19話 早撃ち。
19話 早撃ち。
施設の地下に降りると、射撃場があった。
コンクリートの壁に、人型の的が並んでいる。
火薬の匂いが鼻をついた。
最初に銃を手にしたのは滝本だった。
イヤーマフをつけて、的に向かって構える。
そして、一発。
「……私、これ嫌い」
眉をひそめながら言った。
「うるさいし、手痛いし」
「極道の愛人が、銃に抵抗感があるなんて、話にならない」
愛羅が呆れた顔でそう言いながら、滝本の隣に立つ。
構えをとり、引き金を引く。
連射。
的に当たってはいるが、かなり散っている。
「下手だねぇ」
蝉原がボソっと言った。
「これでも組の中では上手い方だから」
愛羅は若干ムッとしながら、
「……そういうあなたはどうなの?」
「俺も銃は苦手だね」
そう言いながら、蝉原は銃を手に取った。
構えると同時に引き金を引く。
とんでもない早さ。
一発、二発、三発……
十発以上を、まばたきする間もなく撃ち切る。
的を確認した愛羅が、目を丸くした。
穴が一つしかない。
全弾、同じ場所に命中していた。
(すごいね。まるで『野比の〇太』みたい)
僕が心の中でそう呟くと、
(せめて、『次元〇介』みたいと言ってほしいね)
と、そこで、後ろで見ていた凪が、
「美しいぃいいい! 流石です、総長! 当然、銃の腕前も凄いんだろうとは思っておりましたが、まさか、これほどとは!! あなた様は宇宙一! まぎれもなく全世界最強の超越者! もはや神!」
「凪、誉めるのが足りないよ。俺はそんなものかい?」
「ぇ、えっと……いや……あなた様は! 神の中の神の中の神であります!!」
一方、愛羅は銃を下ろしたまま、蝉原をじっと見ていた。
「……流石に、ちょっと引いてきた。あなた、なんなの? 銃の神様か何かなの?」
「いや、反社の神だよ。バカの神と言ってもいいかもね」
「銃は苦手って言ってなかった?」
「苦手だよ。結局のところ殴った方が火力が出るから、銃はあまり使わないんだ」
「あなたって、会話の大半が冗談なのね……嫌われるわよ」
「今の俺のセリフに冗談は一つもないけどねぇ」
そう言いながら、蝉原は撃った方の手首をちらりと見た。
ぴくぴくと震えている。
どうやら、銃の反動で相当なダメージを負ったっぽい。
(この肉体は流石に脆すぎるね)
心の中で、蝉原が呟いた。
(できれば本気でガッツリとレベルを上げたいところ。さて、どうしたものか……)
そこで、蝉原の視線が、愛羅へ向いた。
(彼女は間違いなく優れた魂魄を持っている。殺せば、それなりの経験値を得られるんだけど……その点に関して、君はどう思う?)
心の中で、イタズラな声が届く。
僕はため息をついた。
(やりたければやればいいんじゃない? 僕には止められないし。いっそのこと、滝本と凪も殺せば?)
(ふふ……よくないセリフだねぇ。そんな事を言っているようじゃあ、正義のヒーローにはなれないよ)
(正義のヒーローって、ようするに、君の相手をしなければいけない職業ってことだよね? 居酒屋の厨房よりやりたくない仕事だよ)
(居酒屋の厨房は大変だよねぇ)
(バイトしたことあるの?)
(どうだろうねぇ)
(いや、そこをごまかされても、ミステリアスポイントは稼げないよ。ていうか、もうそのポイントはカンストしているから、積み上げなくていいよ)
蝉原は笑って、愛羅から視線を外した。
殺す気なんて、最初からなかったのだろう。
ただ、僕をからかっただけ。
蝉原はそういうところがある。
普通に性格が悪いのだ。
嫌いだわぁ……
(ちなみに、手首は大丈夫なの?)
(腱は損傷していない。しばらく動かさなければ問題ないだろう)
蝉原は間違いなく悪人で、
異常なほど狡猾な性格をしている変人で、
やる時はとことんやる狂人だけど、
無差別殺人はしないって……僕は信じている。
信じたいだけかもしれないけど……
ちなみに、セフィアさんはずっと後ろで蝉原を見ていた。
滝本が、『撃ってみる?』と声をかけたが、
「……銃はあまり撃ったことがないので……苦手でして……」
「あまりって……撃ったこと自体はあるみたいな口ぶりね」
「……8万発ほど……」
どうやら彼女も冗談を口にするらしい。
あまりのギャップで、普通に笑ってしまった。
なかなかのギャグセンスだと認めてあげよう。




