我流に漫画の剣技を取り入れるのは間違っているだろうか?
「記録と計測の準備ができました、二人とも始めてください」
暫時の間を置いて、闘争とは程遠い朗らかなヴァネット先生の声が聞こえると同時、機先を制して剣戟の間合いに踏み入り、上段から鋭く木刀を真下へ振り抜いた。
頭部を狙った不意討ち気味な一撃は然れども、交差させて掲げたソウジの両腕に嵌められた籠手で阻まれる。その状態から間髪入れずに右裏拳が打ち落とされ、飛び退いたおれの鼻先を掠めていった。
(危なッ…)
まともに喰らえば昏倒し兼ねない一撃に内心で焦りつつ、踏み込んできた相手の爪先を一瞥し、向きと体重の掛かり具合で次撃を見切る。
予想と違わず飛んできた右廻し蹴りに対して、左掌を中程に添えた木刀で受け止め、軋む音を聞きながら刀身を滑らせて懐に潜り込んだ。
「シッ!」
「うぉ!?」
短い呼気と共に繰り出した柄頭がソウジの顎先を穿つ間際、中空に忽然と土塊の障壁が現れ、後の先を狙った打撃を質量で相殺してしまう。
岩石喰らいに起因する異能 “土類錬成” で生み出された防壁は役目を終えて地面に落下し、万物の素である現化量子に還って霧散した。
「攻撃的に見えて守りが堅いね、相変わらず」
「まぁ、保持しているのが岩石獣の因子だからな」
仕切り直すように距離を開けて短い会話など交わす傍ら、密かに正対しないよう立ち位置を逸らす。相手の利き腕と反対側に意識して動き、斬撃を叩き込もうとしたところで足元の地面が隆起して躓いた。
「うげッ!?」
「おらぁあ!!」
今までにない小手先の技に隙を晒した瞬間、ここぞとばかりにソウジが右膝を掲げ、顔面目掛けた上段蹴りを放つ。咄嗟に左手の甲を挟んで減衰させるも、諸共に額が蹴り抜かれて多々良を踏んだ。
以前ならここで熱くなってしまい、猛然と打ち返していたが…… 荒事は熱くなった方が負けると重ねた敗北の経験から理解している。それを原動力にして劣勢を覆せるのは “純粋な強さ” を持つ強者達の特権でしかない。
逸る気持ちを抑えて守勢に廻り、突き込まれた正拳を柄から離した左掌で払う。さらに間断なく撃ち込まれた左フックも、やや右斜め後方へ退いて躱した。
「逃がさんッ!!」
このまま一気呵成に畳みかけるかの如く、ソウジは再度の鋭い右廻し蹴りを繰り出す。僅かにずれた位置関係や拳打の届かない間合いを考慮すれば妥当とは言え、蹴撃を誘ったこちらの想定内だ。
故に半歩詰めながら両手持ちした柄頭で蹴り足を穿ち、威力が乗る前に止めてから木刀を振り降ろして、ソウジの首筋へ添えた状態で引き切った。
「なッ!?」
体勢的に力は入り難いものの、真剣ならば頸動脈を裂いているため、もはや勝負は着いたと言える。
「そこまでだな……」
「えぇ、確かに」
どうやら判定を行う鈴城教官やヴァネット先生も同意見で、組み手の終了が告げられた。
ここ数ヶ月ほどは一方的にボコられる事もなかったため、近いうちに勝ちを拾えると思っていたが…… やはり嬉しいもので思わずにやけそうになる。
意識的に表情を引き締めて一息吐けば、様子を見計らっていたのか、機嫌良さげな猫さんが尻尾をふりふり駆け寄ってきた。
「ユウ、頑張った♪」
「ありがとう、でもまだ努力は必要かな?」
「ちっ、居たたまれねぇ」
「あうぅ… ソウジもえらい」
やや困り顔で獣耳を伏せたミコトは爪先立ちになり、頭をポフろうとするも身長差で届かず、“うぅ~” と何やら可愛らしい唸り声を上げる。
そこにやってきた細身のオウカが鬼人の膂力で身体を持ち上げてやれば、至極満足そうにソウジの灰色髪を撫でつけ始めた。
「これはこれで微妙だな……」
「なに贅沢いってんのよ、負けた癖に」
軽めの苦言を呈した彼女は視線だけ逸らし、おれに不満気なジト目を向けてくる。言わんとしている事の察しは大体つくが、藪蛇になっては敵わないため黙って言葉を待った。
「悪くない動きだったけど、私があげた鬼人の因子とか全然関係ないじゃない、立ち廻りばかり上手くなってさ」
「ごめん、いつかきっと、多分活用させてもらうよ」
「むぅ、全然やる気を感じないわ。何なの? その取って付けた台詞」
把持していたミコトを降ろして溜息する鬼娘はさておき、彼女のような人外的な膂力も然したる異能の発現も進歩も無い以上、人が磨き上げてきた体捌きや術理に傾倒するのは許して欲しい。
現化量子に適合した身体のフィジカル面が上昇している事もあり、施設の参考資料に混じっていた幕末後を舞台とする旧暦漫画の翔天御剣流などが再現できた結果、多大な影響を受けてしまったのも愛嬌としておこう。
(とても剣術なんて名乗れないし、我流だなぁ……)
果たしてそれで良いのかと疑問を抱きつつ、ヴァネット先生達の傍に退避する。
架空の技や動きを取り入れる是非については、いずれ鈴城教官に相談することに決め、入れ替わりで鍛錬場の中央に立った少女達を見遣った。
ペイント弾が装填された拳銃二丁を構える近接銃術使いのミコトに対して、木製戦斧のオウカは常に動き廻って射線から外れる必要もあり、一度始まってしまえば決着まで時間は掛からない。
早々に “質量流転” の異能で重量をほぼゼロにされた無骨な戦斧がお腹に当たり、打突に際して少々戻された重みで猫さんが “ぽてぽて” と弾かれていき、実戦形式の定期訓練はお開きとなった。
るろうに割と好きなんすよ(*'▽')
映画版の方ですけど、殺陣が凄いっすよねあれ!!