13話 弱い者いじめ。
13話 弱い者いじめ。
翌日の放課後。
僕と滝本は二人乗りのバイクで帰っていた。
なんだか、すっかりこれが通例になってしまった。
正直、嫌なんだけど。
「ねぇ、ホテルいかない?」
「……いかない」
そんなやり取りをしていた時だった。
路地裏から笑い声が聞こえた。
「ぎゃははは、いいねぇ! 映えてるよぉ!」
「おい、やめろってキモいな!」
「動画止めんなよ!」
妙な空気だった。
僕も滝本も思わず顔を見合わせる。
「……なんか、やばそうじゃない?」
滝本が眉をひそめる。
僕はバイクを止めた。
路地裏を覗く。
数人のヤンキーが集まっていた。
その中央に、『何か』が転がっていた。
一瞬、何かわからなかった。
けれど。
それが小動物だったと気付いた瞬間――
「おぇっ……!」
胃がひっくり返った。
「ぜんぶちゃんと撮れてる? 出せそう?」
「編集次第かなぁ……最近、殺すだけだと再生数、まわらないからなぁ……」
「これ、ネクロリンクにも出そうぜ。ブラックアーカイブだけだと収益少なすぎ」
「ダークウェブ界隈も、もっと集客に尽力してほしいよなぁ」
下品な笑い声。
僕の中で、何かが沸騰した。
壊されたあの子の脆さが、自分の弱さと重なった気がした。
理不尽に痛めつけられる痛みが、記憶の中で逆流して、僕の神経を執拗に逆撫でする。
あの教室。
あの目。
あの笑い声。
気づけば、僕は、ナイフを引き抜いて、走り出していた。
「ぁああああああああああああああああああああああああああああ……!」
声にすらなっていない、自分のものとは思えない音が喉から漏れる。
「ん?」
近くにいたヤンキーの一人が、間の抜けた声をあげてこっちを見た。
僕は、何も考えずに、ナイフを振り上げる。
「うわっ、なんだこいつ!」
大振りすぎる一閃は、あっさりと避けられた。
刃が空を切る。
もう一度。
また避けられる。
ナイフの扱いなんて知らない。
握り方すら、たぶん間違っている。
それでも、僕は振り続けた。
こいつらを殺したかったから。
「ちっ、危ねぇな……」
苛立った男が腕で防御した拍子に、刃先がかすって、薄く皮膚が裂ける。
それだけだった。
致命傷には程遠い、ただのかすり傷。
「いたっ……てめぇ、くそが……」
その瞬間、別のヤンキーの拳が僕の頬に飛んできた。
視界がブレる。
倒れそうになる足を、無理やり踏みとどまらせる。
「クソモヤシがぁ!」
「ふざけんな!」
囲まれて、殴られて、蹴られて。
それでも、僕はナイフを離さなかった。
遠くから滝本の声が聞こえた気がする。
「……ユウゴ!!」
いつも強気な彼女が、何も言えずに、立ち尽くしているのが、視界の端に映った。
正直、色々とどうでもよかった。
痛みはほとんど感じなかった。
ただ、頭の中で、何かが繰り返し叫んでいた。
――殺せ。殺せ。殺せ。
こいつらに生きる価値は絶対にない!!
地面に転がりながらも、僕は、目の前の男の足にしがみつき、ナイフを突き立てた。
「ぎゃああああああ!」
うるさい悲鳴。
まだ足りない。
まだ、終わらせちゃいけない。
僕は、立ち上がりながら、一番近くにいた男の首めがけて、ナイフを振りかぶった。
(――はい、そこまで)
ぐにゃり、と世界が歪んで、力が抜けた。
主導権を、蝉原に奪われた。
(か、返せ……返せよ蝉原! 僕の身体を返せぇえええええええええ!!)
(元気いいね。なにかいいことでもあったのかい?)
そこで、ヤンキーたちが、
「てめぇ、モヤシ、ごらぁあああ!」
「よくも、シンヤくんの足を刺しやがったなぁあ!」
そう言いながら殴り掛かってくる。
「君らもうるさいね。少し静かにしようか」
そう言いながら、神速の合気で制圧すると、
バキバキっと秒速で、彼らの関節を外して動けなくする。
「うがが……」
「ぎぃ……」
そして、そのまま、後ろで見ていた滝本に、
「俺のカバンに小さい救急箱がある。もってきてくれ」
滝本はうなずくと、
そのまま、バイクに積まれている鞄をあさる。
「もしかして、そいつの足を治療するの? いんじゃない、別に……動物をいじめるようなゴミ、どうなったって」
「つい、大人げなくキレてしまった……これはいただけない。ヤクザとしてのマナーがなっていない。俺もまだまだ青いね。反省、反省」
滝本から救急箱を受け取った蝉原は、
カスの足を消毒して止血する。
「失血死はしないだろうが……後遺症が残るかな。でも、まあ、自業自得ってことで」
治療を終えたところで、滝本が、
「こいつら……どうするの?」
「うん? そうだねぇ……」
(殺してよ、蝉原……お願いだ。胸糞わるすぎるよ。こんなゴミども、生きてたって意味ない。こういうゴミ共は、今後も、どうせ同じことをする。反省なんかしない。無抵抗な弱い奴をイジメて殺し続ける……こんなやつら、生きる価値がない)
(生きる価値のあるなしなんて、どうでもいいよ)
そうつぶやいてから、数秒悩み、
「……とりあえず……」
そう言いながら、蝉原は、ヤンキーの一人の口をハンカチでふさいで……




