14話 謝罪に意味はない。
14話 謝罪に意味はない。
……10分後。
地面には動かなくなったヤンキーたちが転がっていた。
詳細は省くが、だいぶ酷い状態になっている。
生きてはいる。
誰も死んではいない。
たぶん、おそらく、きっと。
拷問の途中、奴らは何度も『助けて』とか『もうしないから』とか言っていたけど、蝉原は全て無視した。
(これは……流石に……殺すより酷い……かな……)
あまりの惨劇に、僕の心もさすがに冷めていた。
滝本も青い顔をして、
「ゆ、ユウゴ……あの……」
「ん? なにかな?」
「流石に、ちょっと……やりすぎ……かも」
蝉原は首を傾げる。
「そうかな」
そして子猫の死体と、倒れているヤンキーを交互に見て、
「彼らはまだ生きているよ」
静かな声で、
「そっちの小動物は死んでいる。死体をもてあそばれてもいる。俺が彼らにやったことは、はたして、やりすぎかな?」
などと、蝉原は冷めた声でそうつぶやくと、スマホを取り出して、
「とりあえず、このゴミどもの処理は組に任せようかな……漁船にでも乗ってもらうよ。『ぼく』を不快にさせた慰謝料をしっかりと払ってもらう。足を痛めているやつは、ちょっと使えないけど……まあ、色々とできることはあるでしょ」
そんな蝉原の言葉に、滝本が、
「……なんか……ちょっと意外だった。あんなにキレたところ、みたことないし……もしかして、猫とか好きなの?」
「いや、俺は別に」
そう言いながら、蝉原は『子猫の死体』をみつめていた。
「……ギリギリだな」
そういいながら、指先に魔力を集める。
青白い光が漂う。
滝本が、
「? なにしてんの? てか……なんか……ひかってない?」
「ただのおまじないさ。ちょっと光っているように見えるかもしれないけど、それは気のせい。おばけなんてないさ。寝ぼけて見間違えているだけさ」
しばらくすると。
死体がわずかに震えて、そこから小さな光がふわりと浮かんだ。
浮かんだ光は子猫の形になる。
……半透明の。
「今の魔力だと、『意識を回収した霊体』が限界……蘇生は無理っぽいな」
蝉原がため息をつく。
「まあいい」
幽霊子猫が、不思議そうに蝉原を見る。
「うまく俺の魔力を注ぎ続ければ、いい召喚霊獣になるかもしれない」
「にゃ」
子猫は小さく鳴いた。
この子猫の姿が、今の自分と、酷く重なった。
蝉原がいなかったら、お互い死んでいる。
……猫は生き返ったわけじゃない……けど、
僕は……なぜか救われた気分になった。
猫は、当然のように蝉原の肩へ飛び乗る。
「……今日からお前の名はアベルだ」
「にゃ」
幽霊子猫は、満足そうに目を細めた。
「あの……蝉原……何言ってんの? ぶつぶつ……一人で……」
滝本には、アベルの姿が見えていない様子。
……まあ、その方が色々と無難かな。
こんなワケのわからないファンタジーに、滝本を巻き込む必要はない。
彼女にその価値はない。
僕は、蝉原に、
(ありがとう……ごめんなさい)
そう言った。
蝉原は何も言ってくれなかった。
★
バイクでの帰宅を再開すると、途中で滝本が、
「なんで、あんな風に弱いものをいじめるんだろうね。最低」
(僕をイジメてた君がそれ言うのか……)
「でも、スカっとした。蝉原が、あいつらぐちゃぐちゃにしてくれて。……ま、さすがにちょっとグロすぎたけど……でも、死んでないしね。いいんじゃない? やっぱ、蝉原かっこいいよ」
「……」
「やっぱ、蝉原みたいなのって必要だよね。悪を悪で裁くダークヒーロー! 蝉原が、あいつらみたいなクズをまとめて、ビシっと取り締まってくれるから、一般人も安全に生きれるっていうか? だって、あいつら、日本の法だと裁けないじゃん? 動物愛護法? とかあるけど、別に死刑になるわけでも、重たい罰になるわけでもないって聞いたし」
蝉原はしばらく黙って滝本のお喋りを聞いていた。
なんというか『反論するのもばかばかしい』みたいな空気感。
滝本が一通り、喋り終わったところで、
蝉原は、
「……弱い者いじめをしたくなる気持ちはわかるよ」
静かな声で、
「それが人間の弱さだ。みんな持っているものだよ。俺も……君も」
その言葉にビクっと、滝本の肩が震える。
先ほどまでの威勢のよさが霧散する。
そこから、滝本はしばらく無言だった。
しかし、途中で、
「……は……はやく……あのクラスから追い出さないと、あんたが気室に壊されると思った」
「……」
「気室は中学の時から、親の権力をカサに好き放題してた。あいつに追い詰められて自殺した子も何人かいる」
「……」
「逃げて欲しかった。直接かばったら、今度は私が標的になる。だから追い出すしかないと思った」
「……」
「私だって怖かった。怖かったの! 学校ってそういうものでしょ! 猿山のボスに目をつけられたら終わりなの! かばって標的にされて自殺した子もいるの! 私、そんなに悪い?!」
「……」
「何か言ってよ」
「……」
「……ごめん」
聞こえるか聞こえないかくらいの声で、そう言った。
蝉原は、一度鼻で笑ってから、
「俺に謝られてもね」
「……」
「俺は謝罪に意味があるとは思わない。君の言葉が後付けの自己保身か、それとも事実か、それだってどうでもいい。……俺の感想は、『何かしら申し訳ないと思っているのであれば、行動でそれを示すべき』。以上だ」
「……」
「ぁー、あと、二度と俺に説教させるな。面倒くさい。自分の機嫌は自分でとってくれ」
滝本は何も言わなかった。
ただ、涙でふやけた顔を、蝉原の背中に押し付けるばかり。
僕は色々と考えた。
考えて、考えて、考えて……
でも、何も答えはでなかった。




