最悪の双子 -目覚め
いつもお読みいただきありがとうございます。
前章では、征人たちはカオス・プロセッサーとの激闘を乗り越えました。
しかし、トレイター・コードの計画はまだ終わっていません。
今回から始まる新章では、これまでのような「力と力」の戦いではなく、人の心そのものを狙う、新たな使徒との戦いが幕を開けます。
誰にも知られたくない過去。
忘れたい罪。
心の奥底にしまい込んだ後悔。
もし、それらを容赦なく暴かれたら、人はどうなってしまうのか。
少し雰囲気の異なる物語になりますが、最後までお付き合いいただければ嬉しいです。
「残念だったな、カオス・プロセッサー。」
トレイター・コードは、掌に転がる赤黒いコアの欠片を眺めながら口元を歪めた。
「この欠片があれば、実験は続けられる。」
指先で欠片を弄ぶ。
「……だが、人間エネルギーが足りない。」
反転人による回収では、一人ずつしか集められない。
もっと効率よく。
もっと大量に。
「仕方ない。」
嫌そうにため息をつく。
「アイツらを呼ぶか。」
床へ二つの紫黒の魔法陣が浮かび上がる。
そこから現れたのは、小学生ほどの背丈しかない二つの影だった。
一人は、灰色のノイズで構成された少年。
もう一人は、白くちらつくノイズで構成された少女。
「呼んだ?」
「呼んだ?」
二人は同時に首を傾げる。
「ホロウ・ウィスパー。」
「ホロウ・スクリーム。」
「暇だった。」
「暇だった。」
全く同じ動き。
全く同じ表情。
トレイター・コードは苦笑する。
「頼みがある。」
「なあに?」
「なあに?」
「人間エネルギーを大量に集めてこい。」
二人は顔を見合わせた。
そして。
にっこり笑った。
「楽しそう。」
「楽しそう。」
そのまま二つの影は床へ溶けるように消えた。
郊外。
二百名以上が働くオフィスビル。
昼休み。
女子トイレ。
一人の女性社員が鏡の前で髪を整えていた。
鏡を見る。
その瞬間。
鏡の中だけ景色が変わった。
制服姿の自分。
中学生。
コンビニ。
万引き。
泣いている友人。
教師。
「違います。」
友人が泣いている。
自分は助かった。
その光景が終わらない。
鏡の奥から声がした。
「忘れたの?」
女性は息を呑む。
「あなたが押し付けた。」
「違……。」
「違わない。」
鏡の自分が笑う。
「悪い人。」
「いやぁぁぁぁ!!」
女性は床へ崩れ落ちた。
鏡にはもう誰もいない。
ホロウ・ウィスパーは廊下を漂う。
営業部。
開発部。
経理部。
一人ずつ。
心の奥底へ潜り込む。
学生時代のいじめ。
飲酒運転。
会社の横領。
不倫。
見殺し。
誰にも話していない過去。
忘れたかった罪。
その全てを思い出させる。
ウィスパーは何もしない。
ただ。
囁くだけ。
「忘れてた?」
「思い出した?」
「悪い人。」
それだけだった。
ビルの屋上。
白い影が座っていた。
ホロウ・スクリーム。
遠くから聞こえる心の声。
「死にたい。」
その一言を聞くと。
嬉しそうに笑う。
「もっと。」
「もっと。」
「もっと苦しんで。」
黒い波動が街へ広がる。
罪悪感。
後悔。
絶望。
その感情だけが百倍に膨れ上がる。
「あなたは。」
「死ななきゃ。」
「罪は消えない。」
その声は誰にも聞こえない。
こえるのは本人だけ。
最初の女性が立ち上がる。
「死のう。」
誰に言われたわけでもない。
自分で決めた。
その後ろへ。
一人。
また一人。
また一人。
社員たちが無表情で歩き始める。
階段を上る。
屋上へ。
誰も止めない。
誰も叫ばない。
そして。
一人目が飛ぶ。
続いて二人目。
三人目。
十人。
五十人。
百人。
百七十三人。
誰一人悲鳴を上げることなく。
笑顔で。
空へ身を投げた。
ビル全体から眩い存在エネルギーが立ち上る。
ホロウ・ウィスパーが笑う。
「いっぱい。」
ホロウ・スクリームも笑う。
「いっぱい。」
二人は楽しそうにエネルギーを吸収する。
「また遊ぼう。」
「また遊ぼう。」
紫黒の空間へ消えていった。
ビルだけが残る。
誰一人いなくなったまま。
翌朝。
新聞。
テレビ。
ネットニュース。
『原因不明の集団飛び降り』
『百七十三人全員が笑顔だった』
『遺書は一通も発見されず』
『現場関係者は"レミングの集団死"と酷似していると証言』
日本中が騒然となった。
そのニュースが流れる頃。
CROSS社・社長室。
満が征人へ笑いかけた。
「そんなに緊張しなくていい。」
「急に社長室へ呼ばれたら緊張します。」
「今日は紹介したい人がいる。」
三人の男が立ち上がる。
最初に歩み寄った細身の青年。
「矢車真也。」
握手を求める。
「蒼牙ヴァリアントだ。」
少し照れ臭そうに笑う。
「君のおかげで、俺は負けを認められた。」
「ありがとう。」
続いて大柄な男。
「各務竜一。」
「雷爆インパクター。」
「六煌ストライカーを起動した征人さんを尊敬しています。」
最後に最年長。
「郷地太哉。」
「黒峡バスティオン。」
力強く手を握る。
「これからは仲間として頼む。」
征人も頭を下げた。
「神征人です。」
「六煌ストライカーは皆さんの力があって初めて戦えます。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
満は満足そうに頷く。
「よし。」
「これで本題だ。」
光がモニターを操作する。
「昨日の集団自殺。」
「使徒による事件です。」
部屋の空気が変わる。
「蟻人が人間を襲うと存在エネルギーの吸収痕跡が残ります。」
「今回も同じ痕跡が残っていました。」
画面には二つの反応。
「しかも二体。」
満が四人を見る。
「だから今回は四人で戦ってもらう。」
「相手は今までの使徒とは違う。」
「力では勝てない。」
「心を守る戦いになる。」
その瞬間。
『警告』
M1の声が響く。
『市内で第二の大規模存在エネルギー消失反応を確認。推定被害者数、百名以上』
「もう始まっているのか……!」
征人が呟く。
満が真剣な表情で四人を見回した。
「昨日の事件は終わっていない。これは連続事件だ」
「エネルギー反応が移動している……」
光がモニターを見つめる。
「この二体、自分たちから人を探している」
征人が拳を握る。
「今度は間に合わせる。これ以上、犠牲者は出させない」
四人は同時に部屋を飛び出した。
第二の惨劇を止めるために。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は新章の導入として、トレイター・コードの新たな計画と、二人の新使徒「ホロウ・ウィスパー」「ホロウ・スクリーム」が初めて登場しました。
これまでの使徒は、圧倒的な力で人々を襲う存在でした。
ですが、この二人は違います。
武器を振るうのではなく、人の「心」に触れる。
忘れていた後悔や罪悪感を呼び覚まし、それを増幅させることで、人間自身に破滅を選ばせる――そんな、これまでとは性質の異なる敵として描いています。
また、征人の新たな仲間として、
蒼牙ヴァリアント・矢車真也、
雷爆インパクター・各務竜一、
黒峡バスティオン・郷地太哉
も本格的に物語へ加わりました。
彼らは単なる戦力ではなく、征人が「一人で戦う主人公」から「仲間と支え合うリーダー」へ成長していくための大切な存在です。
そして物語の最後では、第二の事件が発生しました。
敵の目的は何なのか。
二体の使徒はどこへ向かうのか。
征人たちは次の惨劇を止められるのか。
ここから物語は一気に緊張感を増していきます。
もし続きが気になりましたら、ぜひブックマークや評価、ご感想をいただけると、とても励みになります。
次回もよろしくお願いいたします。




