12話 『ぼく』は……
12話 『ぼく』は……
蝉原は、ニコリと微笑んだ。
「俺……いや……」
一度だけ言葉を止める。
そして、ほんの少しだけ表情を幼く、脆くして、
「――『ぼく』は、ケンカが苦手でね……たまにやりすぎて殺してしまうから。そして、ぼくは弱い者いじめがきらいだ。だから、自分の中にルールを一つ刻んだ」
そう言いながら、蝉原はゆっくりと歩き出す。
誰も動けない。
誰も声を出せない。
ただ一人、蝉原だけが悠然とヤンキーたちの中心へ向かって進んでいく。
やがて、リーダー格の男の目の前で立ち止まった。
「基本的に、やられるまではやり返さない。ただし――やられた分は、極倍にして返す」
次の瞬間だった。
蝉原の手が男の顔面を掴む。
アイアンクロー。
指が顔面にギチリと食い込む。
「がっ――!?」
悲鳴を上げる暇すらない。
そのまま頭を地面へ叩きつけた。
鈍い音が響く。
グシャリ!
と、アスファルトが砕け、男の身体が跳ねた。
後頭部を強打した男は、そのまま白目を剥いて動かなくなる。
蝉原はしゃがみ込み、男の顔を覗き込んだ。
「……ああ、良かった。死んではいないね」
そして立ち上がる。
「殺さずにアリを踏むのは……本当に難しい」
その言葉に、周囲のヤンキーたちは一歩後退った。
さっきまでの威勢はどこにもない。
「て、てめぇ……」
震える声。
蝉原は首を傾げる。
「態度、大丈夫かい? ぼくはもう、自分にストッパーをかけていないよ」
その一言で場の温度がさらに下がった。
誰も動けない。
誰も近づけない。
圧倒的な恐怖だけが、その場を支配していた。
蝉原は、肩をすくめて、
「ハッタリだけで騙される極道なんているわけないだろう。ヤクザをナメちゃいけない」
薄く笑い、
「世のなかは、もっと理不尽に、冷徹に、厳密にできている」
言い終わると同時に動いた。
綺麗な水面蹴りで男の足を払う。
フワリと、男の身体が宙に浮いた。
「死なないでね」
落下してくる頭部。
蝉原は下から上へ、拳を振り抜いた。
すさまじい切れ味のアッパーカット。
「ばぎゃぁああああ!」
うるさい叫び。
けど、砕ける顎の音が少しだけ心地いい。
歯が何本も宙を舞った。
男は血を撒き散らしながら地面を転がる。
まともな悲鳴すら上げられない。
「しばらく喋れないし、流動食生活になるけど……仕方ないよね」
蝉原は心底申し訳なさそうに言ったけど、本心ではなんとも思っちゃいないだろう。
蝉原にとって、ヤンキー連中はそこらを這いつくばる虫けらと同じ。
残ったヤンキーたちは完全に硬直していた。
逃げたいと思っていることだろう。
だが足が動かない。
蝉原に対する恐怖心で一杯になっている。
蝉原は彼らへ向き直り、
そして、いつも通りの爽やかな笑顔を浮かべた。
「明日までに詫び料、百万円持ってきて」
誰も返事をしない。
いや、しないのではなく、出来ない。
「持ってこなくてもいいけど……これは、それで手打ちにしようという、ぼくの心意気だよ」
優しい口調だった。
だからこそ恐怖心をあおる。
「足蹴にしない方がいいと思うけどな。……返事は?」
全員が壊れたように首を縦に振った。
蝉原は満足そうに微笑む。
「うん。物分かりが良くて助かるよ」
そして興味を失ったように彼らから視線を外した。
そのまま滝本の前まで歩いていく。
滝本は黙ったまま蝉原を見上げていた。
蝉原は自然な仕草で手を差し出す。
「さあ、行こうか」
一瞬だけ迷った後、
滝本はその手を取った。
「……ありがと」
顔を少し赤くしながら、小さく呟く。
だが蝉原は首を横に振った。
「感謝は必要ないよ。君を助ける気は一ミリもなかった」
蝉原は一瞬だけ目を細め、
フっと、楽しそうに笑った。
――ちなみに言うまでもないけど、セフィアさんは、遠くからじっと蝉原を見ていた。
……蝉原はすごいよね。
じっと見つめてしまう気持ち、わかるよ。
僕も、見とれていたから。
赤みがかった夕暮れ時、
しなやかな風が僕たちの頬をそっと撫でた。
【自己鑑定結果】
名前:蝉原勇吾
種族:人間
レベル:1
HP:21/21
MP:5/7
筋力:3
耐久:5
敏捷:6
魔力:5
知性:E(A)
悪意:F(S)
根性:F(SS)
IT:F(A)
商才:F(A)
戦力:F(極SS)
心理:F(A)
話術:F(A)
人望:D(B)
謀略:G(極SS)
悪運:超SS(C)
称号:『元いじめられっ子』『宇宙一のヤクザ』
魔法:『自己鑑定』
スペシャル:『皇気』
『威圧覇気』
12話まで読んでいただき、ありがとうございます。
ちょっとでも面白いと思っていただけたなら幸いです。
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