↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「恋人のフリだけですから♡」と言った学校一のお嬢様が、毎日俺を本気で落としにくる。  作者: リディア


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/39

第22話 恋人なら、一緒に勉強する約束くらいしますよね?

 朝のホームルーム。

 担任の先生が黒板に『期末テスト』と大きく書いた瞬間、二組の教室から一斉に悲鳴が上がった。


「えぇぇぇぇ!?」

「文化祭終わったばっかりなのに! 鬼! 悪魔!」

「まだ体力が回復してないのにぃぃ!」


 特に西園寺さんの絶叫が凄まじい。


「終わったからテストなんでしょ。現実を見なよ」


 朝比奈さんが隣で冷静にツッコミを入れるが、男子たちの間でも「終わった」「俺の夏休みが補習で消える」「数学マジでやばい」と、阿鼻叫喚の嵐が吹き荒れている。

 俺はため息をつきながら、黒板の日程をノートに書き写した。


 ……今回は、少し真面目にやるか。

 文化祭で実行委員として動き回り、喫茶店の準備と本番でかなり時間を使った。その分、今回は順位を少し上げたいという気持ちがあった。


 特別な理由があるわけじゃない。ただ、なんとなく。文化祭で少しだけ前向きになれた自分が、テストにもちゃんと向き合ってみようと思っただけだ。


「結弦くん」


 不意に、真横から声がした。

 見ると、白鷺さんが俺の机に手をつき、覗き込むようにしてこちらを見ている。


「今回は、順位どれくらいを狙うんですか?」

「え、あー……とりあえず平均80点以上、できれば10位くらいには入りたいかな」

「いいですね。結弦くんなら絶対にいけますよ」


 ふわりと微笑み、俺のノートの端っこを指でなぞる。

 その距離が、あまりにも自然だった。


 ……あれ?


 ふと、俺は小さな違和感を覚えた。

 文化祭は、終わったのだ。そもそも俺たちが「恋人のフリ」を始めたのは、御堂筋先輩の猛アタックを躱すためだった。そしてその先輩は、文化祭で「もう言うことはない」とバトンを渡して去っていった。

 つまり、俺たちが恋人のフリを続ける大義名分は、もうどこにもないはずなのだ。


 なのに。


 白鷺さんは、ごく普通に俺の隣に来て、普通に話しかけ、普通に距離を詰めてくる。

 そして俺も、それを全く嫌だと感じていない。


「……白鷺さんは、どうせまた学年トップだろ」

「ふふっ、油断は禁物ですよ」


 俺は結局、その違和感を口にすることはできなかった。


「よーし! みんなで勉強会しよう!」


 昼休みになり、西園寺さんがお弁当を食べながら高らかに宣言した。


「嫌だ! 俺はまだ文化祭の余韻に浸っていたい!」


 クラスのお調子者、田中が机に突っ伏して叫ぶ。


「じゃあ赤点どうぞ。夏休み中ずっと補習室で余韻に浸れるよ」

「朝比奈の正論が痛い!!」


 田中の嘆きに、クラス全体からどっと笑いが起きる。


「あ、そうだ。高坂、俺に数学教えてください!」


 田中が突然、俺に向かって手を合わせた。


「ちょっと待ってくれ。なんで俺なんだよ。俺も数学は苦手な方だけど良いのか?」

「なんかさ、文化祭の前と後でちょっと違くない? 高坂のこと、前より頼りたくなる感じがして」

「……へぇ〜。そんな変わったかな、俺って」

「すっごい変わったぞ!!」


 田中が至って真顔で頷く。


「マジで恋ってすごいのな!恋すれば俺も覚醒するはず。俺も恋してぇ〜〜っ!!」


 西園寺さんがすかさず乗っかってくる。


「恋だけじゃないわ!」

「えー?」

「えー、じゃないわ」

「あ、俺も勉強会参加する!」


 田中が手を挙げた。


「ちょっと待って、それは話が違う」

「えー、いいじゃん! みんなでやろうよ!」

「空気読め!」

「読め。」


 西園寺さんと朝比奈さんが一拍もずらさず揃えた。


「二人の息が合う場面そこじゃないだろ!!」


 田中の絶叫に、教室全体がまた沸く。

 俺が苦笑いしながらその様子を眺めていると。


「では、一緒に勉強しましょう」


 隣にいた白鷺さんが、すっと手を挙げて言った。


「え?」

「私が結弦くんに教えて、結弦くんが田中くんに教えればいいんです。みんなでやった方が、はかどりますよ」

「マジで!? 白鷺様! 一生ついていきます!」

「おー! じゃあ週末はファミレスに集合ね!」


 トントン拍子で勉強会の予定が決まっていく。


「あれ?」


 俺は気づいた。


「行くって一言も言ってないんだが?」

「だって結弦くん、「おう」って言いましたよ?」


 白鷺さんが悪戯っぽく首を傾ける。


「……言った覚えがない」

「言いました。ちゃんと聞こえましたよ、ね、西園寺さん」

「聞こえた聞こえた! むしろ一番乗り気だったよ高坂くん!」

「そういう話じゃなくて!」

「よかったねー、田中くん」

「白鷺様が神すぎるぜ……」


 田中が感涙にむせている横で、俺はひとつため息をついた。

 ……なんか、全員でまとめて転がされた気がするな。

 とはいえ不思議と、嫌じゃなかった。


 放課後。

 いつもの帰り道。

 俺の制服の袖を、白鷺さんが小さく掴んだまま歩いている。

 これも今や、すっかり日常の風景になっていた。


「今日は、勉強会決まったな」

「はい」


 白鷺さんが、少しだけ足取りを軽くして笑う。


「楽しみです」

「……勉強だけどな」


 俺が呆れたようにツッコミを入れると。

 彼女は一瞬、困ったように俯いた。

 少し間があって。


「……はい」


 彼女は少しだけ空を見た。


「勉強、だけです」


 自分で言ってから、少しだけ黙った。


「……」


 白鷺さんの耳先が、じわりと赤くなる。

 俺はその横顔を見て、何も言えなくなった。

 ……それ、自分で言って照れてどうするんだ。

 ツッコミたいのに、なぜか口が動かない。


 夕日に照らされた通学路を、二人並んで歩く。

 頭の中で、ぼんやりと言葉が浮かんだ。

 恋人のフリ。

 心の中で呟いてみる。

 でも、その言葉だけが、どこか少し浮いて聞こえた。

 気づけば今日も、当たり前のように俺の隣を、彼女が歩いていた。




第22話をお読みいただきありがとうございます!


新章・期末テスト編がスタートしました!

文化祭は終わったのに、二人は以前よりも自然に隣にいるようになりました。


「恋人のフリ」は、本当なら終わっているはずなのに――。


そんな少しだけ変わった二人の日常を、これからもゆっくり描いていけたらと思います。


「このクラスの空気好き!」

「もう付き合ってるじゃん(笑)」

「白鷺さんの『勉強、だけです』が可愛い!」


と思っていただけましたら、ぜひ★(評価)やフォローで応援していただけると、とても励みになります!


次回はいよいよ、約束した勉強会です!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。