最悪の双子-惨劇
申し訳ありません。 暑さにやられて寝込んでいました。
年には勝てないですね。
今回は、2話連続でお届けします。
夏の暑い日。
河川敷には大勢の人々が集まっていた。
親子、恋人、友人、会社帰りの同僚たち。
夜空を見上げながら、誰もが笑顔だった。
「パパ、花火楽しみだね」
「ああ。パパも毎年楽しみにしてるんだ」
司会者の声が響く。
「それでは、納涼花火大会を開始します!」
一発目の花火が夜空へ打ち上がる。
ドォン――。
色鮮やかな大輪が夜空いっぱいに咲いた。
歓声が河川敷を包む。
しかし。
誰一人として気付かなかった。
夕闇の空に、二つの紫黒のノイズが揺らめいていることを。
「きれいだね」
「きれいだね」
幼い子供のような声が重なる。
次の瞬間。
二発目の花火が夜空で炸裂した。
ドォォォォン!!
その爆音と同時に、会場の空気が凍り付く。
「……う、あ……」
一人の父親が突然頭を抱えた。
「俺が……俺があいつを見殺しにした……」
「違う……違うんだ……!」
別の女性は恋人の手を振り払い、涙を流しながら叫ぶ。
「私が悪いんじゃない!」
花火の爆音が響くたび。
人々の心の奥底に封じ込めていた罪悪感や後悔が呼び覚まされる。
囁きが心を侵食する。
叫びが絶望を何倍にも増幅する。
「死ななきゃ……」
「死ななきゃ……」
一人。
また一人。
笑顔だった人々が、自ら川へ身を投げ始めた。
そこへ。
『サウンドボム』
圧縮された轟音が塊となって降り注ぐ。
ドゴォォォン!!
橋の欄干が吹き飛び、人々が爆風に飲み込まれる。
さらに。
『サウンドブレード』
透明な超音波の刃が夜空を走る。
屋台が真っ二つに裂け、その背後にいた人々が次々と倒れていく。
悲鳴。
爆音。
水音。
それらすべてが花火の音に飲み込まれていく。
「いっぱいエネルギーが取れるね、ホロウ・スクリーム」
「いっぱい取れるね、ホロウ・ウィスパー」
二人は無邪気に笑っていた。
まるで虫取りでも楽しんでいる子供のように。
◇
数分後。
征人、真也、竜一、太哉の四人が現場へ駆け込んできた。
川へ沈んでいく人々。
燃え上がる屋台。
倒れた子供を抱き締めて泣き崩れる母親。
征人は拳を強く握り締めた。
「……間に合わなかった」
真也が空を指差す。
「あそこだ!」
紫黒のノイズの中に浮かぶ二つの小さな影。
四人は同時に叫ぶ。
「戦装ダウンリンク! ルミナスギア!」
「蒼天ヴァリアント、見参!」
「雷皇インパクター、顕現!」
「黒皇バスティオン、推参!」
「六煌ストライカー、顕現!」
六煌ストライカーが紫焔ブラスターを構える。
「紫焔連星バラージ!」
光弾が二人を襲う。
しかし。
パシュッ。
命中した瞬間、光は音もなく消滅した。
「鬱陶しいね」
「鬱陶しいね」
M1の解析が始まる。
『警告。敵の音波には精神汚染プログラムが重ねられています』
『精神を乱し、その隙に物理攻撃を仕掛ける複合型能力です』
『左がホロウ・ウィスパー。サウンドボムを使用』
『右がホロウ・スクリーム。サウンドブレードを使用』
真也が叫ぶ。
「俺たちは左だ! 征人君、右を頼む!」
「了解!」
◇
蒼天ヴァリアント、雷皇インパクター、黒皇バスティオンが一斉にホロウ・ウィスパーへ飛び込む。
「あはは」
「遊んでくれるの?」
ホロウ・ウィスパーが囁いた。
その瞬間。
真也の視界が揺らぐ。
そこには、かつて自分を裏切った黄瀬の姿。
「真也さん。また守れなかったね」
「黄瀬……!」
一瞬だけ動きが止まる。
その隙。
『サウンドボム』
轟音の塊が降ってきた。
「竜一!」
「任せろ!」
雷皇インパクターの前方に巨大な雷鼓が現れる。
「俺の新技だ!」
両手のバチを振り下ろす。
「音鼓弾!!」
ドォン!!
放たれた音弾が三発のサウンドボムを撃ち抜く。
しかし。
四発目。
五発目。
突破。
「まだ来る!」
黒皇バスティオンが神盾を構える。
「黒皇神盾!」
轟音が神盾を叩き付ける。
蒼天ヴァリアントが双剣で最後の一発を切り裂いた。
「全部は防げないか!」
竜一が歯を食いしばる。
一方。
六煌ストライカー。
「サウンドブレード!」
透明な刃が四方八方から迫る。
「鉄城腕甲フォートレスナックル!」
黄金の拳で次々と弾き返す。
ガキィン!!
ガキィィン!!
しかし。
ズバッ!
征人の背中が裂けた。
「なにっ!」
『征人さん!』
M1が叫ぶ。
『反射音です! 地形を利用して死角から攻撃しています』
「考えて戦ってるのか!」
征人が姿勢を低くする。
その瞬間。
「あーーーー」
ホロウ・スクリームが叫ぶ。
征人の脳裏に神子と制人が消えた日の記憶がよみがえる。
「やめろ……!」
思考が止まる。
そこへ。
『サウンドブレード』
透明な刃が迫る。
ガキィィン!!
フォートレスナックルが辛うじて受け止めた。
「危なかった……」
「面白いね」
「面白いね」
二人の身体がノイズに包まれる。
位置が入れ替わる。
『警告!』
『能力対象変化!』
『解析不能』
「何!?」
さっきまでサウンドボムを使っていた使徒がサウンドブレードを放つ。
逆にサウンドブレードを使っていた使徒がサウンドボムを放つ。
征人が叫ぶ。
「違う!」
「あいつら自身が入れ替わってる!」
◇
それでも四人は連携する。
蒼天ヴァリアントが双剣を大剣へ合体。
蒼天大剣アストラブレイカー。
一閃。
サウンドブレードを切り裂く。
雷皇インパクターが雷鼓を連続で打ち鳴らす。
「音轟砕響!!」
轟音の奔流がホロウ・ウィスパーを直撃する。
黒皇バスティオンが神盾で仲間を守り抜く。
征人が飛び上がる。
「重圧粉砕グラビティ・コラプス!!」
重力波が使徒を地面へ叩き落とした。
「今だ!」
竜一が雷鼓を高く掲げる。
「必殺!」
「雷皇音轟砕響!!」
巨大な音の奔流が地上を飲み込む。
紫黒の身体が砕け散った。
「やった!」
竜一が拳を握る。
「俺が使徒を倒した!」
その瞬間。
バチチッ……
空間が歪む。
ノイズ。
倒したはずの使徒が目の前に立っていた。
「?」
「誰を倒したの?」
反対側でも、もう一人が笑う。
「僕たちは」
「存在そのものを入れ替えられるんだ」
「知らなかった?」
至近距離。
『サウンドボム』
「しまっ!」
「黒皇神盾アビス・リフレクター!!」
太哉が割って入り、神盾が爆音を受け止める。
轟音。
衝撃波。
太哉の身体が吹き飛ぶ。
「太哉!」
「油断するな……!」
盾を支えながら太哉が立ち上がる。
二人の使徒は笑った。
「惜しかったね」
「もっと強くなって」
「その方が絶望した時の顔が面白いから」
紫黒のノイズが二人を包み込む。
「また遊ぼうね」
「次は、もっと上手に囁いてあげる」
二人の姿は夜空へ溶けるように消えていった。
河川敷に静寂が戻る。
四人は倒れた人々を見つめる。
征人は血の滲む拳を強く握り締めた。
「……次は、絶対に守る」
夜空には、打ち上げられるはずだった最後の花火が一本だけ遅れて咲いた。
その美しい光を見上げる者は、もう誰もいなかった。




