第20話 恋人なら、一番に見つけますよね?
「終わったーーーーっ!!」
文化祭の終了を告げる放送が鳴り響いた瞬間、教室中に歓声が爆発した。
「紅茶もクッキーも全部売り切れたよ!!」
「やったー!!」
「あーもう最高! 青春! 打ち上げ行こー!」
「まだ片付け残ってるから。教室元に戻すまでが文化祭」
「葵ひどい! 少しは夢くらい見させてよー!」
教室中がどっと沸く。俺も、その輪の中で小さく笑っていた。
片付けが始まった。
装飾を外して、机を戻して、ゴミをまとめる。みんな疲れ切っているはずなのに、どこかハイテンションで笑い声が絶えない。
俺はゴミ袋の口を縛りながら、ふと顔を上げた。
……あれ。
いつもなら視界のどこかにいるはずの白鷺さんの姿がない。
最初は、ただの疑問だった。トイレにでも行ったのだろう。すぐ戻ってくる。そう思っていた。
でも、五分経っても、十分経っても、戻ってこなかった。
気づけば俺は、自分の作業を止めて、彼女の姿を探していた。
「え?」
横から声がした。西園寺さんが丸めた模造紙を持ったまま、ニヤニヤと俺を見ている。
「こ・う・さ・か・く〜ん。……さっきから白鷺さん探してない?」
「探してません!!」
「はいはい」
西園寺さんは満足そうに笑って、それ以上は何も言わずに去っていった。
否定したはずなのに、俺の足は自然と教室の外へ向かっていた。
夕暮れの校舎裏。
祭りの喧騒から遠く離れた、人気のないベンチ。
私は、そこに一人で座っていました。
少しだけ、疲れが出てしまったのかもしれません。
目を閉じると。
結弦くんの声が、聞こえる気がしました。
『俺がいる』
あの時の声が、まだ耳の奥に残っています。
風が吹くたびに、この数日間のことが少しずつ蘇ってきます。
一緒にポスターを描いたこと。
雨の中、手を引いてくれたこと。
ほうじ茶を差し出してくれたこと。
そして。
言ってしまったこと。
顔を上げると、空が茜色に染まっていました。
綺麗だなって思いました。
……結弦くんにも、見せたいな。
気づけば。
また、探してしまいました。
校舎裏そこに、彼女はいた。
ベンチに座り、夕空を見上げている。
「……ここにいたのか」
白鷺さんはビクッと肩を震わせ、振り返った。
俺の姿を認めた瞬間、大きく目を見開いて——花が綻ぶような、柔らかな笑顔を浮かべた。
「どうして、ここが?」
俺は少しだけ考えた。
本当に、自分でもわからない。体育館でも、中庭でもなく、なぜか足がここに向かっていた。
「……わからない」
沈黙。
夏の風が、木々を揺らした。
「でも」
もう一度、間があった。
「……探してた」
ぽつりと、口からこぼれた。
白鷺さんが、一瞬だけ固まった。
少し笑って、それから、泣きそうに瞳を潤ませて。でも、泣かなかった。
「……楽しかったですね」
「そうだな」
俺は彼女の隣に腰を下ろした。
「疲れました」
「頑張りすぎなんだよ、白鷺さんは…」
「結弦くんもですよ」
それ以上、言葉は続かなかった。
風の音。静かな夕暮れ。何も言わなくても、隣にいるだけでいい、そんな時間だった。
「あーーーっ!! いたーー!! 恋人コンビ発見!!」
後夜祭のキャンプファイヤーを囲む人だかりの中で、西園寺さんの大声が響いた。
「もう、だから放っとけって言ったのに……」
朝比奈さんが呆れてため息をつき、クラスメイトたちがどっと笑う。
燃え上がる炎。オレンジ色に照らされる笑顔。
その喧騒の中で。
白鷺さんが、俺の袖をそっと引いた。
「恋人ですから♡」
クラスのみんなには聞こえない、小さな声。
俺は少しだけ笑って。
「……だな」
白鷺さんが、ぴたりと止まった。
一瞬だけ、固まって。
それから、耳まで赤くなって、困ったように俯いた。
自分で言ったくせに。
俺がそれに気づいて小さく吹き出すと、白鷺さんがむっとしたように顔を上げた。
「……もう! 笑わないでください」
「笑ってないよ」
「笑ってます」
むすっとしたまま、でも——袖を掴む手は、離さなかった。
俺はそれに気づいて、もう一度だけ笑いそうになるのを、どうにか堪えた。
「……わかった。笑わない」
「……ならいいです」
白鷺さんは、まだ少し頬を膨らませたまま、前を向いた。
それでも、袖は離さなかった。
二人で、少しだけ笑った。
揺れる炎の向こうで、火の粉が夜空に舞い上がっていく。
それを、並んで見上げた。
白鷺さんが、そっと俺の隣に寄ってきた。
肩と肩が、触れた。
俺は、離れなかった。
第20話をお読みいただき、本当にありがとうございました!
これにて、文化祭編は完結です。
結弦と白鷺さんが少しずつ距離を縮め、ここまで歩いてきました。
この二人の変化を、少しでも楽しんでいただけていたら嬉しいです。
「結弦、もう恋してるじゃん!」
「白鷺さん、可愛すぎる……!」
「文化祭編、最高だった!」
と思っていただけましたら、ぜひ★やフォローで応援していただけると励みになります!
文化祭が終わり、いつもの日常が戻ってきます。
でも、二人はもう文化祭前の二人ではありません。
「恋人のフリ」は、これからどんな形へ変わっていくのか。
引き続き、結弦と白鷺さんの物語を楽しんでいただけたら嬉しいです!




