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「恋人のフリだけですから♡」と言った学校一のお嬢様が、毎日俺を本気で落としにくる。  作者: リディア


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第4話 偽装恋人、クラスにバレる

 ガラッ。


「おはようございます」


 白鷺しらさぎさんがいつものお嬢様スマイルで教室に入り、俺がその後ろに続く。

 瞬間。

 賑やかだった教室が、水を打ったように静まり返った。

 全員の視線が、俺と白鷺さんに突き刺さる。

 俺と一緒に登校してきた事実が、クラス中に一瞬で理解されたのがわかった。


 シン……。


 誰も喋らない。

 呼吸の音すら聞こえない。

 時が止まったかのような教室で、俺は冷や汗が背中を伝うのを感じていた。

 ……あ、これ終わったわ。


 ——俺の平穏な高校生活、今この瞬間に終了した。

 当の白鷺さんは、全く気にする様子がない。


「あっ、結弦ゆづるくん」


 俺の席の横を通り過ぎようとした白鷺さんが、ふと足を止めた。

 そして、くるりと振り返り、俺の目の前まで戻ってくる。


「え?」

「ネクタイ、少し曲がってますよ」

「……は?」


 白鷺さんは俺の胸元にスッと手を伸ばし、キュッ、とネクタイの結び目を直し始めた。

 距離、十センチ。

 ふわりと香る、甘いシャンプーの匂い。

 真剣な顔で俺の首元を見つめる彼女の白い指先が、俺の制服に触れている。


「っ……お、おい。何して……」

「はい、これで完璧です」


 彼女は満足そうに微笑むと、今度は俺の肩に手を伸ばした。


「あと、肩に糸くずがついてましたよ。もう、結弦くんは私が見てないとダメですね」


 パシッ、と糸くずを弾き飛ばし、小悪魔のような笑みを浮かべて俺の顔を覗き込んでくる。

 近い近い近い近いよ……!


 昨日は誰もいない帰り道だったからギリギリ耐えられた(耐えられてない)が、今はクラス全員が見ている前だぞ!?


「あ、ありがとう……じゃなくて! 白鷺さん、こんなところで何やって……」


 俺が小声で抗議しようとした瞬間。


「えっ……ウソ」

「マジで……?」

「今、結弦くんって呼んだ……?」


 次の瞬間だった。

 教室中が一気に騒がしくなる。


「白鷺さん!? ちょっと、今のはどういう……!」

高坂こうさかお前、なんで白鷺さんと一緒に登校してきて、しかも何ネクタイ直されてんだよ!」

「ちょ、まさか……嘘だろ!?」


 男子どもが一斉にこっちを見る。

 ……怖い。

 すごく怖い。


「ちょっと白鷺さん、もしかして……高坂くんと付き合ってるの!?」


 クラスの中心的な女子が、興奮気味に身を乗り出して尋ねた。

 頼む、白鷺さん。ここは適当に誤魔化してくれ。

 『ただの偶然ですよ』とか、『幼馴染みたいなものですから』とか、お前の完璧なお嬢様スキルならいくらでも躱せるはずだ!

 俺が必死に念を送る中。

 白鷺さんは、ふわりと優雅に微笑んで、はっきりとこう言った。


「はい。結弦くんとお付き合いしています」


 ドカーーーン!!


 教室が爆発した。いや、物理的にではなく、熱量的に。


「えええええええええ!?」

「うそおおおおおおおおお!?」


「学校一のお嬢様が、なんでただの高坂と!?」

「おい高坂! お前明日東京湾な! 絶対沈めるからな! 決定な!」

「待って待って、これって……もしかして私たちにもワンチャン出てきた!?」

「確かに! 白鷺さんがモブと付き合うなら、私にもイケメン狙えるじゃん!?」

「「「それだ!!」」」


 怒号、悲鳴、歓声。

 四方八方から飛んでくる質問と殺気に、俺の脳みそは完全に処理落ちを起こした。


「いつから!? どっちから告白したの!?」

「高坂のどこがいいの!? いや、高坂もいい奴だけどさ!」

「白鷺さん、騙されてない!? 弱みでも握られてるの!?」

「でも!」


 一人の女子が、ぱんっと手を叩いた。


「私たちは応援するからね!」

「そうそう! 白鷺さんが選んだ人なら、間違いないよ!」

「困ったことがあったら、いつでも相談してね!」

「ありがとうございます」


 白鷺さんは嬉しそうに微笑んだ。


「結弦くん、本当に優しい人なんです」


 教室が一瞬、静かになる。


「困っている人を放っておけなくて。誰にでも同じように優しくできる人で……私は、そんなところが好きなんです」

「…………っ」


 振るな。

 そんな真っ直ぐ言われたら、こっちが恥ずかしいだろ。

 白鷺さんは、俺の腕にそっと触れた。


「ね、結弦くん?」

「——っ」


 振るな。今この状況で俺に振るな。

 白鷺さんが俺の腕にそっと触れながら上目遣いで見つめてくる。

 その瞳は「ほら、彼氏さんなんだから合わせてくださいね?」と雄弁に語っていた。


「あ、あー……まあ、その……」


 俺がしどろもどろになっていると、女子たちが「キャー!」と黄色い声を上げた。


「照れてる! 高坂くん照れてる!」

「意外とお似合いかも……!」

「白鷺さんがこんなに嬉しそうにしてるの、初めて見た!」


 ……嘘だろ。

 なんで女子たちはこんなに好意的に受け入れてるんだ。

 まあ、男子たちの目は完全に血走っていて、今にも俺を八つ裂きにしそうな勢いだが。


「結弦くん、授業の準備しないとですね。あとでまた、お話ししましょう?」


 白鷺さんは小首を傾げて俺に微笑みかけると、周囲の視線を一身に浴びながら、優雅な足取りで自分の席へ戻っていった。


 ……悪魔だ。

 絶対、わざとだ。

 俺が照れるの、楽しんでるだろ。


 俺は自分の席に崩れ落ち、机に突っ伏した。

 周りからの殺意より、白鷺さんの甘い匂いの方が意識に来てる。

 耳が熱い。


 ふと顔を上げると、少し離れた席に座った白鷺さんとバチッと目が合った。

 彼女は誰にも見えないように、口元を手で隠しながら、くすくすと笑っていた。

 そして、小さく口パクで。


『か・れ・し・さ・ん♡』


 ……っ!

 俺は再び机に突っ伏した。

 ——偽装恋人、初日にして詰んだ。


 午前中の授業は、全く頭に入ってこなかった。

 先生の声は右の耳から左の耳へ抜け、ノートには意味不明な文字が羅列されている。

 気付けばノートに「白鷺」って三回書いていた。


 休み時間になるたびにクラスメイトから質問攻めに遭い、その度に白鷺さんが「うふふ」と誤魔化す(という名の火に油を注ぐ)の繰り返し。

 そして、ようやく訪れた昼休み。


「ふぅ……」


 俺がぐったりと息を吐き、弁当箱を取り出そうとした、その時だった。


 ガラッ。


 教室の前のドアが、静かに開いた。

「——白鷺さん。少しいいかな?」


 その声に、騒がしかった教室が再び水を打ったように静まり返った。


 声の主は、ドアの枠に寄りかかるようにして立っていた。

 整った顔立ち、爽やかな笑顔、着崩すことなく完璧に着こなされた制服。

 彼がそこにいるだけで、教室の空気が一段階澄んだように感じる。


 ……御堂筋みどうすじ先輩だった。


 先輩は白鷺さんを見た。

 それから、俺を見た。


 笑顔のまま、目が全く笑っていなかった。





第4話、お読みいただきありがとうございます!

クラスにバレて大パニック! そして白鷺さんの小悪魔ムーブ、いかがでしたでしょうか?

「ニヤニヤした!」「白鷺さん強すぎる!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひ星(評価)やフォローをお願いいたします! 皆様の応援が最高の励みになります!

次回、第5話。

ついに最強のライバル・御堂筋先輩との直接対決!?

「偽装恋人」としての絆が試されます。お楽しみに!

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