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22話 罰ゲーム。


 22話 罰ゲーム。


 施設での養生を終えた帰り道。

 愛羅の運転する車の後部座席で、滝本が思い出したように声をあげた。


「あ、今日撮影だった。悪いけど送って」


「あたしはあんたのお抱えの運転手ではない」


 愛羅がハンドルを握ったまま、ぴしゃりと言う。


「いいじゃない、そんなことぐらいでけちけちしないで……あ、ユウゴ、一緒にきて」


「残念だが、このあと、何かしらの用がある気がしてね」


「いいから」


 有無を言わせない口調。

 愛羅がミラー越しにこちらを見て、


「愛羅、君はいいのかい? 旦那が愛人に連れていかれようとしているよ。射殺して止めないと」


 そこで、愛羅は数秒考えてから、


「……旦那の女遊びを許すのが極妻の嗜み、かな」


 前を向いたまま、平然とそう答えた。

 滝本にマウントを取りつつ、蝉原をちょっとからかっている。


 最初の頃なら、もっと過敏に反応していたはずだ。

 愛羅も、少しずつ蝉原という男の扱い方を学習しているらしい。


 ちなみに凪は、


「おい愛人1号……てめぇ、マジで、いい加減にしろよ。ブチ殺すぞ」


 と、滝本に文句を言っているけど、

 凪がなんて言おうと、滝本は引く様子がない。


(面倒なノリしてくれるねぇ……まあ、いいけど。じゃ、あとはよろしく)


 蝉原の声が頭の中で響いたかと思うと、身体の主導権がするりと僕に渡された。


 こういう厄介なことを僕に全部押し付けてくる。

 本当にワガママなヤクザだ。


 ちなみに、帰りはセフィアさんも車に乗っていた。

 後部座席、滝本と凪の間。

 おそらく……というか、間違いなく、彼女もスタジオについてくると思う。

 彼女のプロっぷりをナメちゃいけない。


 ★


 撮影現場に着くと、メイクのスタッフから声をかけられた。


「お疲れ、凛花ちゃん。あれ? もしかして彼氏?」


「うん、そう」


 滝本が当然のように僕の腕に絡みつく。


「へぇ……ふぅん」


 スタッフの女は、僕を上から下まで一瞥して、


「凛花ちゃんなら、もうちょっと欲張っていいんじゃない?」


 鼻で笑いながら、そう言った。


 蝉原が、毎日、バカみたいに鍛錬しているから、体つきだけはかなり変わってきた。

 それでもまだまだヒョロガリ。


 純粋な目で見れば、僕は滝本の隣に立てる男じゃない。

 それは自分が一番分かっている。


 スタッフの態度に、滝本がムッとした顔で、僕を睨み、


「なんで、急にダウナーモードになってんの? いつものハイなあんたになってよ」


(こっちが、いつもの僕なんだけどな)


 心の中だけでそう思いながら、


「あのスタッフさんは、僕のルックを見てナメてきてるから……人格を変えても意味ないんじゃない?」


「そんなことないわよ。本気モードの時のあんたは、背筋も伸びるし、眉毛もキリっとするから、あんまりナメられないと思う」


「……どうかなぁ」


 ちなみに、セフィアさんは、スタジオの壁際で黙って立っている。

 めちゃくちゃスタイルのいい美少女だから、熱心にスカウトされていた。

 何を言われても、全部無視して、僕をガン見し続けている。

 ここらで改めて思うけど、なぜ、君はそんなにも凄まじい美少女さんなのに、そんなにも壊れているんだ……

 正直、外見の整い方で言えば、滝本を超えている……なのに……どうして……


 ★


 撮影が始まると、滝本は別人になった。

 ライトの中で表情を変えるたび、空気そのものが彼女に合わせて動いているように見える。


 その様子をぼんやり眺めていると、さっきのスタッフがまた寄ってきた。


「あなた、本当に凛花ちゃんの彼氏?」


「え、いやぁ……そのぉ」


 急に話しかけられて、いつも通りあたふたしてしまう。

 こういう時にすぐ言葉を返せるなら、最初から気室にイジメられたりしなかったんだろうな、と自分のコミュ障ぶりを他人事みたいに思う。


「流石にそれはないか。……あ、もしかして、罰ゲーム? 学校でそういうのが流行っている的な?」


「えっと……ま、あの……そんな感じ……ですかねぇ……へ、へへ」


 我ながらキモい笑い声になってしまった。


「見れば分かると思うけど、凛花ちゃんは、あなたのようなイモみたいな子が付き合える子じゃない。ただの罰ゲームを本気にして勘違いするのはやめなさいね。ストーカーとかしちゃだめよ。人生終わるから」


「……は、はぁ……」


「あなた、もっとシャンとしなさいよ。そんなんじゃイジメられるんじゃない?」


「そう……ですね」


「あの子、華があるのよね。前は抜けきらない感じだったけど、最近はキラキラしはじめて……結構、いいところまでいける気がするのよね」


「そ……そうっすか」


 スタッフによれば、滝本の人気は順調に伸びているらしい。

 恋愛バラエティ番組への出演も決まり、SNSのフォロワーも右肩上がり。


 蝉原がすごいのは当然として、滝本も、同級生の中では頭一つ、いや二つ三つ抜けてすごい。


 二人とくらべたら、僕は……


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