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「恋人のフリだけですから♡」と言った学校一のお嬢様が、毎日俺を本気で落としにくる。  作者: リディア


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第13話 恋人なら、共同作業くらいしますよね?

「よーし、今年の文化祭の出し物、話し合うぞー!」


 先生の合図で、教室が一気に沸いた。


「模擬店やりたい!」

「お化け屋敷でしょ!」

「いや絶対ロミジュリ!」


 黒板に案が積み上がっていく。最後の本格的な文化祭、ということもあって、みんな気合いが違う。

 俺は少し引いた目で眺めていた。


「じゃあ先に実行委員を二名決めるぞ。立候補いるかー?」


 さっきまでの熱気が、嘘みたいに静まり返った。

 当然だ。実行委員といえば、準備に走り回り、放課後は居残り、クラスの意見をまとめる激務の代名詞である。

 俺はそっと視線を逸らした。


「はいっ!」


 元気よく手が上がった。

 西園寺さんだ。


「おお、西園寺やるか?」

「違います先生! いい案があります!」

 嫌な予感がした。


「高坂くんと白鷺さん! 恋人なんだから、二人でやればよくないですか!?」


 ドカーン。


「「「「それだぁぁぁ!!」」」」

「高坂と白鷺さん、完璧じゃん!」

「夫婦の初共同作業! ヒュー!」


 ……いやいやいや。恋人だからって、なんで実行委員までセット販売なんだよ。

 俺が断ろうと口を開きかけた、その時。


「……わかりました」


 隣から、凛とした声が響いた。

 白鷺さんが立ち上がり、先生に向かって優雅にお辞儀をする。


「私と結弦くんで、実行委員を務めさせていただきます」

「おお、さすが白鷺。高坂もそれでいいな?」

「え、いや俺は——」


 振り返った白鷺さんが、小悪魔なスマイルを向けてきた。


「恋人ですから♡」


 そう言って俺を見る。

 ……断れる空気じゃない。


「キャーーーーッ!!!」

「ごちそうさまです!!!」

「高坂ァ! サボるなよォ!」


 こうして俺の平穏な文化祭は、始まる前から跡形もなく砕け散った。


 放課後。

 俺と白鷺さんは、机を向かい合わせにして案を練っていた。


「黒板の案をまとめると……『模擬店』か『お化け屋敷』が有力ですね」


 白鷺さんが、几帳面な字でノートに書き出している。


「お化け屋敷は準備が重すぎる。模擬店の方が無難じゃないか」

「でも、せっかくなら記憶に残るものをやりたいです。他のクラスと差別化できるような」

「真面目だな」

「実行委員を引き受けた以上、責任があります。結弦くんはどうなんですか」

「俺は、クラスのみんなが無理なく楽しめることが一番だと思う。売上とか順位とか、あんまり気にしなくていいんじゃないか」


 白鷺さんが、少し驚いたように目を丸くした。


「……結弦くんらしいですね」

「悪いか」

「いえ。そういうところ、いいと思います」


 意見は違う。でも、不思議と話しやすい。

 気づけば「じゃあ間を取ろう」という言葉が、自然に出ていた。


「じゃあ、お互いの案を紙に書いてみよう。まず一個ずつ」

「賛成です」


 俺たちは、同時にルーズリーフに手を伸ばした。

 コツン。


「……っ」


 俺の手と、白鷺さんの手がぶつかった。

 覗き込んだ顔と顔が、数十センチの距離で止まる。

 ふわりと、いつもの甘い香りが漂ってくる。


「……」

「……」


 お互い、動けなかった。

 白鷺さんの耳が、じわじわと赤くなっていく。


「……ど、どうぞ」

「……どうぞ」


 同時だった。

 俺たちは顔を見合わせて、どちらからともなく笑った。


 それぞれ案を書いて、机の上に並べた。

 俺が書いた紙。

 白鷺さんが書いた紙。

 ゆっくり、並べる。


『喫茶店』

『喫茶店』


「……」

「……」


 間。


「……偶然、ではないのかもしれませんね」


白鷺さんは俺の耳元に顔を寄せると、少しだけ顔を赤くしながら、悪戯っぽく囁いた。


「私たちの相性……」

少しだけ照れたように笑って。


「結弦くんが思っているより、ずっといいのかもしれませんよ?♡」



「息ぴったりじゃん!!」


 西園寺さんがひょっこり顔を出して、バンバンと机を叩いた。いつの間に来てたんだこの

人。


「いやー、ごちそうさま! 恋人は以心伝心だね!」

「いや、偶然だって!」

「……たぶん」


 思わず付け足した。

 白鷺さんが、口元を手で隠しながらぷっと吹き出した。俺も、釣られて笑った。

 西園寺さんだけが「もう何その空気! 尊すぎるんだけど!」と言いながら帰っていった。


「よし、高坂と白鷺。前に出て発表お願い」


 先生に呼ばれ、俺たちは黒板の前に立った。

 クラス全員の視線が、一斉に向いてくる。


「……緊張する」


 小声で呟くと。

 くいっ。

 制服の袖が、小さく引っ張られた。

 隣を見ると、白鷺さんが上目遣いで、静かに微笑んでいた。


「大丈夫です」

「……白鷺さん」

「恋人ですから♡」


 俺は思わず小さく吹き出してしまった。

 さっきまでの緊張が、なんだか馬鹿らしくなった。


「……そうだったな。というわけで、クラスの出し物は『喫茶店』を提案します」


 俺たちは並んで、『喫茶店』の企画を発表した。


「はーい質問! メニューとかはどうするの? 恋人限定のラブラブメニューとかあるわけ!?」

 

 くっ。西園寺さんめ…。


「ありません! 普通の喫茶店です!」

「なんだよつまんねーな! せっかくお前らがやるんだから、イチャイチャした接客見せろよ!」

 クラス中が「そうだそうだ!」とここぞとばかりに囃し立てる。


「皆様、ご期待いただきありがとうございます。でも、結弦くんとの甘い時間は……『私だけの秘密』にさせてくださいね♡」

「ギャアアアアアアア!!(大歓声)」


 帰り道。

 夕焼けに染まった通学路を、並んで歩いた。


「今日は疲れた」

「はい」


 白鷺さんが、小さく息を吐く。

 しばらく、二人とも何も言わなかった。


「……共同作業、楽しかったです」


 ぽつりと、白鷺さんが言った。


「……俺も」


 少し照れくさくて前を向いたまま答えた。

 少しだけ迷って。

 それでも俺は、彼女の右手に、自分の左手を重ねた。


「っ……」


 白鷺さんが、小さく息を呑む。

 でも、今日はもう言い訳を探さなかった。

 彼女も、俺の指に自分の指をしっかりと絡めてきた。

 文化祭のポスターが、風に揺れていた。


「今年の文化祭」

「はい」

「なんか、いい気がする」

「……はいっ」


 夕日の中で、白鷺さんが笑った。

 文化祭。

 きっと、

 今年は去年とは違う。

 そんな気がした。




第13話を読んでいただきありがとうございます!


文化祭編、スタートです!


今回は「恋人なら共同作業」。


同じ案を書いてしまう二人に、作者も「もう付き合ってるじゃん」と思いながら書いていました(笑)


次回はいよいよ買い出し。


でも本人たちは「文化祭の準備」と思っているだけ。


周りから見たら、完全にデートです。


「共同作業最高!」


「以心伝心ニヤニヤした!」


「文化祭編楽しみ!」


と思っていただけたら、★やフォローで応援していただけると嬉しいです!



次回、第14話。

恋人なら、一緒に買い出し(デート)くらいしますよね?

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