10話 僕。
10話 僕。
翌日の放課後。
僕は滝本に抱き着かれていた。
バイクの二人乗りで帰宅中。
豆腐メンタルの僕では、押しの強い滝本の要求を断り切れなかった。
……蝉原は、いつ、彼女の爪を剥ぐのだろうか……
もしかして、もう、彼女への復讐とかは忘れているのだろうか……
やだなぁ……せめて、一発ぐらい、この性悪女を殴ってくれないかなぁ……
……僕が殴ろうかなぁ……でもなぁ……
「ねえ、どっか寄ろうよ」
「えー……」
断りたかったが、ザコの僕ではそれすらできず、
結局、滝本の希望で、近くのファミレスに入ることになった。
夕方のファミレスは、ほどよく混んでいた。
学校帰りの学生や、仕事の途中らしいサラリーマン。
子供連れの家族もいる。
僕たちは窓際の席に案内された。
滝本はドリンクバーから持ってきたジュースをストローでかき混ぜながら、じっと僕の顔を見ていた。
「蝉原さぁ……なんか、また告られてなかった?」
「え、あ、うん……」
「隙みせすぎ。放っておいたら、女なんて、夏の虫みたいに集まってくるんだから、くるたんびにブン殴って追い払わないと」
許しが出た……よし、ぶんなぐるか……
――と、そこで、僕は気付く。
奥の席に……セフィアさんがいて、こっちを見ていた。
……おいおい……
マジでやべぇな……
そろそろ、僕、刺されるんじゃないか?
などと思っていると、
――その時、ファミレスの入り口が開いた。
ぞろぞろと入ってきたのは、見るからにガラの悪い男たちだった。
金髪、ピアス、改造制服。
店内の空気が一気に固くなる。
その先頭にいた男が、こちらを見た。
次の瞬間、男の顔が怒りに歪む。
「――てめぇ、蝉原ぁ!」
店内に怒声が響いた。
周囲の客が一斉にこちらを見る。
僕は反射的に肩を震わせた。
男たちは、遠慮のない足取りでこちらへ近づいてくる。
人数は十人近い。
先頭の男は、明らかにこの集団のリーダーだった。
「よくも俺らをコミュニティから外しやがったな」
ディアブロコミュニティ。
蝉原が作った巨大反グレ組織。
彼らは、その選考から漏れた暴走族チームなのだろう。
コミュニティに所属することを望むヤンキーはたくさんいた。
蝉原は、その中から、価値のある人材だけを厳選していた。
つまり、今ここにいる彼らは、大したことない人材ということだろう。
彼らの目には、怒りと嫉妬と屈辱が混ざっていた。
蝉原からすれば大した人材じゃない彼らでも、僕からすれば近づくことすら嫌な相手。
僕は何を言えばいいのか分からず、とりあえず小さく頭を下げた。
「こ……こんにちは」
僕にしては上出来なコミュニケーションだった。
蝉原に寄生される前なら、震えてションベンを漏らすのが精いっぱいだっただろう。
僕の態度を『煽り』と取ったのか、
先頭の男の目が、さらに険しくなる。
「表出ろ」
「……いやぁ、それはちょっと、ご勘弁いただければ幸いと言いますか……」
断りたかったが、
腕を掴まれて引きずられてしまった。
相変わらず、僕の弱さはハンパじゃない。
蝉原から貰った世界ナンバーワンの称号は伊達じゃない。
★
ファミレスの裏手は、薄暗い駐車場になっていた。
夕方の光はほとんど届かず、建物の影が地面に長く伸びている。
僕はそこで、男たちに囲まれた。
離れたところで、滝本がこっちを見ている。
逃げ場はない。
目の前の男が、ゆっくりと首を鳴らした。
「さて、落とし前つけてもらおうか。蝉原さんよぉ」
「落とし前……と言われても……な、なにをお望みで?」
恐る恐る尋ねると、先頭の男は鼻で笑った。
「決まってんだろ。俺らをコミュニティに入れろ」
「いやぁ……それは……」
蝉原が弾いた連中を僕が入れるっていうのもなぁ……
なんか、せっかくの美味しい料理に砂を入れるみたいでいやだなぁ……
「なにを、ふにゃふにゃ言ってんだ、てめぇ!」
怒鳴り声と同時に、胸倉を掴まれた。




