうようになっていた。
重要な話し合いの場には、必ず蝉原が呼ばれる。
★
赤目組との抗争に勝利した龍星会は、次の段階へ進むことになる。
隣接勢力との統合。
蝉原から色々と説明されたけど、正直、なんのこっちゃ分からない。
まあ、ようするに『今は裏社会の10%しか支配できていない』から『倍の20%』にまで拡大したい……ということだと思う。
蝉原は、龍星会とほぼ同規模の別組織『東龍会』との接触を始めた。
具体的に蝉原が何をしているのか、正直、僕にはわかっていない。
なんか、色々と、金を使ったり、人を使ったりしていたけど……
それが何になるんだろう……。
(ようは『絆』だよ。人は結局、人と人の中でしか生きられない)
(なんだろう……蝉原が言うと、きれいな言葉も悪魔の甘言に聞こえるね)
(ふふ)
と、蝉原は一度だけ笑い、世界を見下してから、
(絆……いい言葉だ。賢い人間は絶対に使わない、バカを騙すのに最適な言葉)
(性根が腐っているなぁ……ウチの蝉原さんは……)
犯罪AIシステムは既に稼働しており、それぞれの組の情報が自動的に集まっていた。
便利なものはみんな使う。
そして、使い方に節操がなくなる。
蝉原にかかれば、どんな小さな情報も必殺の武器になる。
ほんの数日で、龍星会と東龍会の間に、交渉の糸口が生まれた。
★
蝉原の暗躍の結果、敵のボスとの直接会談が設けられた。
――東龍会総裁、黒崎源治。
四十年にわたり近隣裏社会の均衡を維持してきた男。
表に立つことは少ないが、政財界にも太いパイプを持つ伝説的フィクサー。
龍星会の幹部たちが緊張する中、蝉原だけはいつも通りだった。
黒崎は、蝉原の顔を見るなり、
「……もっとデカい男を想像していた」
と呟いた。
「まあ、大柄ではないですね。けれど、オーラはなかなかでしょう?」
蝉原は微笑む。
黒崎は葉巻に火をつけ、しばらく蝉原の目を見ていた。
「ウチの娘が、お前に興味があると言っている……もし、ウチの娘と婚姻を結ぶのであれば、ウチと龍星会の結束は固いものとなる。さて、どうする?」
試すような目と口調だった。
アホの僕でも雰囲気で分かった。
黒崎は、蝉原を試している。
蝉原が『突発的な選択肢』を前にした際にどう動くのか、それを観察しているのだろう。
欲を見せるのか。
警戒するのか。
あるいは条件交渉を始めるのか。
蝉原は、ニコリと微笑んで、
「では、そのように」
「ほう。一切揺るがないか……なかなかの胆力だ」
「稀によく言われますね」
(あの……蝉原さん……僕、結婚するんですか?)
(これはただの交渉だよ。あの爺さんも、本気で結婚させようとは思っていないだろう。もし、君が結婚したいなら受け入れるけど、どうする?)
(いやぁ……うーん……)
と悩んでいると、黒崎が、
「……愛羅、入りなさい」
応接室の扉が静かに開いた。
入ってきたのは女だった。
まず目につくのは身長。
ヒールでも履いているのかと思ったが違う。
素足に近い靴なのに、それでも僕より頭ふたつ分は高そうだった。
175センチは超えていそう。
年齢は二十歳前後。
モデルみたいな体型なのに、どこか獣を連想させる危うさがあった。
ウチのクラスの無口なハーフ留学生『セフィア』さんも、ロシアの血が入っているだけあって、だいぶ身長が高いけど、彼女……黒崎愛羅はそれ以上。
黒髪のロングヘア。
整った顔立ち。
文句なしの美人。
彼女は部屋に入るなり、真っ直ぐ蝉原を見る。
そして数秒ほど観察したあと、
「パパ、なにこれ。どこの小学生?」




