011 ダメな大人
屋敷に帰るまで、洞窟に行く時間のゆうに倍以上はかかった。理由は簡単だ。ダメな大人がバディの取り合いをしたからだ。
「やっとついたー。」
普段なら走って10分もあればつく距離を、なぜ1時間かけて歩かなければいけないのだろうか。」
本気で疑問を感じながら、遅かった原因に目をやると、またしても醜い大人の喧嘩が始まっていた。
「だからナターシャ! まだ僕の番だってば。」
「いえ、あなた。あの協定は家に着くまでだったはずです。それなら屋敷の敷地内に入ったら協定終了じゃないでしょうか?」
原因は相棒である。
「ほら、バディちゃんも私の方に来たがっています。」
「そんなズルをしてバディを誘惑するとは、ダーシャに言いつけるんだからね。」
左手に先程旦那から収奪した蜂蜜飴をバディに見せながら誘惑している。
「え?くれるの?」とバディはトッテトッテとナターシャの方に身を寄せた。
「母様。子爵家の名に懸けてズルはまずいというか、ペナルティ発生というか・・・。」
しゃがみ込んで手櫛で毛並みを整えている母の耳に、ダーシャの声は届いていない。バディの耳だけがピクリとこちらを向いている。
服はすでに毛だらけ。家事担当のマーシャは今後毎日の仕事が増えることを想像し、頭痛がするおもいである。
「母様、しゃがんで撫でるのは、家に着いてからって約束ですよ。いい加減にしないと夕飯の時間におくれますよ。」
言葉が届くまでに時間がかかるのだろうか。ゆうに1分が経ってから返事がきた。
「大丈夫。もうここは家の敷地だし。夕飯もちょっと遅れたぐらいじゃ温めなおしたらいいんだから。」
「奥様。食事の時間を己が愉悦の為に送らせ、更には温めなおせばよい。そう仰られましたか?」
背後から、地獄の底から発せられたかと聞き間違える闇を携えた声が聞こえた。代々うちの台所を守り続けてるジラーノフさんだ。
その声が聞こえた瞬間に母はビクッと身を逸らした。
ただでさえ偏食気味の母の為に、種類の多くない食材を駆使し、栄養バランスが偏らないように、必要であれば自分で採集や狩りもいとわない我が家の最強コックは、下手したら門番のカバコフより物理的に強い。
門番がいらないのではと思われるくらい強いが、食事を作ることを生きがいとし、何より食べてくれる人の笑顔を見るのが好きだか。
そのために自分の給料の一部を新しい調味料やレシピの糧にしているのは屋敷で働いている誰しもが知っている。
自由奔放な母でも、このコックには頭が上がらない。
「ち・・・違うのよジラーノフ。」
彼の機嫌を損ねうと、夕飯の時間が夕食の時間になってしまう。
「そ、そう。ダニイルよ。ダニイルが悪いのよ。マーシャあなたも見てたでしょ。ダニイルがバディちゃんを一人占めしようとするのが悪いのよ。」
ジラーノフが目に入れても痛くない可愛がりをしている孫に最終判断が託された。
いえ、奥様。帰りの道中ずっとバディのいる場所を自分の横とわがままをいって帰宅時間が遅くなったのはあなたのせいです。
旦那様の番になっても何かと自分の横に呼び寄せたりと姑息な手を使っていたのも周知の事実です。
そして、私の順番は夜になってからといったのは忘れてません。
裁判官の目には慈愛がなく、公正な判断を導いた。
「有罪」
冷酷な判決に打ちのめされた母は苦悶の表情をしていた。
幼年期がまだまだ終わらない・・・。
バディのせいでこんなに話が進まなくなるなんて・・・。
もふもふ恐ろしい子!!
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