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「恋人のフリだけですから♡」と言った学校一のお嬢様が、毎日俺を本気で落としにくる。  作者: リディア


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14/39

第14話 恋人なら、一緒に買い出しくらいしますよね?

「よーし、喫茶店の企画も大枠が決まったな」


 翌日のホームルーム。先生が黒板を叩きながら、俺たち実行委員を見た。


「今度の土日に、ホームセンターと百円ショップを見てきてほしい。高坂、白鷺。二人でよろしく」


 俺が返事をするより先に、教室の爆撃機が火を噴いた。


「先生! それって『先生公認デート』ってことでいいんですよね!?」

「わはは、そうなるな。仲良く行ってこい」


 先生まで乗っかった。教室が「ヒュー!」という歓声に包まれる。

 隣の白鷺さんが、少しだけ顔を赤らめながら優雅に微笑んだ。


「お任せください、先生。恋人ですから♡」


 ……本当に、どこでも使える言葉だな……。

 俺は心の中でため息をつきながら、週末の予定をメモ帳に書き込んだ。


 日曜日。

 俺は約束の十分前に、駅前の待ち合わせ場所に到着していた。

 ……なんか、落ち着かないな。


 制服じゃない白鷺さんに会うのは、これが初めてだ。

 あくまで文化祭の買い出し。そう自分に言い聞かせているのに、いつもより少し早く目が覚めて、いつもより少し髪を整えてしまった。

 我ながら、どうかしてる。


「——結弦くん!」


 顔を上げると、人混みの中をこちらへ歩いてくる白鷺さんが見えた。

 白いブラウスに、淡い水色のカーディガン。ふわりと広がるロングスカート。いつもは綺麗に下ろしている黒髪が、今日はゆるく後ろでまとめられていた。

 清楚で、上品で、でもどこか年相応の可愛らしさがあって。

 正直――

 目が離せなかった。

 制服姿は毎日見ている。


 なのに。

 今日は、まるで別人みたいだった。


「お待たせしました。……あの、変じゃありませんか?」


 白鷺さんが俺の前で足を止め、スカートの裾を少しだけ摘んで、不安そうに上目遣いで見てきた。


「……いや。すごく、似合ってる」


 嘘をつけなかった。素直な感想が、口からこぼれた。


「っ……」


 白鷺さんが、ぴたりと固まった。

 みるみるうちに、耳まで赤くなっていく。


「あ、ありがとうございます……」


 慌てて視線を逸らしながら、口をもごもごさせた。

 いつもなら「恋人ですから♡」と余裕たっぷりに笑うはずだ。


「こ、恋人……ですから……っ、……ふにゅう」


 最後まで言葉にならなかった。両手で顔を覆って、そのまま俯いてしまった。

 ……なんで白鷺さんがダメージ受けてるんだよ。

 ツッコミを入れようとしたけど、自分の心臓もうるさすぎて、それ以上の言葉が出てこなかった。


 気を取り直して、俺たちは大型のホームセンターへと向かった。

 店内には木材やペンキ、棚のパーツなど、文化祭で使えそうな備品が所狭しと並んでいる。


「結弦くん、見てください。この板、すごく木目が綺麗ですよ」


 白鷺さんが俺の袖をぐいぐいと引っ張り、木材コーナーの奥へと誘う。

 彼女はしゃがみ込んで板の質感を確かめ始めた。俺も隣に並んでしゃがむと、彼女がふっと俺の方に顔を寄せ、耳元で囁いた。


「結弦くん」

「ん?」

「この板と……私の手」


 そう言って、白鷺さんはそっと右手を差し出した。


「どっちの方が、すべすべだと思いますか?」

「…………は?」


 一瞬、思考が止まる。


「さ、触ってみます?」


 無防備に差し出された小さな手。


「……いや、その」

「恋人ですから♡」


 その一言に押され、俺は恐る恐る彼女の指先へ触れた。


「…………」


 柔らかい。

 思ったより少しだけ冷たくて、驚くほど滑らかだった。


「どうですか?」

「……反則です」

「ふふっ」


 白鷺さんは満足そうに笑った。

 くすくすと楽しそうに笑うその姿は、完全に俺の動揺を楽しんでいる。

 

「……もういい、これにするぞ!」

「ふふっ、照れ隠しも可愛いですね」


 次に寄った百円ショップでは、白鷺さんが一点の曇りもない瞳で、猫のイラストが描かれたマグカップをじっと見つめていた。


「かわいい……」


 白鷺さんが猫のマグカップを見つめる。


「結弦くん」

「ん?」

 

「……文化祭、無事に終わったらさ」

「?」

「……また一緒に来よう。その時に、俺がそれを買ってプレゼントするよ」


 俺が少し視線を逸らして言うと、白鷺さんは一瞬だけ驚いたように目を見開いた。

 だが、すぐにその表情は蕩けるような甘い笑顔に変わる。


「!? ……今の言葉、忘れませんから。文化祭、早く終わらせちゃいましょうね。二人だけの、特別なデートのために」


 そう言って。

 白鷺さんは嬉しそうに笑った。

 そして。

 そっと俺の袖を掴む。


「文化祭、頑張りましょう」

「……そうだな」


 それだけで十分だった。


「今ならお二人に、ペアストラップがセール中ですよ」


 完全にカップルだと思われている。


「あ、いえ。そういうんじゃ——」

「恋人ですから♡」


 白鷺さんが、今度はいつもの小悪魔スマイルで即答した。

 ……さっきの動揺はどこに行ったんだよ。立ち直り早すぎだろ。

 結局、いっぱいの荷物を抱えて店を出た。


「私も持ちます」

「重いからいいよ」

「でも——」

「男の俺が持つのが普通だろ」


 少し間があった。


「……ありがとうございます、結弦くん」


 今度は「恋人ですから」とは言わなかった。

 素直な声だった。その笑顔に、俺の胸がまた少しだけざわついた。


 駅へ戻ろうとした、その時だった。

 ザーッ!!

 空が急に暗くなったかと思うと、激しい夕立が降り出した。


「わっ」

「うわ、マジか」


 傘なんて持っていない。俺は反射的に、白鷺さんの手を——手首じゃなく、指を絡めるように、強く掴んだ。


「走るぞ。遅れるな」

「あ……っ、は、はいっ」


 細い手をしっかり握ったまま、駅の屋根まで一気に駆け抜けた。

 屋根の下に滑り込んだ時には、二人とも少し濡れて、肩で息をしていた。


「……災難だったな」


 俺が息を整えながら隣を見ると、白鷺さんが呆然とした様子で俺の顔をじっと見つめていた。

 少し濡れた黒髪が頬に張り付いている。潤んだ瞳が、夕立の灯りを反射してキラキラと光っていた。


 綺麗だった。

 そう思ってしまってから、慌てて視線を逸らした。


「……白鷺さん? どこか痛めたか?」

「え、あ……いえ。大丈夫、です。ただ……」


 彼女は視線を下に向けた。耳まで真っ赤にして、自分の手を意識するように、指先がわずかに震えている。

 そこでようやく気づいた。

 俺は、彼女の手を握ったまま、まだ離していなかった。しかも、自分でも驚くほど強く。


「あ、悪い——」


 指の力を緩めると、白鷺さんがギュッと握り返してきた。


「……は、離さないでください」


 雨音の中に、その声は小さく落ちた。


「え?」

「……急に、あんなに強く引っ張るから」


 俯いたまま、絞り出すような声で続ける。


「私、びっくりして……心臓が、まだうるさいんです」


 いつもの余裕はどこにもなかった。小悪魔な笑みも、「恋人ですから♡」も出てこない。ただ俺の不意打ちに翻弄されて、真っ赤になっている。それだけだった。


 俺は何も言えなかった。

 気の利いたツッコミも、照れ隠しの一言も、全部どこかへ消えた。ただ、握り返してきた手の力が、思ったより強くて。それだけが、やけにはっきりと伝わってきた。

 雨音が、屋根を叩き続けている。

 どれくらいそうしていたか、わからない。


「……共同作業ですね、結弦くん」


 少し間を置いて、白鷺さんがようやく顔を上げた。その声には、さっきまでの震えがなかった。いつものように、静かに微笑んでいた。

 ただ、手は離さなかった。


「そうだな」


 俺も、離さなかった。

 雨が、少しずつ弱まっていく。雲の切れ間から夕日が差して、濡れた街がオレンジ色に染まり始めた。


「——帰りましょうか」

「そうだな」


 歩き出す。繋いだ手は、そのままだった。

 濡れた石畳に、影が二つ並んで伸びた。

 ……文化祭の買い出し。ただ、それだけのはずだった。

 なのに今日一日が、文化祭そのものよりも、ずっと深く胸に刻まれているような気がした。

 繋いだ手の温度が、夜になっても、なかなか消えなかった。






第14話を読んでいただきありがとうございます!


今回は文化祭の買い出し……

のはずが、気づけば二人にとって少し特別な一日になっていました。

制服では見られない私服姿。

雨の中で思わず繋いだ手。

そして、少しずつ変わっていく二人の距離。

楽しんでいただけたら嬉しいです。


「もうデートじゃん!」

「私服の白鷺さん可愛すぎ!」

「文化祭編楽しみ!」


そう思っていただけましたら、ぜひ★やフォローで応援していただけると励みになります!


次回、第15話。


『恋人なら、居残り作業くらいしますよね?』

誰もいない放課後。

二人きりの教室で、また少しだけ距離が縮まります。


第14話を読んでいただきありがとうございます!


今回は文化祭の買い出し……

のはずが、気づけば二人にとって少し特別な一日になっていました。

制服では見られない私服姿。

雨の中で思わず繋いだ手。

そして、少しずつ変わっていく二人の距離。

楽しんでいただけたら嬉しいです。


「もうデートじゃん!」

「私服の白鷺さん可愛すぎ!」

「文化祭編楽しみ!」


そう思っていただけましたら、ぜひ★やフォローで応援していただけると励みになります!


次回、第15話。


『恋人なら、居残り作業くらいしますよね?』

誰もいない放課後。

二人きりの教室で、また少しだけ距離が縮まります。

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