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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第五部

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372/373

372 首なし騎士デュラハン

 土埃で汚れた全身鎧。頭部はなく、代わりに青白い炎がメラメラと吹き出ている。

 肝心の頭は床に直置きされ、ミイラ顔で私を見つめていた。

 頭部のない騎士のような鎧……首なし御者や首なし馬車で有名なデュラハンとかいうアンデットの魔物だろうか? いや、もしかしたら鎧を着たただのグールの可能性もある。

 どちらにしろ、頭と胴体が離れた魔物が私に剣を向けている。

 どう楽天的に考えても戦うしかなさそうだ。

 

 私はレイピアを構え、相手の出方を見る。

 首なし騎士は重たそうにロングソードを持ち上げ、一歩踏み込むとそのまま振り下した。

 ガツンとロングソードの刃先が床に刺さる。

 元々距離を空けていたので、急いで躱す必要はなかった。

 再度、首なし騎士はロングソードを持ち上げると、ガチャガチャと私に近づく。そして、ある程度距離が縮むと、重たそうにロングソードを横に振った。

 ブンッと鉄塊のような刀身が目の前を横切る。

 その後も上から下へ、右から左へとロングソードが襲うが、どれも距離が空いているので、ヒヤリとすることはなかった。


 うーん、どういう事だろうか?


 重々しいロングソードの攻撃。まともに当たれば、吹き飛び、骨が折れるだろう。

 だが、距離を空けているので、まったく当たる気配はない。

 方向は合っている。ただ、距離感がまったく出鱈目。

 戦闘している相手に駄目出しをするのもどうかと思うが、完全な拍子抜けであった。


 それならそれで、私は距離を空けつつ攻撃をする。

 ガチャガチャと重そうに近づく首なし騎士に、私もレイピアを空振る。

 ブンッと振ったレイピアから光の刃が飛び出し、首なし騎士の胴体に当たる。


「……嘘っ!?」

 

 光刃が当たった箇所は傷一つ付いていない。

 それならと、首なし騎士に向けて大きく踏み込むと、レイピアを一直線に突いた。

 

「これも駄目!?」


 ガツンとレイピアの刃先が鎧に当たるが、傷はおろか、へこみすら付かない。

 バチバチと刀身にスパークが流れているので魔力は足りている。つまり、首なし騎士の鎧は、魔力入りのレイピアよりも硬いようだ。

 まぁ、相手の攻撃を守る為の鎧だ。鎧ごと断ち切るなんてアニメや漫画の世界だけである。

 関節などの隙間を狙えば何とかなるかもしれないが、そんな器用な真似、私には出来ない。


「あっ、ヤバい!」


 ロングソードが持ち上がったので、急いで後方へ退く。

 目の前をロングソードの刀身が横切り、嫌な汗が噴き出す。

 危ない、危ない。

 距離感が無いとはいえ、わざわざ私の方から近づかない方がいい。


 やはり、遠距離からチマチマと攻撃するしかないか……魔力は足りるかな?


 ……いや、違う。

 無理して鎧で固めている胴体を狙う必要はない。もっと狙いやすく、致命傷を与えられる箇所があった。

 チラリと置き去りにされているミイラ頭を見る。

 グールの親戚みたいな魔物で、頭を攻撃しても意味はないかもしれない。だが、このまま胴体とやりあっても、突破口が見えないので試してみる価値はある。

 狙いは頭だ。

 都合の良い事に首なし騎士の頭部は床に置きっぱにされている。あそこまで行けば、チクチクと刺し放題だ。

 そう思い、再度、ミイラ頭を見る。向こうも私を見ている。

 お互いに視線を交えていると、遮るように胴体が間に入り、ロングソードを振り払った。

 急いで後ろに下がり、ロングソードの攻撃をギリギリで躱す。


 今のは危なかった……ああ、そういう事か。


 距離感が無い理由が分かった。

 胴体の方は、見えていないんだ。

 首なし騎士はグールと違い、魔力ではなく視力で相手を見ている。

 その視力は攻撃をする胴体ではなく、私たち人間と同じ頭の方で行っている。

 つまり、離れた場所に置かれているミイラ顔が私を見ながら、胴体を操っているのだろう。その為、おおよその位置は分かるが、細かい距離までは分からないので、空振りばかりしてしまうのだ。

 

 やはり狙いは頭だ。

 私は首なし騎士を中心に円を描くように移動する。

 首なし騎士は様子を見るように攻撃をしてこない。それを良い事に私はぐるりと半周し終える。

 今私は首なし騎士とミイラ頭に挟まれた位置にいる。非常に良い場所だ。

 すぐさま踵を返し、ミイラ頭に向けて走り出す。

 背後からガチャガチャと私を追い掛けてくる音が聞こえる。だが、相手は遅いので追い付かれる事はない。余裕でミイラ頭を攻撃できる。

 そう思っていたら背後から風を切る音が迫ってきた。

 何かヤバそう!? と振り返ると、土埃を巻き上げながら見えない何かが来ていた。

 すぐさまレイピアを構え防御する。


「……ぐはっ!?」


 壁にぶつかったような衝撃が襲い、吹き飛ばされる。

 ドスンと床に落ち、一瞬、息が止まる。

 何が起きたのか分からないが、すぐに立たなければ……と足に力を入れるが、思うように力が入らない。今、攻撃されたらお終いだ。

 首なし騎士はゆっくりと私に近づくと、動きを止めた。

 

 床を転がれば攻撃を回避できるか? それとも駄目出しで光刃を放つか?


 どうすれば助かるか、判断出来ないまま首なし騎士を眺めていると、当の首なし騎士はクルリと体の向きを変え、行ってしまった。


 どういう事? 見逃してくれたの?


 私がほっと胸を下していると、首なし騎士は階段を上がり、ミイラ頭の元まで向かう。そして、ガシッとミイラ頭を掴むと青い炎が揺らめいている首元に乗せた。

 

 えっ、それ装着できるの!?


 首なし騎士は頭の状態を見るように右へ左へと動かし、調子を確かめる。そして、満足いくとロングソードを床に刺し、両手を添えて仁王立ちした。

 騎士道の一環か、私が回復するまで待っているようだ。

 それを良い事に私はのんびりと休憩すると、ゆっくりと立ち上がる。

 首なし騎士……いや、頭を装着したミイラ騎士は、ロングソードを引き抜くと構えた。

 第二形態と化したミイラ騎士。これから距離感も修正され、確実に斬りかかってくる。

 経験も実力もない私では近距離での剣戟は自殺行為。遠くから光刃を放っても鎧に傷を付ける事も出来ない。弱点と思われる頭部は、胴体とくっ付いているので、それを狙うのも至難の業。

 私が出来るのは一つ。


 逃げる事だ!


 回れ右をすると、広場の奥へと走り出す。

 騎士道精神を見せてくれたミイラ騎士には悪いが、いちいち真正面から戦ってられん。

 脱兎の如く逃げる私の背後から風を切り裂く音が迫る。

 すぐに横へ避けると、見えない何かが土埃を巻き上げながら通り過ぎていく。

 ミイラ騎士は上段に構えたロングソードを力強く振り下ろすと、剣先から何かが飛び出し、再度、私に向かってきた。

 私は横に転がって避けるが、完全に避けきる事が出来ず、壁にぶつかったかのように吹き飛ばされた。

 

 くぅー、痛い……。

 これはあれだ。

 衝撃波だ。


 鋭く振り下ろした剣先から出た衝撃が地面を走ってきているのだろう。

 直撃を免れた私は、急いで立ち上がり、次の衝撃破に備えて体を低く保つ。

 だが、ミイラ騎士はロングソードを持ち上げる事はせず、代わりに左手を付き出した。

 ボンッと左手から黒い塊が飛び出す。


「うわっ!?」


 危険を感じて柱の影に隠れる。

 黒い塊は床に当たるなり四方へ飛び散り、炎のようにメラメラと燃えていた。

 黒い炎……魔法か魔術か分からないが、騎士の割に芸達者のようだ。

 柱に隠れた私を取り囲むようにボンボンと黒い炎が床を覆い始める。

 このままでは足場がなくなり逃げ続ける事が出来なくなる。そうなる前に対処しなければいけない。

 まともに当たれば酷い事になる黒い炎だが、生憎と放たれる速度は遅い。

 私は柱の陰から飛び出すと、レイピアを構えスパークを走らせる。そして、ボンッと放たれた黒い炎に向けて、斬りつけた。

 スパッと輪切りにした黒い炎は、飛び散る事なく塵のように消えてなくなる。

 

 うむ、魔力を無力化するレジスト能力は健在。


 その後もミイラ騎士から放たれる黒い炎を難なく消していく。


「しつこい!」


 黒い炎が途切れたタイミングで光刃を放つ。

 ミイラ騎士の頭部に向けて飛んだ光の刃は、手甲によって防がれた。


 やはり光刃は期待できない……って、熱い熱いっ!?


 床を焦がしていた黒い炎が私の靴を焼いていた。

 すぐにバシバシとレイピアで叩き、レジストしていく。


  

 ―――― 前方注意 ――――



 えっ、前方が何だって? って、ミイラ騎士が来ていた! って、少し動きが良くなってない!?

 私はすぐに左手に魔力を集め、光の弾を放つ。

 迫りくるミイラ騎士に閃光弾が破裂するが、動きは止まらない。


 視力で感知しているのに目潰しが利かない!? さらにアンデッドなのに瘴気すら払えない!?


「うわっ!?」


 柱の陰に飛び退くとガツンとロングソードが柱に突き刺さる。

 地を這うように柱を回って、距離を空ける。


 どうすれば良いの!? 打開策がまったく思いつかない!



 ―――― 魔力を当てようねー ――――



 ネズミのように逃げ回っている私に『啓示』から助言が出るが、まったく意味が分からない。

 魔力を当てるって何? さっき閃光魔力弾を当てたけど、意味がなかったよ!

 

 

 ―――― 魔力を当てようねー ――――


 

 再度、『啓示』から同じ言葉が流れる。

 

「もう、これならどうだ!」


 クルリと向きを変えた私は、迫りくるミイラ騎士に光の弾を放つ。

 光の弾は強い閃光を走らせる事なく、ベチャリとミイラ騎士の鎧にへばり付いた。

 粘着魔力弾。

 暗闇を照らしたり、虫を集めたり、ロックンを綺麗にする魔術。効果は期待できない。

 予想通り、粘着魔力弾をくっ付けたミイラ騎士は、痛がる素振りすら見せない。

 それだけでなく、へばり付いた粘着魔力弾はスルスルと鎧の隙間に吸い込まれ、ミイラ騎士の顔がツヤツヤし始めた。


 ミイラ騎士の腕が伸びる。

 また黒い炎か? と思ったが、今度は黒でなく光の弾だった。

 どんな効果の攻撃だ? レイピアで斬っても良いのか?

 どうしよう、と判断に迷っていると、光の弾は私の元に辿り着く前に床に落ちた。


「……っ!?」


 ピカッと薄暗い広間に閃光が走る。

 

 閃光魔力弾!?

 このミイラ騎士、普通じゃない!


 私の閃光魔力弾よりも各段に威力は弱いが、それでも私の視力を一瞬だけ奪う。その所為で、ミイラ騎士の接近を許してしまった。

 白濁とした視界の中、ロングソードが持ち上がる気配がする。

 急いでレイピアから光のカーテンを作り出す。

 

「……ぐはっ!?」


 ロングソードがぶつかると、ガラスが割れたように光のカーテンが粉々に砕かれ、吹き飛ばされた。

 ガツンと柱にぶつかり、床に倒れ、息が漏れる。

 床に倒れた私にミイラ騎士は、ゆっくりとロングソードを持ち上げた。



 ―――― 魔力を溜めてねー ――――



 痛みで視界が歪む中、体全体に魔力を流す。

 振り下ろされたロングソードは、私の横を通り過ぎ、床を抉る。

 

 体がダブって見える魔術が発動した!

 痛がっている時間はない!

 目の前にいる今がチャンスだ!


 ロングソードを振り下ろした体勢で止まっているミイラ騎士に向けて、レイピアを突きつけた。

 ガスッとミイラ騎士の首元にレイピアが刺さる。

 本当は顔に刺すつもりだったが、痛みと視界不良でずれてしまった。

 だが、それでもいい。

 喉元を刺しても痛がる素振りを見せないミイラ騎士に、レイピアを通じて魔力を流す。

 閃光魔力弾や粘着魔力弾では瘴気を払う事は出来なかったが、内側から払ってレジストしてやる。そうすれば、ただのミイラになるだろう。


「……って、マズい、マズい、マズい! このままじゃマズい!」


 魔力を流してレジストするつもりが、逆に強制的に魔力が吸い込まれていく。

 グングンと魔力を吸収しているミイラ騎士の顔が見る見る内に人間ぽくなっていく。

 悪手だった。

 ミイラ騎士を弱らせるつもりが、逆に強くさせている。

 魔力の流れを止めようにも、掃除機に吸われるように無理矢理流されていく。さらにレイピアから手が離れない始末。

 

「……うっ!?」


 視界が歪み、頭痛が起きる。

 謎の魔石に魔力を流しているので、あっと言う間に魔力の底がつきかける。

 完全に魔力を無くせば、気を失なってしまう。そうなれば、意識のないままミイラ騎士に殺されるだろう。


 何としてでも離れなければいけない!


 だが、力を振り絞ってレイピアを引き抜こうとするが、やはりビクともしない。

 それだけでなく、ミイラ騎士がレイピアを握り、抜かせまいとしている。

 ガツンと頭に痛みが走り、ガクンと力が抜ける。

 耳の奥からキーンと音が鳴り響く。

 視界が白く染まり、意識が薄れる。

 頭が垂れ下がり、鼻から流れる血液が床に落ちる。

 

 もう顔を上げる事すら出来ない。

 痛みすら感じない。

 それでもレイピアから手が離れず、残り僅かの魔力が無くなっていく。


 意識が途切れたら終わり。

 もう目覚める事はない。

 嫌だとは思いつつも、もう抗う力と気力はない。


 そして、何も出来ぬまま意識が途切れてしまった。


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