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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第五部

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373/373

373 合流しよう

 いつからここにいるのだろうか?

 気が付いたら空を眺めていた。

 床に寝転がり、何も考えず、何もない空を見つめている。

 明け方だろうか? 星一つない漆黒の空に薄日が僅かに差している。

 ただ、あまりにも静かだ。人や生き物の気配がない。匂いも一切ない。

 私だけがこの場所にいる……そんな錯覚が起こるほど何もなかった。

 だが、怖くはない。不安もない。疑問も起きない。

 こういう場所なんだと、素直に納得している。

 

 ここは何処なんだろう?


 むくりと立ち上がる。

 

 ん? 変な感じだ。


 どうやって立ち上がった?

 床に手を付いたり、上半身を持ち上げたりしていない。

 立ち上がろうと思ったら、いつの間にか立ち上がっていた。

 

 何気なく右手を見る。

 何もない。 

 目の前に手をかざしているつもりだが、床しか見えない。

 

 ……ああ、見えない筈だ。肉体が無いんだから。


 意識だけがここにある。

 肉体があると思ったのは、今までの経験からくる錯覚だ。

 なるほど、なるほど、と勝手に納得する。


 でも、どうして、こうなった?

 

 しばらく考える。

 考えて、考えて、考えて……長い時間かけて無い頭を動かすが答えはでない。

 

 まぁ、良いか。


 きっぱりと諦めた時、すぅーと暖かい風が体を通り抜けていく。

 そこで思い出した。

 ミイラ騎士との戦闘で魔力を吸われ、意識を失った事を……。


 私……死んだのか。


 どうりで肉体が無い訳だ。

 今の私は霊魂だけの存在。そして、今いる場所はあの世である。

 うん、納得。

 今まで何度も死にかけたが、その都度ギリギリで生き残ってきた。だが、今回だけは上手くいかなかったようだ。人生、何度も上手くいかないものである。

 まぁ、仕方ないよね、と納得する。後悔はない。不満もない。憤りもない。

 肉体を捨てた所為か、何も思わない。

 何も思わないが、チラチラと少女たちの顔が浮かぶ。

 エーリカ、ティア、リディー、フィーリン、アナ……。

 実の親の顔でなく、異世界で出会った人たちの顔が現れては消えていく。

 私が死んだ事でエーリカは泣くだろうか? うーん、泣き顔が想像できない。

 ティアの泣き顔も想像できない。……いや、アナの生い立ちを聞いた時、泣いていたな。だいぶ演技が入っていたけど……。

 リディーは決して人前では泣かないだろう。そして、一人になった時、声を殺して泣くのだろうな。うん、そう言う設定にしておこう。

 フィーリンは……分からん。馬鹿みたいに酒は飲みそうだ。

 アナは絶対に泣く。しくしくと泣く。そして、不健康な顔に逆戻りである。

 ロックンは泣かない。そんな機能はないからね。


 私の為に悲しんで泣いてくれるのは嬉しい。だが、それ以上に申し訳ない気持ちが強い。

 出来れば笑っていてほしい。

 だが、それを伝える術はない。

 死んでしまった私に出来る事はもうないのだ。

 

「祈りを……魔力を……」


 何処からか声がした。

 声の出所を探す。

 デコボコの激しい狭い床。壁のように降る小雨。微かな明りが混ざっている漆黒の空。


 この景色、見覚えがある。

 一度、この場所に来た事がある。

 

「祈りを……魔力を……」


 この声も聞き覚えがある。

 えーと……。

 あっ……思い出した!

 ここは夢の中だ!

 時たま見る夢。意味の分からない夢。起きたら忘れてしまう夢。

 ここが夢の中だと言う事は、つまり……


 私、死んでない?



 ………………

 …………

 ……



「……はっ!?」


 薄い光を放っている天井が視界に入る。

 背後には魔石が納まっている石の祭壇。奥には柱が連なっている。

 ミイラ騎士と戦った広間だ。


「痛っ!?」


 ズキリと頭痛が走る。体が重く、気だるい。

 だが、何とか動ける。

 どのぐらい気を失っていたのか分からないが、寝ていたおかげで魔力は回復していた。


 それにしても、何で私は生きているのだろうか?


 魔力切れで意識を失ったのだ。止めを刺すには絶好のタイミングである。

 それなのに私は今も生きている。

 止めを刺す価値もなかったか? もしくは、無抵抗の相手は殺さない騎士道精神か?

 この場にミイラ騎士が居れば聞けたのだが、生憎とミイラ騎士の姿は見かけない。どこに行ったのだろうか? まぁ、居ても困るけど……。

 どちらにしろ、生き長らえた。

 それで良しとしよう。


 ゆっくりと立ち上がると、クラッと立ち眩みが起きる。まったく本調子ではない。

 もう少し寝ていたいが、いつミイラ騎士が戻ってくるか分からないので、悠長に惰眠を貪っている暇はない。

 鞘に収まったレイピアが床に置かれている。

 何で鞘に入っているの? そもそも、ここで倒れたっけ?

 今いるのは祭壇のある一段上がった場所。ミイラ騎士が最初に居た場所である。

 もしかして、わざわざ運ばれて寝かされた?

 ますます意味が分からない。

 クラクラする頭で考えても答えは出ないので、さっさとこの場から離れよう。……と思ったが、出入口はなかったんだった。

 どうしようかな? と悩んでいると、奥から風が流れている事に気が付いた。

 私は連なる柱の間を通り、反対側へと向かう。

 

 出口発見。


 壁の一部が左右に移動し、ぽっかりと穴が空いていた。

 最初に見て回った時にはなかった。つまり、ミイラ騎士の姿が無い事から彼が何らかの方法で開けたのだろう、と結論ずける。

 

 穴を通った先は通路であった。

 ただ明りは一切無く、一歩も進む事が出来ないほどの暗闇が支配していた。


 下手に進んだら絶対に迷子になるな。


 松明を作ろうにも火打ち石を持ってきていない。

 広間の床や天井の破片をばら撒けば道しるべになるかと思い拾ってみるが、破片自体光を発していない。

 

 仕方ない。

 あまりやりたくないが……。


 私はレイピアを引き抜くと魔力を流した。

 ズキリと頭が痛み、眉を寄せる。

 徐々に刀身が光を帯びていき、暗闇の坑道を照らしていく。

 頭痛はするが、レイピアに魔力を流す程度なら余裕がある。

 レイピアをかざして、坑道内を見回す。

 天井と壁を支える支保が腐って崩れている。また壁の土が崩壊していたり、天井から落ちた石が散らばっているあたり、この通路は使われなくなった古洞かもしれない。

 通路は左右に伸びており、先が見えない。

 どちらに進めば良いか分からないが、比較的、道が良さそうな方に進んでみた。

 レイピアで道を照らしながら、慎重に進んでいく。

 空気が重く、土臭い所為で、余計に気分が悪くなっていく。辺り一面暗闇で、圧迫感も半端ない。そんな状況での一人っきり。炭鉱経験がなければ、今すぐ広間に戻って、助けが来るまで震えていただろう。

 ただ経験があるとはいえ、怖いものは怖い。不安と恐怖で押し潰されそうになる。

 そういう事もあり、暗闇の先から人の歩く音が聞こえた瞬間、駆け出してしまった。


 デボラたちが探しに来てくれた!


 淡い希望を胸に駆け寄ると……歩く骨だった。

 錆びた剣と壊れかけの丸盾を持ったスケルトンが一匹。

 魔力の乏しい状態で倒せるか? それとも逃げた方がいいか?

 一瞬悩んだ私は、レイピアを強く握り締めた。

 この先からスケルトンが来たという事は、本道がある可能性が高い。それにここのスケルトンは武器を捨てて、抱き付いてくるだけ。今の私でも何とかなるだろう。

 痛む頭を我慢しながらレイピアを構えると、スケルトンも剣と盾を構え、眼窩の奥を赤く光らせた。


 うわっ、普通に戦う気だ!


 スケルトンの剣が上段から斜めに振り下ろされる。

 私は距離を空けて避ける。

 スケルトンは距離を詰めると剣を横に振ったり、突いたりする。

 私は冷静に避けたり、レイピアで弾いたりする。


 あれ、私、それっぽい戦いをしている。


 それもその筈、スケルトンは強くなかった。

 力も速度もない。攻撃も単調で、ただ剣を振り回しているだけ。

 身長も良い感じなので、ちょこまかと動くゴブリンよりも戦いやすかった。

 

「はっ!」


 タイミングを見てレイピアを振る。

 ガツンと丸盾で防がれるが、そのまま肩をぶつけて、スケルトンの体勢を崩した。

 トトトッと後退するスケルトンに、すぐさまレイピアを振って、腕を斬り落とす。

 ボトッと剣ごと落ちたスケルトンの腕は、磁石で引っ張られるようにすぐさま元に戻ってしまった。


 やはり、瘴気を払わないと元に戻ってしまうか。


 だからと言って、魔力不足の今、光の魔力弾は使いたくない。

 それなら……。

 私は再度スケルトンの攻撃を避けつつ、タイミングを計る。


 良し、きた!


 大振りの攻撃を避けると、スケルトンの足を蹴っ飛ばして転ばした。

 地面に倒れたスケルトンはバラバラに散らばるが、すぐに元の姿に戻る。

 

「逃がさん!」


 コロコロと胴体に戻ろうとするスケルトンの頭蓋骨を踏み付け、動きを止める。

 このまま足に力を入れても魔力強化されていて壊れない。だったら突いてやる。

 眼窩に向けてガスッとレイピアを突き刺す。そして、レイピアに魔力を流し続けると、赤く光るスケルトンの目が次第に消えていき、動きを止めた。

 

 勝った!


 私、強い。

 スケルトンなど恐れるに足らず。

 省エネ魔力でスケルトンを倒せる方法も見つけたし、このまま進むぞ!

 勝利に高揚した私は、痛む頭を無視してズカズカと坑道内を進む。

 すぐさま前方から足音が響くと、「うおぉー!」と駆け出した。

 そして……


「……うわぁー、来ないでぇー!」


 すぐさま逃げ帰った。

 背後から四体のスケルトンが追い掛けてくる。

 一対一ならまだしも、数体を同時に相手は出来ん。

 私は痛む頭に苦しみながら元来た道を戻り、広間を通り抜け、さらに奥へと行ってしまった。



 ………………

 …………

 ……



 スケルトンたちを撒いた時には、完全に迷子になってしまった。

 どうにもならず泣きそうな私を見兼ねて、『啓示』から指示が流れ始めた。

 右へ、左へと『啓示』の指示通り坑道内を進むと、ようやく光が漏れる通路に出る事が出来た。

 

 あっ、いた!


 通路に出た先は採掘現場らしく広々としており、至る所に壁に穴が開いていた。

 そこにデボラ、リタ、コニー、さらにマリーの姿があった。


「マリー、無事だったか!?」

「心配したわよ!」


 採掘現場の奥にいるマリーにデボラとリタが駆け寄る。


「やはりデボラなら来てくれると思ったわ」

「当たり前だ。私たちは仲間なんだ。一人で危険な目に遭わせない」


 安心したデボラは落ちていた杖をマリーに渡す。

 だがリタは、マリーの顔色を伺いながら「どういう事?」と尋ねた。


「マリー、あなたの残した木札には、私たちに助けを求める事は書いていなかった。それなのに何で私たちが来ると思ったの?」


 不審に思ったリタがマリーに尋ねる。

 確かに不自然な言い回しだ。

 マリーが書いた木札には、母親と二人だけで瘴気の原因を解決する、と書いてあるだけ。私たちの助力など一切書いていない。


「お母さまと私は一足先にやる事があったの。その後であなたたちも必要だった。だから、木札を残したの。あのように書いておけば、デボラなら必ずみんなを連れて来てくれると信じていた。やはり、私の見込み通りだったわ」

「何を言っているんだ?」


 理解が追い付いていないデボラにマリーは「ふふふっ」と笑う。


「デボラ、あんたは本当に馬鹿が付くほどのお人良しね。おかげで計画通りに進んで安心したわ」


 マリーの声のトーンが上がり、雰囲気が変わった。


「お前、本当にマリーか?」

「ええ、安心して。私は今も昔もローゼマリーよ。まぁ、あなたたちと会う時は演技をしていたけどね」


 そう言うとマリーは、深々と被っていたフードを外し、ゆっくりと長い前髪をかきあげた。

 勝気な目、つり上がった眉、ニヤリと笑う口元。どこか危険な雰囲気が漂っている。

 口数が少なく、常にデボラたちの背後にいる大人しい女性がマリー。そう私はイメージしていた。だが、今のマリーは真逆な雰囲気がある。

 デボラとリタも私に近い感情を抱いたようで、どう反応すればいいか戸惑っている。

 そんなデボラたちを見てマリーは「ふふふっ」と笑うと、長い杖を構えた。


「デボラ、マリーから離れて!」


 リタの忠告も虚しく、デボラから嗚咽が漏れる。


「これは生贄を連れて来てくれた感謝の気持ち。苦しまずに殺してあげる」


 杖の先端から伸びた黒い刃がデボラの胸を貫いていた。


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