表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/36

我流に漫画の剣技を取り入れるのは間違っているだろうか?

「記録と計測の準備ができました、二人とも始めてください」


暫時の間を置いて、闘争とは程遠い朗らかなヴァネット先生の声が聞こえると同時、機先を制して剣戟(けんげき)の間合いに踏み入り、上段から鋭く木刀を真下へ振り抜いた。


頭部を狙った不意討ち気味な一撃は(しか)れども、交差させて掲げたソウジの両腕に()められた籠手で(はば)まれる。その状態から間髪入れずに右裏拳が打ち落とされ、飛び退()いたおれの鼻先を(かす)めていった。


(危なッ…)


まともに喰らえば昏倒し兼ねない一撃に内心で焦りつつ、踏み込んできた相手の爪先を一瞥(いちべつ)し、向きと体重の掛かり具合で次撃を見切る。


予想と違わず飛んできた右廻し蹴りに対して、左掌を中程に添えた木刀で受け止め、軋む音を聞きながら刀身を滑らせて懐に潜り込んだ。


「シッ!」

「うぉ!?」


短い呼気と共に繰り出した柄頭(つかがしら)がソウジの顎先(あごさき)穿(うが)つ間際、中空に忽然(こつぜん)と土塊の障壁が現れ、後の先を狙った打撃を質量で相殺してしまう。


岩石喰らい(ロックイーター)に起因する異能 “土類錬成” で生み出された防壁は役目を終えて地面に落下し、万物の素である現化量子に還って霧散した。


「攻撃的に見えて守りが堅いね、相変わらず」

「まぁ、保持しているのが岩石獣の因子だからな」


仕切り直すように距離を開けて短い会話など交わす(かたわ)ら、密かに正対しないよう立ち位置を()らす。相手の利き腕と反対側に意識して動き、斬撃を叩き込もうとしたところで足元の地面が隆起して(つまづ)いた。


「うげッ!?」

「おらぁあ!!」


今までにない小手先の技に隙を(さら)した瞬間、ここぞとばかりにソウジが右膝を掲げ、顔面目掛けた上段蹴りを放つ。咄嗟(とっさ)に左手の甲を挟んで減衰させるも、諸共に(ひたい)が蹴り抜かれて多々良(たたら)を踏んだ。


以前ならここで熱くなってしまい、猛然と打ち返していたが…… 荒事は熱くなった方が負けると重ねた敗北の経験から理解している。それを原動力にして劣勢を(くつがえ)せるのは “純粋な強さ” を持つ強者達の特権でしかない。


(はや)る気持ちを抑えて守勢に廻り、突き込まれた正拳を柄から離した左掌で払う。さらに間断なく撃ち込まれた左フックも、やや右斜め後方へ退()いて(かわ)した。


「逃がさんッ!!」


このまま一気呵成(いっきかせい)に畳みかけるかの(ごと)く、ソウジは再度の鋭い右廻し蹴りを繰り出す。(わず)かにずれた位置関係や拳打の届かない間合いを考慮すれば妥当とは言え、蹴撃を誘ったこちらの想定内だ。


(ゆえ)に半歩()めながら両手持ちした柄頭(つかがしら)で蹴り足を穿(うが)ち、威力が乗る前に止めてから木刀を振り降ろして、ソウジの首筋へ添えた状態で引き切った。


「なッ!?」


体勢的に力は入り(がた)いものの、真剣ならば頸動脈を裂いているため、もはや勝負は着いたと言える。


「そこまでだな……」

「えぇ、確かに」


どうやら判定を行う鈴城教官やヴァネット先生も同意見で、組み手の終了が告げられた。


ここ数ヶ月ほどは一方的にボコられる事もなかったため、近いうちに勝ちを拾えると思っていたが…… やはり嬉しいもので思わずにやけそうになる。


意識的に表情を引き締めて一息吐けば、様子を見計らっていたのか、機嫌良さげな猫さんが尻尾をふりふり駆け寄ってきた。


「ユウ、頑張った♪」

「ありがとう、でもまだ努力は必要かな?」


「ちっ、()たたまれねぇ」

「あうぅ… ソウジもえらい」


やや困り顔で獣耳を伏せたミコトは爪先立ちになり、頭をポフろうとするも身長差で届かず、“うぅ~” と何やら可愛らしい唸り声を上げる。


そこにやってきた細身のオウカが鬼人の膂力(りょりょく)で身体を持ち上げてやれば、至極満足そうにソウジの灰色髪を撫でつけ始めた。


「これはこれで微妙だな……」

「なに贅沢いってんのよ、負けた癖に」


軽めの苦言を(てい)した彼女は視線だけ()らし、おれに不満気なジト目を向けてくる。言わんとしている事の察しは大体つくが、藪蛇になっては敵わないため黙って言葉を待った。


「悪くない動きだったけど、私があげた鬼人の因子とか全然関係ないじゃない、立ち廻りばかり上手くなってさ」


「ごめん、いつかきっと、多分活用させてもらうよ」

「むぅ、全然やる気を感じないわ。何なの? その取って付けた台詞(せりふ)


把持(はじ)していたミコトを降ろして溜息する鬼娘はさておき、彼女のような人外的な膂力(りょりょく)()したる異能の発現も進歩も無い以上、人が磨き上げてきた体捌(たいさば)きや術理に傾倒するのは許して欲しい。


現化量子に適合した身体のフィジカル面が上昇している事もあり、施設の参考資料に混じっていた幕末後を舞台とする旧暦漫画の翔天御剣流などが再現できた結果、多大な影響を受けてしまったのも愛嬌としておこう。


(とても剣術なんて名乗れないし、我流だなぁ……)


果たしてそれで良いのかと疑問を抱きつつ、ヴァネット先生達の(そば)に退避する。


架空の技や動きを取り入れる是非については、いずれ鈴城教官に相談することに決め、入れ替わりで鍛錬場の中央に立った少女達を見遣(みや)った。


ペイント弾が装填された拳銃二丁を構える近接銃術使い(ガンスリンガー)のミコトに対して、木製戦斧(ハルバード)のオウカは常に動き廻って射線から外れる必要もあり、一度始まってしまえば決着まで時間は掛からない。


早々に “質量流転” の異能で重量をほぼゼロにされた無骨な戦斧がお腹に当たり、打突に際して少々戻された重みで猫さんが “ぽてぽて” と弾かれていき、実戦形式の定期訓練はお開きとなった。

るろうに割と好きなんすよ(*'▽')

映画版の方ですけど、殺陣が凄いっすよねあれ!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 『翔天御剣流などの創作技』 この先どんな技が出てくるか楽しみになってきました! 私はカムイ伝の『変移抜刀霞斬り』が好きです!
[一言] 翔天御剣流www吹いた
[一言] 発見が遅れ今頃読んでおります 某神喰らいを思わせる世界観良いですねぇ その黎明期っぽい感じが特に良いです 設定上大規模戦闘に移行しそうですが、願わくば小規模のままで続けていただきたいなぁ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ