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立ち上がる

こんにちは。

63歳のサラリーマンをしながら執筆しております、関俊彦です。

第6話「立ち上がる」をお届けします。

前回、征人たちは悲しみの使徒 グリーフ・ミラーとの戦いに敗北し、大きな代償を払いました。

仲間を失い、神子は昏睡状態。

征人自身も、何のために戦うのか分からなくなっています。

今回の話は派手な戦闘ではなく、征人が再び前を向くための物語です。

また、この世界の秘密や、神子と制人が隠していた事実にも少しずつ触れていきます。

物語としてはここが一つの転換点になります。

絶望の中で人はどう立ち上がるのか。

そして征人の中で起こり始めた異変とは何なのか。

そんなことを考えながら書きました。

少しでも楽しんでいただければ幸いです。


それでは、第6話「立ち上がる」をお楽しみください。

SmB社事務所。

静かだった。

機械音だけが、やけに耳につく。

征人は、椅子に深く腰掛けたまま、虚ろな目で一点を見つめていた。

「……何が起こったんだ」

返事はない。

昨日まで。

右隣の席では神子が、

「先輩、聞いてます!?」

と、騒がしいくらい話しかけてきた。

今、その席は空。

神子は地下のデータ修復カプセルの中。

目を覚ます保証はない。

正面の端末には、制人がいた。

ソフトウェアを解析しながら、二人を見て笑っていた。

もう、いない。

「災厄の使徒って……なんなんだよ」

乾いた声。

「グリーフ・ミラーってなんなんだ」

机を掴む。

震える。

「武具亜って、蟻人じゃなかったのかよ……」

同じ言葉を、何時間繰り返したのか分からない。

「制人……いるんだろ」

掠れた声。

「隠れてないで……出てこいよ」

返事はない。

征人はソファへ倒れ込む。

目は落ち窪み、顔色は土気色。

もう、“立ち上がる理由”を失っていた。

「俺は……どうすればいいんだ」

沈黙。

「誰か……教えてくれよ」

そのとき。

――バン!!

事務所のドアが乱暴に開かれた。

入ってきたのは、スーツ姿の男が三人。

中央の男は、サングラスを外しながら征人を見る。

「神征人だな」

冷たい声。

「……誰だ、お前」

「NEXT社渉外室室長、橋本だ」

NEXT社。

この世界最大の武具亜討伐企業。

SmBとは比較にもならない巨大組織。

橋本は部屋を見回し、鼻で笑う。

「手短に言おう」

書類を放り投げる。

「風間、赤城、黄瀬が敗北した件の口外禁止」

さらに、別の書類。

「そして、この会社をNEXT社へ譲渡しろ」

征人の目が動く。

「濱兄妹は消えた。お前一人じゃ会社は維持できない」

橋本が近づく。

「悪い話じゃない」

低い声。

「一生遊んで暮らせる金をやる」

沈黙。

「売れ」

征人が、ゆっくり立ち上がる。

「……ふざけるな」

「返事が遅ぇな」

右の巨漢が征人へ詰め寄る。

「聞こえなかったか?」

左の男が、細いペン状の機械を取り出す。

征人の腕へ押し当てる。

「っ……!」

激痛。

データ神経へ直接痛覚を書き込む拷問具。

「痛ぇだろ?」

男が笑う。

「早く従えよ」

橋本が、征人の顔を掴む。

「お前に選択肢は――」

その瞬間。

「征人さん!」

女性の声。

世界が――ズレた。

次の瞬間。

征人は、拷問具を持った男の“後ろ”に立っていた。

「……え?」

征人自身が驚く。

無意識。

だが身体は動いていた。

背を押す。

拷問具が、羽交締めしていた男の首筋へ突き刺さる。

「あぁぁぁぁぁ!!」

男が悶絶する。

橋本たちが凍りつく。

「その人を連れて帰りなさい」

静かな女性の声が響く。

「今の映像はネットへ拡散済みです」

声は続く。

「あなた達はNEXT社に粛清されるだけです」

橋本の顔色が変わる。

「な、なんだと……!」

「撤収だ!」

三人は転がるように逃げていった。

静寂。

征人だけが、立ち尽くしている。

「……神子?」

声が震える。

「目が覚めたのか!?」

部屋を見回す。

「どこだ!? 神子!」

「神子ちゃんは、まだ目覚めてないわ」

奥から声。

飛鳥井光が現れる。

「今のは、神子ちゃんが作った非常時用AI、“M1”」

「……AI?」

「うん」

光は苦笑する。

「もし自分が倒れたら、制人さんも征人さんも無茶すると思ってたんだって」

コンソールを操作する。

空間に光が走る。

そして。

神子の立体映像が現れた。

笑っている。

いつものように。

「征人」

征人の目が揺れる。

「……神子」

映像の神子は、少し困ったように笑う。

「何から話そうかな」

――征人は、初めて顔を上げた。


第6話「立ち上がる」を読んでいただき、ありがとうございました。

今回は大きな戦闘シーンはありませんでしたが、征人にとっては非常に重要な回になりました。

前回、悲しみの使徒 グリーフ・ミラーとの戦いによって、征人は仲間を失い、生きる目的さえ見失いかけていました。

そんな征人の前に現れたのが、神子が残したAI「M1」です。

私はヒーロー物やロボット物が好きなのですが、強い主人公よりも、一度挫折した主人公が再び立ち上がる瞬間に強く惹かれます。

今回の話では、征人が完全に立ち直ったわけではありません。

それでも、神子の言葉によって少しだけ前を向き始めました。

また、破魔家の異能やルミナスギアの適性、そして神子の「停止」の力など、今後の物語に関わる要素も少しずつ明かし始めています。

ここから先は、災厄の使徒との戦いだけでなく、世界の秘密や征人たち自身の秘密にも迫っていく予定です。

63歳になってから小説を書き始めましたが、毎週更新を続けられているのは読んでくださる皆様のおかげです。

感想やコメントをいただけると、本当に励みになります。

「面白かった」「続きが気になる」など、一言でもいただけると嬉しいです。


なお、本作は毎週日曜日に更新予定です。

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