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「恋人のフリだけですから♡」と言った学校一のお嬢様が、毎日俺を本気で落としにくる。  作者: リディア


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第10話 恋人なら、手くらい繋ぎますよね?

 昼休み。


 いつものように俺と白鷺さんの机をくっつけて弁当を食べていると、向かいに座った西園寺さんが、箸を咥えながらとんでもない爆弾を投下した。


「ねぇねぇ、二人とも。付き合ってもう一週間くらいだよね? 手とか、繋いでるの?」


 ピタリ。

 教室が、一瞬静まり返った。


 男子たちは弁当の唐揚げを落とし、女子たちは一斉にこちらへ身を乗り出す。

 俺は、味噌汁を喉に詰まらせそうになった。


 手。


 そんなもん、繋いでるわけあるか。

 みんなは知らないと思うが、こっちとら擬似恋人だぞ。

 そんなんで手なんてどんな状況で繋げるっていうんだ。まったく…。


 しかも沈黙する俺たちを見て、西園寺さんが目を丸くしてるし……。

 白鷺さんは……ちょっと照れてるかな?


「え? まさかまだ?」

「えぇぇぇ!?」

「意外! 白鷺さんならガンガンいってると思ってた!」


 朝比奈さんが「陽菜、また余計なこと……」と呆れているが、時すでに遅し。

 どうやって誤魔化そうかと俺が冷や汗を流していると。


「つ、繋いでます!」


 白鷺さんが、ガタッと立ち上がって宣言した。

 顔は真っ赤で、声は少し上ずっている。


「おおぉぉぉーー!!!」


「毎日!?」


 西園寺さんが、ニヤニヤしながらさらに追撃する。

 白鷺さんは、一瞬だけ視線を泳がせ。


「……ま、毎日、です」


 と、大きく頷いてしまった。


 おい!!

 見栄を張って嘘をつくのはいいが、その嘘、後で回収する羽目になるのは俺たちなんだぞ!?


「いいなぁ! 青春だね! ザ・恋人って感じ!」


 西園寺さんが手を叩いて喜び、教室はすっかりお祭り騒ぎになってしまった。


 俺は頭を抱え、白鷺さんは顔を真っ赤にしたまま、下を向いてプルプルと震えていた。


 放課後。


 夕焼けに染まる、いつもの通学路。

 白鷺さんは、俺の裾を掴まない。

 いつもなら「恋人ですから♡」と言いながら伸びてくる手が、今日は来ない。


 カツ、カツ、と二人の足音だけが静かに響く。


「……今日は、裾じゃないんだな」


 耐えきれず、俺はぽつりとこぼした。


「っ!」


 白鷺さんの肩が、びくっと大きく跳ねた。

 振り返って見ると、夕日よりも赤く染まった耳を隠すように、少しだけ俯いている。


 しばらく、無言のまま歩いた。


 視界の端で、彼女の右手が落ち着きなく動いているのが見えた。


 すっ、と俺の制服の裾へ手が伸びてくる。

 触れる直前で、ぎゅっと握りこぶしを作って引っ込める。


 数歩歩いて、また手が伸びる。

 また引っ込める。


 その繰り返し。


 ……本当にずるい。

 そんな顔されたら……。 


 俺は少し歩調を緩め、彼女の隣に並んだ。


「……嘘、ついちゃいましたから」


 ぽつりと、白鷺さんが呟いた。


「西園寺さんのことか」

「……はい」


 そこで、彼女の口が閉じた。

 代わりに。

 彼女の小さな手が、そっと俺の右手に近づいてきた。


 触れるか、触れないか。

 数ミリの距離で、彼女の指先が迷うように震えている。


 そして。


 ちょん、と。


 冷たい指先が、俺の手に少しだけ触れた。


「……っ」


 彼女はハッとして、手を引っ込めようとした。


 俺は、逃げようとした彼女の手を見た。

 小刻みに震える、小さな手。

 そんな顔されたら。

 俺は少しだけ笑って。

 逃げようとした彼女の手を、自分から、ぎゅっと握りしめた。


「…………!!」


 白鷺さんが、完全に停止した。

 驚きに見開かれた瞳が俺を見つめ、耳まで真っ赤に茹で上がっていく。


 俺の手に、彼女の小さな手が、すっぽりと収まっている。

 初めて触れた彼女の手は、とても柔らかくて、少しだけ冷たかった。

 しばらく、二人とも無言のまま歩いた。


「……手、小さいな」


 照れ隠しのように呟くと、白鷺さんは少し俯いたまま、小さく笑った。


「結弦くんの方が……温かいです」

「そうか?」


 俺は、繋いだ手に少しだけ力を込めた。

 すると、彼女の小さな指も、俺の手をそっと握り返してくる。


「……嫌、でしたか?」


 少しだけ不安そうに、上目遣いで尋ねてきた。

 いつもの小悪魔な笑みは、そこにはない。


「いや」


 前を向いたまま、はっきりと答えた。


「離すなよ」

「…………」


 白鷺さんは、小さく息を呑んだ。

 そして、花が綻ぶような笑顔を浮かべて。


「……はい。こ、恋人ですから♡」


 夕焼けに染まる通学路。

 二人の影が、一つに重なって長く伸びている。


 ふと、繋いだ手に少しだけ力がこもった。

 白鷺さんが、また握り返してきたのだ。


「……力強くないですか、今」


 上目遣いで、少しだけ笑いながら言ってくる。


「そうかな?」


 俺は、視線を逸らしたまま答えた。


「……気のせいだよ」

「ふふっ」


 彼女は嬉しそうに笑い、もう少しだけ俺の手を握り返した。

 家に着くまで、その手が離れることは、一度もなかった。





第10話を読んでいただきありがとうございます!


ついに二人が初めて手を繋ぎました。


白鷺さんが勇気を振り絞った瞬間、そして結弦が握り返した瞬間、少しでもニヤニヤしていただけたなら嬉しいです。


「ここ好き!」

「手つなぎ最高!」

「白鷺さん可愛すぎる!」


と思っていただけましたら、ぜひ★やフォローで応援していただけると励みになります!


次回もよろしくお願いいたします!


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