010 新しい家族
はじめて嗅ぐ桜の薫り。蜂蜜飴は口の中で薫りを更に広げ、嗅覚と味覚を同時に攻略し意識を陥落する。その魅力の虜になり、夢中でかじってる。
口の中の飴が溶けなくなると モットチョウダイ とばかりにナターシャに顔をこすりつける。
「あらら、もう無くなったのね。あぁん、そんなに顔を擦りつけたら動けないでしょ。困ったわねぇ。」
まったく困っておらず、むしろ幸せな笑顔をこぼしながら、夫に手を差し伸べ次の蜂蜜を要求する。
「ちょーだい。」
自分の手からあげたいのも山々だ。普段視察でなかなか側にいれない妻の笑顔での要求に逆らえるわけがない。
「僕の分も残しておいてよ。」
勿論食べる分ではなく、あげる分だ。
「はい、お代わりですよ。ほらね、変な人だけど悪い人じゃないでしょ?」
妻は妻なりに、夫のフォローをしているようだ。ただし、変な人発言が地味にダニイルのピュアハートを傷つけていることには、まったく気が付いてない。
左手で飴を与えつつ、右手で耳の後ろを撫でる。
もふっと毛皮に手が沈み込むと、撫でる動きに沿ってもふもふが揺れる。
耳の後ろから首筋、背中、お腹、尻尾と撫でる位置は移動していった。
「決めました。私はお腹担当にします。」
突然の宣言だ。
普段であればそれも通るかもしれない。また、最初に宣言した人が優先順位を取るのはグリエフ家の伝統でもある。しかし、今回は話が違う。
オオカミは生き物であり、第一発見者は息子である。撫でるために消費した賄賂の干し肉と蜂蜜飴は共に夫の物である。2人から駄目出しが出るのは当然のことだった。
「母上、担当ってそこに触っていいのが母上だけって事じゃないですよね?」
「そうだよ、ナターシャ。先程君がオオカミに贈ったプレゼントはすべて僕の物だということを忘れてもらっちゃ困る。そして、君はさっきから撫でまわしてるけど、僕はまだ触れることすら許されてないんだよ。その分の補填として、僕もお腹担当を希望するよ」
しかし、2人の声が聞こえてないように真っ白いお腹の毛をもっふもっふと撫でまわしている。
「バディ。こっちおいで。」
ダーシャが呼ぶと、トッテッテッテとやってくる。目の前でコロンと転がると真っ白いお腹を広げる。「なでて~」と催促している。
「ダーシャ・・・。恐ろしい子。」
干し肉と蜂蜜で陥落したと思っていたが、たったの一言で至高のもふもふが目の前から去って行った。
「ダーシャ、僕も撫でたいんだがいいかい?」
いい加減に自分も触りたくてうずうずしている父は、ついに息子の軍門に下った。
「はい、父上。耳の後ろのこの部分から撫でると喜びますよ。」
耳の毛皮に触れた時に、これまで触ってきた毛皮を超えた柔らかさとぬくもりに触れたことを理解した。
「こ・・・これは・・・。」
夫がもふもふの虜になる瞬間を妻は見逃さなかった。その目には「ライバルが増えた」と書いてあった。
耳の後ろから首筋、お腹に尻尾と一通り撫でまわした彼の顔は、何かを成し遂げた漢の顔だった。
「父上、母上。」
2人の目を見据えてもう一度お願いした。
「バディを、家に連れて帰ってもいい?」
2人は考えるふりをして見つめ合うと、すぐに頷いた。
「何をいってるの?」
あれ?だめだったのかな・・・。ダーシャの心に不安がよぎる。
「そうだぞ、ダーシャ。何を馬鹿なことを言ってるんだ。」
あんなに幸せそうな顔をして撫でていた2人が急に冷たく振舞う。これが社交界のそれはそれこれはこれというやつか。
「バディはもう家族なんだから、一緒に帰って当然だろ。」
「やった。父上、母上ありがとう。」
3人と一匹は皆で抱きついたのであった。
そんな中、マーシャは終始「にくきゅうぷにぷに」と呟きながら、肉球をつついていたのであった。
「やぁみんな、マイケルぢゃお。今日は『もふとろにくす』の紹介するよ。」
「ねぇ、マイケル。これは一体どんなものなの?」
「これが一家に一台あると、もふもふに困ることがない逸品なのさ。」
「えー、このモフが枯渇してる時代にそんなうまい話があるわけないじゃない。」
「そう思うだろ、しかしこの『もふとろにくす』を使うと、朝目が覚めてから、夜布団にはいって夢の中でも、ずっともふが側にあるんだ。」
「それはすごい。それで、気になるお値段は?」
「今なら、干し肉10枚と高級蜂蜜飴5個で大丈夫。」
「あら安い、今すぐ電話注文しなきゃ。」
「フリーダイヤルはこちらまで。」
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自分でも遊んだと思ってますが、後悔はしていない。




