第九章(5) 妻について忘れていたこと、僕が語ること By ハロルド・レイルズ
妻の話をする時に気をつけなければならないことを、俺は一つ忘れていた。
「妻もとても喜んでいた」
「近頃、お身体は大丈夫なのですか?」
一瞬、何を言われているのか分からなったが、思い出した。
そう、俺は、周りに嘘をついていた。妻は身体が弱くて外に出てこれないのだと。
嘘を・・・・いや、わからない。
もしかしたら、妻は身体が弱いのかもしれないし、弱くないのかもしれない。
・・・・俺は、そんなのことも知らないんだな。
「あ、ああ」
次、どのように話し出せば不自然ではないだろうか?
俺はただでさえ緊張しているのに、想定外のミスをおかしそうになり、テンパっていた。
その時、足に痛みが走った。
「っ・・・・」
痛みで考えていたことが、飛んだ。バレないように視線を痛んだ足に向けると、俺の足はスタンに踏まれていた。
いつもなら問い詰めたい所だが・・・・感謝、だな
「妻は、ここのお店で働きたいと過去には言っていてね」
「いくら公爵様のご命令であっても、こ、こんなところで公爵夫人をお雇いするわけにはいきません」
コック姿の男がそう言った。店員はとても不思議そうな、少し怒ったような表情をしていた。
「働いてしまったんだよ」
「・・・・え?」
「妻が、このお店で働いている」
「そ、そのような身分の方をお雇いした覚えはございません」
「身分は偽っていたようだ」
妻は、身分を偽っていた。何か、身分を偽ってまで、ここで働きたかった理由があるのだろうか?
妻について何も知らないことを実感する時間だった。




