第二の使徒
こんにちは。関俊彦です。
第8話をお届けします。
これまで武具亜といえば、蟻人や災厄の使徒が直接現れて戦う存在として描いてきました。
しかし今回登場する「裏切りの使徒 トレイター・コード」は、これまでの敵とは少し性質が異なります。
剣や銃で戦う相手ではなく、人の信頼や組織そのものを侵食し、内側から崩壊させていく存在です。
私自身、「見えないところで静かに広がる恐怖」を描く作品が好きで、今回はそんな雰囲気を意識して書いてみました。
また、世界最大のガーディアン企業であるNEXT社にも大きな異変が訪れます。
征人たちが知らないところで進行する新たな災厄。
そして災厄の使徒たちの本当の恐ろしさ。
楽しんでいただければ幸いです。
それでは、第8話をお楽しみください。
NEXT社地下ラボ。
風間、赤城、黄瀬。
三人は白い研究ベッドに固定されていた。
身体中に接続された無数のケーブル。
ルミナスギアの損傷解析。
精神汚染の検査。
そして――災厄の使徒との接触による影響調査。
世界最大のガーディアン企業であるNEXT社は、グリーフ・ミラーとの戦闘データを必死に解析していた。
「脳波上昇!」
「精神領域に異常コード発生!」
「何だこれは!?」
モニターに並ぶ数値が暴走する。
風間迅の身体が震えた。
続いて赤城剛士。
黄瀬悠真。
三人の身体が同時に紫紺へ染まる。
「なっ……!?」
研究員たちが立ち上がる。
光ではない。
液体だった。
皮膚が溶ける。
骨が崩れる。
ルミナスギアの残滓さえ液体へ変わる。
「制御プログラム起動!」
「精神隔離システムを作動させろ!」
「急げ!!」
だが遅い。
三人は完全に液体化した。
床へ広がる。
透明な液体の中で何かが脈打っていた。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
まるで巨大な心臓。
その瞬間。
床の色が反転した。
白は黒へ。
黒は白へ。
研究室全体が裏返る。
「なんだ……これは」
若い研究員が後退る。
その足元から紫黒のノイズが立ち上がった。
ノイズは人の形を作る。
頭。
腕。
胴体。
だが輪郭は定まらない。
まるで壊れた映像のようだった。
そして。
研究員たちの脳へ直接声が響く。
「裏切りの使徒」
空気が震える。
「トレイター・コード」
若者の声。
老人の声。
女の声。
子供の声。
無数の声が重なり合う。
聞くだけで頭がおかしくなりそうだった。
一人の研究員が膝をつく。
視界の中に見えた。
ノイズの奥。
そこには絶望した自分自身がいた。
「ひっ……」
その姿が囁く。
『お前は捨てられる』
『仲間は裏切る』
『誰も助けてくれない』
研究員は悲鳴を上げた。
「警報だ!!」
別の研究員が叫ぶ。
だが。
鳴り響いた警報音は途中で変質した。
優しい子守歌。
温かな旋律。
警戒すべき警報を聞きながら研究員たちは安心感を覚えてしまう。
「なに……?」
モニターを確認した技術者が青ざめる。
「防衛AIが侵入者を歓迎しています!」
「何!?」
「警備ドローンが護衛モードに変わっています!」
NEXT社の防衛システムが丸ごと裏切っていた。
トレイター・コードが笑う。
「忠誠は憎悪へ」
紫黒のノイズがサーバー群へ流れ込む。
「信頼は猜疑へ」
配線が黒く染まる。
「友情は敵意へ」
システムログが反転する。
「さあ」
ノイズの顔が歪む。
「美しく裏返りなさい」
研究員たちの瞳が紫黒に染まる。
反転人。
最初の犠牲者たちだった。
「最高です」
「壊したい」
「裏切りたい」
笑い声が研究室を満たす。
トレイター・コードから伸びた光が彼らの両手へ流れ込む。
指先が刃物へ変形した。
「この建物を掌握する」
次の瞬間。
紫黒の波動がビル全体へ広がった。
地下。
開発室。
会議室。
休憩所。
社員食堂。
NEXT社の全てへ。
侵食。
反転。
汚染。
廊下を歩いていた女性社員が立ち止まる。
頭の中に声が響く。
『隣の同僚は君を見下している』
『上司は君を利用しているだけだ』
『家族ですら君を裏切る』
身体が硬直する。
恐怖。
疑念。
不信。
その胸を反転人の腕が貫いた。
女性の身体が紫黒の粒子へ変わる。
吸収。
消滅。
NEXT本社ビルの窓が一階ずつ紫黒に染まっていく。
巨大な魔物が覚醒するかのように。
システム課。
「逃げろ!!」
血まみれの社員が飛び込んでくる。
「地下がやられた!」
オペレーターたちは即座に端末へ向かった。
「バトルネット緊急遮断!」
「全ガーディアン回線切断!」
プログラム起動。
成功。
モニターに表示される。
「助かった……」
誰かが呟いた。
だが。
視界が紫黒に反転する。
「え?」
画面の中の自分が笑っている。
その瞬間。
胸を貫かれた。
存在が崩れる。
記憶が消える。
名前が消える。
人生が消える。
そして何も残らなかった。
最上階。
社長室。
「何が起きている!!」
NEXT社社長が怒鳴る。
返事はない。
次の瞬間。
ドアが吹き飛んだ。
反転人たち。
そして中央に立つトレイター・コード。
「あなたは特別です」
ノイズが笑う。
「私が直々に吸収してあげましょう」
紫黒の身体が広がる。
社長を包む。
悲鳴。
そして沈黙。
吸収された瞬間。
NEXT社の全情報がトレイター・コードへ流れ込んだ。
「なるほど」
ルミナスギア。
ガーディアン協会。
ルミナス・マニフェスターズ。
全てを理解した。
「次は排除ですね」
反転人が報告する。
「バトルネットは遮断されています」
「ですが、バイタルチェックネットワークは健在です」
ノイズが大きく歪んだ。
「それは素晴らしい」
報告した反転人が吸収される。
知識だけを取り込む。
そして。
トレイター・コードは両腕を広げた。
「では」
巨大な紫黒の翼が広がる。
「裏切りを世界へ」
波動がネットワークへ流れ込む。
NEXT社所属ルミナス・マニフェスターズ。
数千人規模の戦士たちへ。
その瞬間。
世界中で悲鳴が上がった。
戦闘中だった者。
休暇中だった者。
訓練中だった者。
全員が紫黒の塵へ変わる。
断末魔さえ残せない。
世界最大のガーディアン企業は。
わずか数十分で壊滅した。
同時刻。
SmB社。
システム調整をしていた飛鳥井光が顔を上げる。
「……え?」
モニターが真紅に染まる。
NEXT社全回線消失。
バトルネット緊急遮断。
そして。
さらに異常があった。
「待って……何これ」
光の顔色が変わる。
バイタルネットを流れる紫黒の波。
まるで生き物のように。
世界中へ広がっている。
「征人くん!!」
光が叫ぶ。
その声には。
今まで聞いたことのない恐怖が宿っていた。
第8話を読んでいただき、ありがとうございました。
今回は戦闘シーンよりも、「裏切りの使徒 トレイター・コード」の恐ろしさを描くことを意識しました。
悲しみの使徒 グリーフ・ミラーが感情を操る存在だとすれば、トレイター・コードは信頼や組織そのものを破壊する存在です。
武器や力で戦うだけなら対処のしようがあります。
しかし、人と人との繋がりやシステムそのものが敵に利用される場合、その脅威はさらに厄介になります。
今回、NEXT社は世界最大のガーディアン企業でありながら、内部から崩壊するという最悪の事態に見舞われました。
風間、赤城、黄瀬の三人に起きた異変も、今後の物語に大きく関わっていきます。
次回からは征人たちの戦いもさらに激しさを増していきます。
そして災厄の使徒たちが何者なのか、その目的にも少しずつ迫っていく予定です。
63歳の会社員が仕事の合間に書いている物語ですが、毎週更新を続けられているのは読んでくださる皆様のおかげです。
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「この使徒が気になる」
そんな一言でも大歓迎です。
本作は基本的に毎週日曜日更新を予定しております。
ぜひ、引き続き見届けていただければ幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。




