第21話 恋人なら、打ち上げでも隣に座りますよね?
「文化祭、お疲れ様でしたーーっ!!」
駅前のファミレス。クラスの半分以上が押し寄せた店内は、完全に二組の貸切状態となっており、他のお客さんには本当に申し訳ないと思ってしまう。
ドリンクバーのグラスを高く掲げた西園寺さんの音頭で、クラス全員が「おつかれー!」と声を上げた。
「いやー、喫茶店大成功だったね!」
「売上も学年トップだったらしいぞ!」
「あー、マジで楽しかったわー!」
目の前のテーブルには山盛りのフライドポテトとピザが並び、クラスの連中が文化祭の思い出話に花を咲かせている。打ち上げらしく、店内に騒がしくて熱い空気が満ちていた。
もともと行事には消極的だった俺が、こうしてクラスの打ち上げに参加していること自体、以前の自分なら考えられなかった。
不意に、隣の席に誰かが座る気配がした。
見ると、そこには当たり前のような顔をした白鷺さんがいた。
「白鷺さん、こっち空いてるよ! 女子トークしよ!」
離れた席から女子が声をかける。俺は内心で(そうだ、行ってくれ!)と願った。だが、即座に西園寺さんがその声を遮った。
「何言ってんの! この二人は実行委員で頑張ったんだから、打ち上げくらいラブラブさせてあげなさいよ。ねー、高坂くん?」
「……ラブラブって、お前」
クラスの連中が「そうだそうだ!」「邪魔すんなよー!」と囃し立てる。完全に外堀を埋められてしまった。
白鷺さんは「ふふっ、ありがとうございます」と優雅に微笑んで座ったが、小皿に取り分けたポテトを俺の前に差し出す手は、心なしか少し震えている。
「あ、サンキュ。……って、これ」
受け取った小皿越しに目が合う。彼女はストローを口に咥えて視線を逸らしたが、その耳は茹で上がったように真っ赤だった。
……なんだろう。
隣にいると、落ち着く。
俺はそれ以上考えるのをやめて、ポテトを口に運んだ。
「そういえばさーーーー!!」
突然、西園寺さんがバンッとテーブルを叩いた。
「昨日!! 校舎裏で何してたの!?」
「ぶっ!」
俺は飲んでいたメロンソーダを盛大に吹き出しそうになった。
「な、な、何もしてねぇよ!」
「いやいやいや!! 高坂くん、必死に白鷺さん探しに行ってたじゃん!!」
「えっ、マジで!?」
「ヒュー!!」
終わった。
「夕日!! ベンチ!! 二人きり!! 青春すぎるんだけど!! ねぇ葵!」
「……陽菜、テンション高すぎ」
朝比奈さんが呆れたようにため息をつく。助かった、と俺が安堵したのも束の間。
「……でも、ちょっと気になる。何話してたの」
「お前もかよ!」
ドッ、とさらに大きな笑いが起きる。俺は頭を抱えて、隣の白鷺さんに助けを求めた。
「ねえ、白鷺さんからも何か言って……」
隣を見ると、白鷺さんは顔を真っ赤にしてフリーズしていた。
数秒後、彼女は吹っ切れたように顔を上げ、あの小悪魔スマイルを作ってみせた。
「恋人ですから♡」
「きゃーーーーーーーっ!!!」
「ごちそうさまです!!!」
「また言った!! マジでこの二人尊い!!」
クラス中から拍手喝采が巻き起こる。白鷺さんは余裕たっぷりに微笑んでいるように見えるが、俺は知っている。その耳が、今にも爆発しそうなくらい真っ赤になっていることを。
……完全に照れ隠しだろ、それ。
「……はぁ。ほら、二人ともドリンク取ってきてー!」
西園寺さんがニヤニヤしながらグラスを差し出す。
「はいはい。行くよ、白鷺さん」
「あ、はい」
俺たちは逃げるようにドリンクバーへと向かった。
「……西園寺さん、やっぱり容赦ないですね」
「見つかったから仕方ない」
俺がメロンソーダを注ぎながら言うと、白鷺さんは隣でカルピスを注ぎながら、ふふっと笑った。
「でも。……とても楽しかったです」
「文化祭が?」
「はい。それに……今の打ち上げも」
彼女はグラスを持ったまま、客席の方を見つめた。みんなが笑い合い、写真を撮り、ジュースとポテトで大騒ぎしている。
「私も……あの中に入れて、嬉しいです」
俺は、その横顔をちらりと見た。
いつもどこか壁を作っていた白鷺さんが、今では西園寺さんたちと一緒に笑い合っている。
「……そうだな。来年も、また一緒にやれたらいいな」
俺が何気なく言うと、白鷺さんは少しだけ黙った。
グラスを両手で持ったまま、少し俯いて。
「……はい。来年も」
一拍だけ、間があった。
「隣にいたいです」
それだけ言って、前を向いた。
俺は何も返せなかった。でも、否定もしなかった。
打ち上げが終わり、駅前の広場。
夜風に吹かれながら、クラスの連中がそれぞれ別れの挨拶を交わし、改札へと吸い込まれていく。
「じゃあねーーー!! お熱い恋人コンビーー!!」
西園寺さんが遠くから大きく手を振った。クラスメイトたちも「お幸せになー!」「邪魔したな!」と笑いながら後に続く。
「……だから、お前ら……」
隣を見ると、白鷺さんも否定することなく、小さく手を振り返している。
目が合った。彼女は、少しだけ照れくさそうに、でも嬉しそうに笑った。
「……帰ろうか、白鷺さん」
「はいっ、結弦くん」
弾むような声で答えて、白鷺さんが俺の隣に並んだ。
歩き出すと、彼女の手が俺の袖をそっと掴んだ。
いつもの、あの感触。
でも今夜は、なぜかそれがいつもより少しだけ——温かく感じた。
俺たちは並んで、夜の街へと歩き出した。
袖を掴む手の温度が、ずっと続いていた。
恋人のフリ、とどこかで呟いてみる。
なんだか、少しだけ、その言葉が浮いていた。
第21話をお読みいただきありがとうございます。
文化祭編のエピローグでした。
事件は何も起きていないけれど、最後まで読んでいただけたなら嬉しいです。
「西園寺最高(笑)」「青春っていいな」「白鷺さんの照れ隠しが尊い」と思っていただけましたら、★やフォローで応援していただけると励みになります。




