20話 混浴の流儀。
20話 混浴の流儀。
5人で温泉に入ることになった。
蝉原は一人で入りたがったけど、女子3人がそれを許さない。
セフィアさんは何も言わないけど、普通についてくる。
もう、彼女に関しては僕も何も言う気はない。
どうぞ、好きになさってください。
脱衣所で滝本が、
「うわ、ひろ。やっぱ反社って金もってんだね」
と感嘆の声をあげた。
確かに広い。
露天風呂まである。
岩造りの湯舟が、山の景色と溶け合っている。
「さすがヤクザ専門の浴場。わざわざ男女で分けたりしないようだね」
蝉原がそう言いながら中に入ると、先に湯舟に浸かっていた愛羅がこちらを見た。
全裸だった。
一切の迷いがない。
むしろ当然という顔をしている。
蝉原は少しだけ間を置いてから、
「一緒に入るのは別にいいけど……君も滝本や凪やセフィアさんと同じように水着を着てくれないか?」
「旦那と風呂に入るのになぜ水着を?」
「……」
呆れた顔で天を仰ぐ蝉原。
その横で、滝本がじっと愛羅を見てから、
「むぅ……だったら、私も」
と、自分の水着に手をかけた。
「やめなさい」
蝉原が即座に言った。
滝本は不満そうに口を尖らせたが、おとなしく従った。
そこで凪が、
「総長! よろしければ、あとでお背中、流させていただきませんか!」
「200万払うならいいよ」
「なんてお安い! ありがとうございます!」
……ちなみにセフィアさんはスクール水着だった。
狙っているのだろうか……だとしたらお見事だと言いたい。
ちなみに、彼女の巨乳はすごかった。
あまり、こんな情けないこと言いたくないけど……とにかくすごかった。
★
結局、5人で湯舟に入ることになった。
広い湯舟なのに、なんとなく狭く感じる。
蝉原は湯舟の縁に腕をかけながら、さりげなく右手首を左手でマッサージしていた。
愛羅にも滝本にも凪にも気づかれないよう、ごく自然な動作で。
ちなみに、セフィアさんは永遠に蝉原のことをガン見しているので、たぶん気づいている。
(痛いの?)
(ああ。自殺したくなるぐらいにね)
(……む)
(ふふ……俺をからかう時は覚悟をもってくれ)
(普通に心配しただけで、からかってないんだけどなぁ……)
そこで、滝本がふと、愛羅の背中に目をとめた。
「すっごい刺青……やっぱこれって痛かった?」
愛羅の背中には、見事な和彫りのお釈迦様が広がっていた。
墨の深さと細かさが、素人目にも尋常じゃないと分かる。
「彫を入れる程度の痛みでごちゃごちゃ言うヘタレは、極道になる資格がない」
「……あんたってマジでヤクザなんだ……」
滝本が妙に感心した顔で言った。
凪が、
「ボクもいずれ入れたいですねぇ……」
と、憧れのまなざしを向けている。
愛羅が、そこで、蝉原に視線を向けて、
「蝉原もいずれは入れるのでしょう?」
「いやぁ……どうだろうねぇ」
「まさか、あなたほどの男が刺青にビビる……なんてことないわよね?」
「さすがに墨にビビることはないけれど」
蝉原は少し考えてから、僕に向かって、
(自分の体ならまだしも、君の体だからねぇ……)
(そういう部分の良識はあるんだ)
(君が入れてもいいというのなら、背中に毘沙門天を入れたいのだけど、どうかな?)
僕は少し考えた。
(いやぁ……うーん……いやぁ……)
どうせ蝉原として生きていくなら、別にいいのかな、という気持ちが一瞬だけ頭をよぎる。
でも、流石にまだ抵抗がある。
自分の背中に、死ぬまで消えない枷が刻まれると思うと……
(小さいやつを胸とか腕とかにちょっと……なら、まだアレだけど……背中にビッシリは……流石にねぇ……)
(ガキじゃあるまいし、しょっぱいタトゥーなんて、みっともなくて入れられないよ)
湯舟の向こうで、滝本と愛羅がまたぼそぼそと言い合いをはじめていた。
お湯の温かさと、二人の声だけが、静かな山の中に漂っている。
悪くない時間だな、と思った。
ちなみに、風呂に入っている間も、セフィアさんの視線が蝉原から外れることはコンマ1秒たりともなかった。
もう、いっそのこと、こっちも振り切って、フルチンでも見せびらかしてやろうかとも思った……けど、さすがにやめておいた。
僕にもまだ一抹の良識ってやつが残っていた。




