表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/21

4話 学校の王様。


 4話 学校の王様。


 ヤクザをバックにつけた蝉原は、代紋の威光と、自身のカリスマをフルで利用し、周辺の暴走族やチンピラを次々と従えていく。


 ほんの数日で、蝉原は、規模100名を超えるチームのヘッドになった。

 蝉原が厳選した『気合いの入った狂犬』を集めた精鋭組織。 

 チームの名前は『ディアブロコミュニティ』。


 ただのイキったヤンキーチームではなく、

 ディアブロコミュニティは会社として正式に登録されている。

 表向きはアプリ開発会社。


 蝉原は、法の隙間をねり歩くことに異常な才能を持っていた。

 人が最も嫌がるムチと、人が最も喜ぶアメを熟知している。


 このあたりから僕は確信した。

 宇宙一かどうかは知らないけど、蝉原はとんでもないヤクザだ。


 ★


 学校にはちゃんと通っている。

 基本的に、昼間は学校に通う僕で、

 夜は、反社のエンペラー蝉原。


 奇妙な二重生活も、数日もすれば慣れてきた。


「「「おはようございます、総長!!」」」


 教室に入ると、クラスカースト上位の男子連中が、一斉に立ち上がって、深々と僕に頭を下げた。

 ちょっと前まで、僕を見下していたくせに、

 蝉原にビビらされたあとは、ヘコヘコするだけの子分になりさがった。


 女子連中は僕にビビりながらも、どこか熱っぽい目を向けてくる。

 近づきがたいものに対する忌避と憧れが同居している視線。


 最初の方は忌避が強かったけど、時間が経つにつれて、興味と熱が増している気がする。


 席につくと、美人ギャルの滝本が近づいてきて、

 僕の腕に抱き着きながら、


「ねえ、今度バイクの後ろに乗せてよ」


 などと言われて、僕は、


「あ……はい」


 と、曖昧に返す。

 彼女の変わり身の早さは見事なもの。

 いったい、蝉原はいつ、彼女に真の鉄槌を下すのだろう。


 ちなみに、『蝉原がサっと偽造した免許』と、

 龍星会が用意してくれた『カワサキ Z900RS』があるので、

 最近はバイクで移動している。


 運動神経が終わっている僕の運転はゴミだけど、

 蝉原が運転すると、プロがスカウトにくるレベル。

 実際、組と付き合いのある元レーサーが一度、本気でスポンサー契約の話を持ってきた。


 蝉原はなんだって一流だった。

 交渉も、運転も、IT関連も、金稼ぎも。


 特にすごいのはケンカの腕前。 

 僕の身体はモヤシ同然なのに、

 蝉原が動かすと、しなやかな日本刀みたいになる。


「今日もちょっと付き合ってもらおうか」


 昼休み、僕の身体を乗っ取った蝉原がそう言うと、


「「押忍おす!! ありがとうございます!!」」


 カースト上位の男子たちが、一斉に立ち上がり、全員の机を壁際に押し込んでいく。

 女子たちは迷惑そうな顔をしつつも、どこか期待の目で状況を見守っている。


「気室……今日も先手は君だ」


 指名を受けると、気室は顔を青くしながらも前に出る。

 逆らうという選択肢は、もう彼の中には存在しない。


 教室の真ん中が広く空いた。

 そこに蝉原と、気室の二人がたつ。

 周囲で見守っている連中が、


「「「総長、ご指導、お願いします! いつもありがとうございます!!」」」


 と、気合の入った返事をした。

 たった数日で、よくもまあ、ここまでしつけたものだと感心を通り越して呆れかえる。


 蝉原は、二度ジャンプしてから、


「指導なんてしないよ。この身体に慣れるのに手伝ってもらうだけさ」


 そして始まる。

 蝉原と気室のタイマン。


 実にヤンキー漫画らしい展開だなとも思うけど、

 蝉原の動きを見ていると、そんな軽いものでもないような気がしてくるから不思議。


 蝉原の動きはすべてが華麗だった。

 気室のパンチを、紙一重で美しく避ける。


 踊るように、舞うように。

 ひらひらと、気室の全てを足さばき一つであざ笑ってから、


「気を抜くと内臓を痛めるから、しっかりと歯を食いしばって」


 と、指示を出してから、ギュンと踏み込む。

 僕の体とは思えない俊敏性。

 一気に踏み込んで、拳を気室の脇腹に叩き込む。


「ぐぇ!」


「男の子なんだから、情けない声を出しちゃダメだよ。……たかがアバラが数本折れただけなんだから、キュっとやせ我慢しないと」


 そう言いながら、2発、3発と丁寧にボディーブローを決めていく。


「……ご指導……感謝……します……」


 震えながらそう言う気室に、

 蝉原は、


「よく頑張ったね、偉いよ」


 そう言いながら頭をなでる。

 すると、気室が涙を流しながら、


「ありがとうございます!」


 と全力で叫んだ。


「総長! 次は俺の指導を!」

「いや、俺を!!」


 そう言って、次々に、志願してくるクラスメイトたち。

 蝉原は、適度に彼らをボコボコにしては、最後に甘い言葉を投げかけていく。


 女子たちは、蝉原の冷血な笑顔と、男子の血に釘付けになっていた。


 カマトトぶって『野蛮でいやねぇ』みたいな顔をしている女子もいるが、

 そんな彼女も、蝉原の汗から目をそらさない。


 ――ウチのクラスには、『セフィア・ローズ』という留学生がいる。

 黒人とロシア人のハーフで、褐色の肌に銀髪、長身で巨乳と、設定モリモリ。

 普段は何にも興味を示さない子で、いつも誰とも話さず、どこか遠くを見ている。

 その彼女ですら、気室の指が飛んで以来、ずっと、まばたきを忘れたみたいに蝉原を見ていた。


 ――別に禁止されているわけでもないのに、誰もスマホを見ない。

 クラスのみんなが蝉原を見ている。


 そもそもの話、この異常な状況で、誰も逃げない。

 そして、誰も学校を休まない。


 間違いなく全員が恐怖している。

 全員が蝉原を怖がっている。


 なのに、まるで推しのライブに集まったファンみたいに、

 誰もが蝉原の一挙手一投足を追い続けている。

 怖がっているはずなのに。

 目を逸らせない。


 その気持ちが、僕にはよくわかった。

 僕も、蝉原に恐怖している。

 こんな悪魔にりつかれてヤバいと思っている。

 でも、どこかで期待している自分がいる。


 次は何をしてくれるのだろう、と。



 ★


 放課後、教室を出て外を歩くと、僕を見つけた生徒たちが一斉に道をあけた。

 教師もビビって、僕から目をそらす。

 僕の一挙手一投足に、みんなが震えている。


 そんな中、教室から二人の野球部員が慌てて飛び出してきた。

 部活に遅れそうで急いでいたのだろう。

 その一人と僕はぶつかり、お互い倒れてしまう。


 ぶつかった部員は、


「ぼけぇ! 気をつけろ! 死ねぇ!」


 と、運動部特有の傲慢さを見せつけてきた。


 だが、もう一人の部員が、真っ青な顔で、


「ば、ばか! この人、蝉原勇吾だ!」


「……ぇ……ぁ」


 彼の顔から血の気が引いていく。


 そして、あわあわと震えてから、

 そのまま土下座のポーズをとって、


「す、すいません! 不注意でした! どうか……どうか許してください! どうか、指だけは……っ!!」


 必死になって謝ってくる彼を見ながら、

 蝉原が、心の中で、


(どうする? 君が望むなら、彼の人生を終わらせてもいいよ)


(……それは蝉原的に美しくないんでしょ? ……知らないけど)


(くく)


 僕は、起き上がりながら、


「ぶつかってしまってごめんなさい……ケガしてませんか?」


 そう言って手を差し出す。


「え……ぁ……え?」


 戸惑う彼を引き起こしてから、


「じゃあ、すいません……失礼します」


 そう言って僕は彼に背を向けて歩きだす。

 すると、それを周囲で見ていた女子生徒の一人が、


「すごい! 紳士なんですね、蝉原さんって!」


 とそんなことを言いながら、僕に近づいてきた。


「誤解してました! 蝉原さんって、強くて怖いだけじゃなくて優しいんですね!」


「いや、あの……今の僕は、ぶつかって、お互いにごめんなさいしただけなんだけど……」


 その後も、彼女は……彼女だけじゃなく、他の人たちも、

 僕のことを、優しくていい人と褒めてきた。


 ……なるほど、これが噂の認知バイアスってやつか……

 雨の中、ヤンキーが子猫を拾うと、100倍優しく見えるという、あの伝説の……


 僕はなんだかいたたまれなくなって、

 その場をそそくさと逃げ出した。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
第4話、最高にシビれました……!最初は怯えていたクラスメイトたちが、蝉原の圧倒的な強さと美しさに魅了されていく空気感の描写がリアルで凄まじいです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ