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無垢なるケダモノに優しくポフられる運命は避けられまい

「ふッ!!」


さらに自身と木刀の重心を意識して半歩踏み入り、もう一枚の落葉を今度は瞬時に六分割する。重力に引かれていく葉屑(はくず)を見送りつつ、現状で可能な極度の精神集中を解き、構えていた得物を降ろした。


「… 学問の()ゆえに(やいば)(ことわり)は存じませんが、見事な太刀筋ですね、ユウ」

「何とかミコトに(かす)るくらいに過ぎませんよ」


先程からの気配に振り向いて苦笑を漏らすと、ヴァネット先生は理知的な翡翠眼(ひすいがん)に興味の光を宿らせる。


「オウカから移植した鬼人の変性因子が開花し始めているのですか、継続的な診断では兆候がないのに?」


「いえ、超常的な要素じゃなく、先人達が磨き上げてきた技です」

「それは素晴らしい… 午後の訓練、楽しみにさせて貰いますね」


微笑んだ先生が踵を返して、研究施設のある本館へと姿を消していく。希少な長命種の亜人(エルフ)なこともあり、若々しく可憐とも言える年齢不詳な彼女の背中を見送ってから、こちらも自主鍛錬を切り上げて別館のラウンジへと向かった。


なお、第七孤児院は研究対象の子供しか受け入れない事に加え、研究者や施設職員も厳選されている性質上、お昼時であっても(いこ)いの場は閑散としている。


それもあって、鉱石喰らい(ロックイーター)に由来する強靭な咬合力(こうごうりょく)と牙で摘まんだ小振りな鉄鉱石を(かじ)り、不味そうに眉を(しか)めるソウジの姿が視界へ入ってきた。


「まったく、人が喰うものじゃないな、鉄分が高すぎる」

「定期的に摂取しないと、体調不良になるんだろ?」


「ちッ、傍迷惑(はためいわく)な話だぜ。宝石とかなら美味いんだが……」


少し前に財閥幹部の御令嬢でもあるオウカが悪乗りして、冗談半分で喰わせたサファイアなどの貴金属を思い出しているのか、彼は不満気な表情でぼやいて皿に積まれた残りにも手を付ける。


態々(わざわざ)避ける間柄でもないため、注文を通してから対面の座席へ腰を下ろした。


「あぁ、そういや午後の訓練相手はユウだったな」

「手加減希望、偶には()を持たせてくれ」


「冗談抜かすなよ、まだ簡単には負けてやらん」

「ははっ、挑戦を受ける立場はつらいね、こっちは気楽なものだ」


何せ負けるのが常態と化していて、今さら黒星を重ねても精神的なダメージは少ないし、近頃は徐々に皆との差が縮まっていく手応えすらある。


逆に迎え撃つソウジの立場だと、一度の敗北で(こうむ)る損害は大きい気がした。少なくとも、傷口に塩を塗りにくる鬼娘に揶揄(からか)われ、余り心情を察してくれない猫さんに優しくポフられる運命は避けられまい。


(両方とも根っこに思い()りがあって、拒み切れないのが何ともまた……)


内心で “一度はお前も味わってみると良い” と思いつつ、給仕のお姉さんが持ってきてくれた鶏ささみの唐揚げ、焼き魚の切り身、豆腐にゆで卵を腹に詰めていく。


人間は一度に多くのタンパク質を代謝できない事もあり、割と早い段階から身体を動かした直後に合わせて、小刻みに摂取するのが習慣となっていた。お陰で腹筋が六つに割れた筋肉質な身体を獲得できたが、如何(いかん)せん似通った物ばかり食べていたら苦痛になってくる。


互いに微妙な表情を浮かべつつ、育ち盛りの少年二人が無言で食事を取る光景は(はた)から見れば異様なのだろう。調理場より顔を(のぞ)かせた料理人の遠坂さんが微妙な表情で見詰めていた。


「こっちは体質だし、鉱石なんて料理じゃないが… ユウはまた怒られそうだな」

「確かに注意しておいた方が良さそう」


以前、“もっと料理の味を楽しめ” と言われた時、“それは二の次、精強な身体を作るのが第一です” と即答して、生粋な職人気質の御仁(ごじん)にぶち切れられた記憶はまだ新しい。


まぁ、彼も雇われの身であり、合理性を追求するヴァネット先生が効率優先の献立(こんだて)に賛同してくれたので、相変わらずタンパク質中心の料理を出してくれているけど気遣(きづか)いは必要だろう。


少しだけ手を緩め、残っている料理の味つけに意識を向けながら感謝と共に完食して、多少の休憩を挟んだ上で午後の対人訓練が行われる鍛錬場へ向かった。


その幾つか機材が持ち込まれた空間の一角にて、黒い日傘で色素の薄い肌を隠したヴァネット先生が研究者達と言葉を交わす様子など見流し、邪魔しないように会釈だけして通り過ぎる。


「ユウ、調子はどう?」

「良いとも悪いとも言えない、いつも通りだよ」


得物の戦斧(ハルバード)を鬼人の膂力(りょりょく)で軽々と担いだオウカに応じれば、彼女は端整な桜色の唇を僅かに(ゆが)めて、不敵な微笑を浮かべた。


「近頃は身体が良く動いているみたいだしさ、初勝利は近いかもね」

「ん、頑張って……」


足音も無く忍び寄ってきたミコトの猫耳を軽く撫ぜてから、持参した木刀の柄を強く握りしめる。視線の先では格闘用の手甲や具足を()めたソウジが(たたず)み、少々不満げな様子を(かも)()していた。


「そっちは両手に華で良いよな、()()()()()()必要ないじゃねぇか」

「ははっ、負けたら(かま)ってくれると思うけど?」


やや自虐的な皮肉を返して、二人で軽口など叩き合いつつ、頑丈な防壁に囲まれた鍛錬場の中央まで進み、互いに向き合って感覚を研ぎ澄ませていく……

謹賀新年、2021年の初更新です。

今年が皆様にとって善き一年になるよう、心より願わせて頂きます♪

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です!(`・ω・´)ゞやっぱりユウくん強いですね 先人たちの技を物にできるとは、、。それにしてもロックイーター、まさか文字通り鉱石を食べれるんですね しかも定期的に食べないと体…
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