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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第五部

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371 鎧と祭壇

 視界が歪み、意識が混濁する。体の中に風が通り抜け、体が消えていく錯覚を起こす。

 気持ち悪さに顔を歪ませていると、一瞬、頭のスイッチが消えたかのように真っ黒に染まり、浮遊感に襲われた。


「……痛っ!?」


 数十センチ上から地面に落ち、お尻を打つ。

 痛みで意識と視界が戻る。

 

 一体、何が起きたの!?

 

 私はお尻を摩りながら周りを見回す。

 広々とした空間。綺麗に均された床と壁。天井は五メートルほどもあり、丸く磨かれた柱が等間隔に立ち並んでいた。

 先程までいた場所とは明らかに別の場所である。ただ床や壁や天井が淡く光りを発している事から場所が違うだけで、坑道内の何処かであった。

 今この場にいるのは私だけ。目の前にいたコニーたちの姿はない。背後にいたスケルトンもいない。

 

 どうして、別の場所にいるの?


 床に倒れた時、穴があって落ちたのかな? と思い、天井を見上げるが、特に穴らしい穴はない。

 それなら壁のような扉があって、体をぶつけた衝撃でクルンとこの部屋に入ったとか? と思い、壁を触るが、ただの壁だった。

 それなら気を失っている間にスケルトンがここに運んだのだろうか? と思ったが、気を失ったのはほんの一瞬。これは感覚的に分かり、運ばれれば気が付いただろう。

 

 うーん……分からん。


 一瞬で別の場所に移動した感じ。まるでこの世界に強制転移された時みたいだ。

 ……ああ、そうか。強制転移だ。

 床に浮かんだ魔法陣、薄れる意識と視界、ふわっとする浮遊感。

 教会の連中に無理矢理転移された時と同じ現象だ。


 でも何で転移した?


 床に仕掛けられていた罠が発動したのか? それともスケルトンの能力か? または別の者の仕業か?


 うーん……分からん。


 どちらにしろ、今考えた所で答えは出ない。

 今やるべきはこの広間を出て、デボラたちと合流する事だ。

 お尻の痛みが引いた私は、広間の中を注意しながら歩く。

 幸いここも瘴気が無いので、魔力は使える。いつ魔物が襲ってきてもいいようにレイピアを構えながら進む。

 長く続く空間に等間隔で柱が立っている事からまるで教会の身廊みたいである。

 場の雰囲気も厳かで、何処となく神聖な感じもする。とはいえ、柱ぐらいしかない広場で、肝心の扉は一切ない。

 焦りを感じながらさらに奥へと進むと、広間の突き当りまで辿り着いた。

 

 怪しい……。


 床が一段高くなっていて、数段だけの階段が付いている。その階段の横には明りを灯す火鉢のような物が置かれている。さらに階段を上り切った先には、狛犬のような訳の分からない動物の石造まで設置されていた。

 なにやら特別な場所のようである。

 特に危険な気配もないので、コツコツと階段を上がっていく。 


「えっ? ここって……お墓?」

 

 上った先にはプレートアーマーと呼ばれる全身鎧が床に置かれていた。

 長年放置されていたのだろう土塵が積もっている。ただ鎧自体は傷やへこみが一切なく、所々意匠を凝らした模様が刻まれていた。

 見れば分かる。立派な鎧だ。もしかしたらどこぞの国の騎士様の鎧だろうか?

 そんな全身鎧はお祈りをするように手を組みながら上向きにされている。まるで眠りについているかのようである。

 私がお墓と思ったのは、体を守る甲冑と頭を守るヘルムが離れており、肩の横に置かれている。そのヘルムの中に人の頭が入っていたからだ。

 カチカチに乾燥した人の顔。一見、木を削って作ったかのようなミイラ。年齢も性別も分からない。ただ穏やかな表情で目を閉じている所為で、体同様、眠っているように見えた。


 一応、手を合わせておこう。


 目を瞑り、心の中で弔いの言葉を告げると瞳を開ける。そして、死体の先に視線を向けた。

 問題はあれだね。

 死体の奥に祠らしきものが置かれている。

 長方形の石台の上に小さな石の箱が鎮座している。その箱の中に真っ黒に染まった丸い石が置かれていた。

 

 これって、あれだよね?


 行く先々で見かける魔石。

 『啓示』がやたらと魔力を流せと指示してくる物。

 やはり、この石にも魔力を流した方が良いのかな?



 ―――― 魔力を流してねー ――――



 珍しく私の問いに答えた『啓示』。一体、『啓示』は何が目的で私に魔力を流したがるのか? そもそもこの魔石は何なのか?

 その辺の事も聞いてみたが、返答は一切ない。いつもの事である。

 もしかして、この魔石が瘴気の原因だったりしない? 坑道内に瘴気が無い事から魔力切れで、私が再度魔力を満たした事で、瘴気が溢れ出たりしないかな?

 うん、そうだよ。そうに違いない。

 だって、目の前に鎧を着た死体があるんだよ。

 魔石から溢れた瘴気に当てられ、死んだんだね。間違いない。まぁ、首と胴が離れているのは、意味不明だけど……。

 私の推理は当たっているよね、『啓示』さん?



 ―――― ………… ――――



 うん、返事なし。図星のようだ。


 まぁ、どちらにせよ、魔力を流せと『啓示』が言うならやるしかない。そのぐらいの信頼感は『啓示』に対して持っている。魔力を流した事で良くない事が起きたとしても、最終的には私の得になるのだろう。


 私は全身鎧の死体を迂回して、祭壇の前に移動する。

 問題はどうやって魔力を流すかだ。

 魔力を流す事自体は簡単。指先を触れるだけで勝手に吸い込んでくれる。それはもう掃除機の如く、グングン吸い込んでいき、私が干からびて新しいミイラが出来るまで終わらないだろう。

 そうなる前に誰かが私を引き離してもらう必要があるのだが、今は誰もいない。

 私一人で離す事は出来るだろうか? 

 うーん、今まで経験上、無理そうな気がする。


 良し、決めた!

 魔力を流すのは止めよう。危険すぎる。と言う事で、さようなら。



 ―――― 魔力を流そうねー ――――



 私が回れ右をすると、すかさず『啓示』からストップがかかった。

 『啓示』は私に自殺しろと言っているのだろうか?



 ―――― ここから出られないよー ――――



 なんと!?

 この部屋から出るには、魔石に魔力を流す必要があるとは!?

 計ったな、『啓示』さん!


 しばらく悩んだ末、私はレイピアを鞘ごと抜いた。

 ズシリと重いレイピアの刀身を左腕に乗せ、ゆっくりと指先を魔石に近づける。

 恐る恐る左手の人差し指を魔石に触れると、体中に巡っていた魔力が指先に集まりだす。


「くっ……」


 グングンと指先から魔力が吸い出されていく。

 乾いた土に水を差すようにカラカラの魔石に私の魔力が入ると、真っ黒だった魔石が徐々に透明になっていく。


 これ以上は駄目だ!


 すぐさまレイピアを握る手を緩める。ズシリとレイピアの重みが左腕に圧しかかり、ズルッと指先が離れた。

 頭がクラクラし、頭痛が襲う。

 この魔石、実は罠なんじゃないだろうか?

 魔石に触れたら最後、魔力を全て奪い、殺してしまう悪質な罠。

 そのぐらい強制的に魔力を吸い取られてしまった。

 ただその分、黒く濁っていた魔石は濁りのある透明な魔石に変わっている。さすがにピカピカにするほど私の魔力はないので、『啓示』にはこのぐらいで満足してもらう。


 さて、魔力を上げたし、みんなの元へ帰ろうかな、と周りを見回すが、特に扉が開いているとか、魔法陣が浮き上がっている事はなく、出口らしい場所は見当たらなかった。


 魔石に魔力を注げば、出られると言ったのに……もしかして、『啓示』に騙された?

 疑われたくなかったら、もっと細かく説明しろ! と『啓示』を問い質していると……


「……えっ?」


 ……目が合った。

 そう、目が合ったのだ!

 床に置かれているミイラの頭。そのミイラの目が開き、私を見ていた。


「……ひっ!?」


 飛び退くように死体から距離を空けると胴体の方も動き始めた。

 ズズッと上半身が持ち上がり、体に積もった土塵がパラパラと床に落ちる。

 ただの死体だと思っていたが、そうではなかった。

 これまでレイスやグールやスケルトンがいたのだ。この死体も魔物の可能性として考えるべきだった。

 でも、どうして今頃になって動き出したのだ?

 考え付くのは、私が魔石に魔力を流した事。


 やはり、罠だった! 『啓示』さんめー!


 恨み辛みを募らせる私の前に鎧はゆっくりと立ち上がる。頭部はそのまま床置きである。

 さらに距離を空け、レイピアを強く握る。

 完全に立ち上がった鎧は背中に手を回すと、長く太い剣を抜いた。

 長さ八十センチほどのロングソード。こちらも土埃を被っているが、刃先は鋭く、素人目でも業物と分かる。

 技術も経験も腕力も体力もなく、さらに魔力を大量に無くなった私に対処できるだろうか?

 不安と恐怖を抑え込みながらレイピアに魔力を流す。


「……ん?」


 首無し鎧はガスッとロングソードを地面に突き刺した。そして、両手を柄に沿えて仁王立ちする。その横でミイラの頭が私に視線を向けながら口をバクバク動かしていた。

 何かしゃべっているようなのだが、首が無い所為で言葉は聞こえない。


 何がしたいのだろうか?

 殺気とかはまったく感じないので、もしかして、戦う気はないのだろうか?

 それならそれで嬉しいのだが……。


 そう思うのも束の間、首無し鎧は地面からロングソードを引き抜くと、私に向けて構えた。そして、無い首の所から青白い炎がメラメラと揺れ始めた。

 やはり、戦う気みたいだ。

 正直、戦いたくない。この場から逃げたい。

 でも、この空間に出口がないので、逃げたくても逃げられない。

 戦うしかないようだ。


「ふぅー……」


 大きく深呼吸をすると、首無し鎧と対峙した。


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