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「恋人のフリだけですから♡」と言った学校一のお嬢様が、毎日俺を本気で落としにくる。  作者: リディア


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33/38

第33話 恋人なら、料理対決くらい息ぴったりですよね?

「よーし! みんな集まったね!」


 夏休み中盤、雲一つない青空の下。

 市外の川辺にある広々としたバーベキュー場に、西園寺の元気な声が響き渡った。


「今日はただ肉を焼いて食べるだけじゃないよ! 題して、『第一回・ペア対抗オリジナル焼きそば対決』を開催しまーす!」

「はぁ?」

「なんだそれ」


 俺と田中が同時にツッコミを入れるが、西園寺は全く意に介さない。


「ルールは簡単! 男女ペアになって、用意された食材で一番美味しい焼きそばを作ったチームの勝ち! 優勝ペアには、高級和牛の特上カルビ一皿を贈呈します!」

「うおおおぉぉ! やる! 絶対勝つ!」


 さっきまで面倒くさそうにしていた田中が、特上カルビと聞いた瞬間に目の色を変えた。


「ペアはくじ引きで決めるけど……高坂くんと白鷺さんは、もちろん固定ね♡」

「おい、なんで俺たちだけ……」

「恋人同士を引き離すなんて、そんな無粋なことできないでしょ!」


 西園寺がニヤニヤしながら俺たちを指差す。周囲のクラスメイトたちも「当然だろ」「見せつけてくれよ」と囃し立てる。

 以前の俺なら「めんどくさい」とため息をついていたところだ。

 だが、今は違う。


「……仕方ないな」


 俺は小さく息を吐き、隣に立つ澪を見た。


「頑張りましょうね、結弦くん」


 澪が、麦わら帽子の下でふわりと微笑む。

 その自然な笑顔に、俺の口元も自然と緩んでいた。


「よーい、スタート!」


 西園寺の合図と共に、各ペアが食材置き場へ走る。

 俺と澪も鉄板の前に立った。


「結弦くん、私、野菜を切りますね。火起こしをお願いしてもいいですか?」

「もちろん、任せてほしい」


 澪が包丁を手にキャベツと人参を切り始め、俺は手際よく炭に火を点けていく。

 鉄板が十分に熱せられたところで、俺が油を引く。

 澪が、切った野菜と豚肉を絶妙なタイミングで鉄板へ投入した。

 

 ジューーーッ!


 香ばしい音が弾ける。


「油が跳ねる。危ないから少し下がってて」


 俺はヘラを握りながら、澪の前にサッと腕を出して庇った。


「ありがとうございます」


 澪は自然に一歩下がり、俺の背後からソースのボトルを手渡してくれる。


「塩胡椒はこれくらいでいいかな?」

「はい。あと、隠し味にこれを少しだけ……」


 澪が、持参したらしい小瓶から透明な液体を数滴垂らす。


「……なんだそれ?」

「ごま油に少しだけ鶏ガラスープを混ぜたものです。香りが引き立ちますよ」

「へぇ。さすがだな」


 言葉は最小限。


 お互いの動きが、まるで一つの歯車のように噛み合っていく。俺が肉を炒める間に彼女が麺をほぐし、俺がヘラで混ぜ合わせる間に彼女が味を調える。

 何も相談していないのに、不思議なほど息が合っていた。


「……なぁ、あいつらヤバくないか?」


 少し離れた鉄板で作業していた田中が、目を丸くしてこちらを見ていた。


「なんつーか、長年連れ添った定食屋の夫婦みたいな手際なんだけど」

「ホントだ……。無駄な動きが一切ない」


 ペアを組んでいる朝比奈も、キャベツを焦がしながら呆れたように呟く。


「いやー、さすがカップル! 愛の力ってすごいねー!」


 審査員気取りの西園寺が、メガホンを持って冷やかしてくる。


「うるさい。よそ見してると焦げるぞ」


 俺はヘラを動かしながら適当に返し、澪が最後に紅生姜を添えて完成させた。


「できましたね、結弦くん」

「ああ、完璧だ」


 俺たちがハイタッチを交わそうとした、その時だった。


「——ずいぶんと楽しそうだね」


 ふいに、背後から落ち着いた声がした。

 バーベキュー場の入り口付近。そこには、サングラスをかけ、カジュアルな私服を着こなした大人の男性が立っていた。

 クラスメイトたちが「誰だ?」とざわつく中、澪の顔から一瞬にして笑顔が消え去った。


「……お兄様」


 澪が、少しだけ震える声でその人を呼んだ。

 お兄様?

 俺はヘラを持ったまま、その男性と澪を交互に見た。


「澪。こんなところで、何をしているんだい?」


 男性が、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。

 その視線は、澪の隣に立つ俺を、氷のように冷たく射抜いていた。


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