最悪の日~始まり
第三話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回は、神子、征人、制人、それぞれが抱える“異変”を中心に描いてみました。
そして、ついに災厄の使徒が本格的に登場します。
最初は「仮想世界で戦うヒーローもの」を書こうと思っていたのですが、書いているうちに、感情や存在そのものについて考える物語になってきました。
63歳になってから小説を書き始めるとは、自分でも思っていませんでしたが、毎回「次はどうなるんだろう」と考えながら楽しく書いています。
少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。
――白い。
ただひたすらに白く、輪郭のない空間。
神子は、その奥にある“出口”へと歩いていた。
(あそこに行けば……)
そのとき。
「お前は私だ」
背後から、声。
「その身体を、私に寄こせ」
振り向いた瞬間、世界が歪む。
「……駄目。渡さない!」
神子は自分自身を抱きしめる。
まるで、何かに“侵入される”のを拒むように。
次の瞬間――
ドクン。
胸に激痛が走る。
「……っ!」
反射的に、胸元を押さえる。
「まあいい」
声は、静かに笑った。
「お前の力も無限ではない。時が来れば――動き出す」
視界が白に呑まれる。
神子は、飛び起きた。
荒い呼吸。全身に汗。
「……また、この夢」
ウゥゥゥゥゥ……
心臓の上――黒子が、低く“鳴動”する。
(来てる……)
「まだ、負けられない」
自分の頬を叩く。
意識を現実に引き戻す。
「……よし!」
無理やり笑う。
「今日も蟻人を倒して、稼ぐわよ」
「昨日は……なんだったんだ」
征人は椅子に座り、右手を見つめる。
(もう斬っているはずなのに――)
感覚では“終わっている”。
だが、現実の身体は“これから動く”。
ズレている。
確実に。
「疲れ……じゃないな」
むしろ、逆だ。
身体より、感覚のほうが“先に行っている”。
(俺のほうが……速くなってる?)
ぞくり、と背筋が震える。
「……まあいい」
拳を打ち合わせる。
「なったときに考えよう」
冷蔵庫からプロテインを取り出し、一気に飲む。
その背後――
黒いノイズが、ゆっくりと広がる。
本人だけが気づいていない。
「……このままじゃ、間に合わない」
制人は画面を睨む。
表示されているのは――ロストプログラム「リープ」
空間転移、あるいは“存在の移動”。
(神子の中にある“あれ”を――)
移せるかもしれない。
だが同時に。
(失敗すれば、神子は――)
考えを振り払う。
「やるしかない」
机の上には、紅いクリスタル。
初めて武具亜を倒したときに得たもの。
そこに記録されていた“禁じられたコード”。
「フォートレスナックルでの発動は可能……だが」
小さく呟く。
「俺も巻き込まれる」
それでも、目は迷っていない。
「それでいい」
空が、蒼く“裂けた”。
――異常。
武具亜出現時の黒鉄色とは、明らかに違う。
「……これは、俺たちの案件だ」
NEXA社の赤城剛士が低く言う。
「他社は呼ぶな」
ルールだ。
ガーディアン同士の干渉は禁止。
「了解」
風間迅が頷く――はずだった。
だが。
「……なんだ、これ」
声が、揺れる。
空から“蒼”が落ちてくる。
光ではない。
液体のように、積もっていく。
ぐちゃり、と。
地面に“積み上がる”。
「……おい、やばくないか?」
黄瀬が一歩下がる。
それは、人の形を作り始めた。
高さ、約二メートル。
半透明。
青白い身体。
その表面を――
“涙”が流れ続けている。
ポタ、ポタ、と。
だが、地面に落ちる前に消える。
涙が、集まる。
顔の位置に。
ひとつの“目”になる。
その目が、三人を見た。
なめるように。
ゆっくりと。
――その瞬間。
頭の中に、直接“声”が響く。
逃げ場はない。
「我が名は――」
世界の音が、消える。 いや、消えたのではない。 「沈んだ」のだ。
深い、深い、情報の底へ。 叫ぼうとした赤城の喉が、鉛のように重くなる。 踏み出そうとした風間の足が、泥に囚われたように動かない。
「悲しみの使徒」
蒼いノイズが走る。 使徒が流す“涙のデータ”が地面に触れるたび、仮想空間のテクスチャが色を失い、灰色にひび割れていく。
「グリーフ・ミラー」
その目が、三人を見据える。 彼らが抱くわずかな「希望」や「勇気」という演算値を、その存在だけでマイナスへと書き換えていく。
――これが、真の絶望。 “バグ”などという生易しい言葉では括れない、世界の終焉の代行者。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
ついに「悲しみの使徒 グリーフ・ミラー」が登場しました。
これまでの蟻人とはまったく違う、“感情そのもの”を攻撃してくる存在として描いています。
今回の話から、少しずつ世界の異変や、それぞれのキャラクターが抱えている秘密も動き始めます。
今後も、征人たちの戦いを書いていきたいと思っています。
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なお、更新は毎週日曜日を予定しています。
これからも少しずつ続けていきますので、よろしくお願いいたします。




