ツンデレな鬼娘に撲殺される俺氏の実力について
身体的な評価試験の判定は、殲滅性・生存性・機動性・持続性・革新性の全項目で最低値、紛うことなきFランク適合者だ。辛うじて武器を媒体にした現化拡張が可能な程度に過ぎない。
「せめて、私の "質量流転” みたいな異能が発現していれば、まだ救いようがあるけど……」
散々に文句は言えども自らの変性因子を分けた手前、少し表情を曇らせたオウカが心配してくれる。恐らくこのままだと、おれが早々に孤児院の過酷な訓練からドロップアウトすると思われているんだろう。
何気に一つ年上な事もあり、手間の掛かる弟扱いをされているのは否めなくとも、不器用な心遣いに自然と口端が緩んだ。
「惰弱なのは分かってるから、精々足掻いてみるさ」
「鍛えるなら付き合うぜ、その程度しかできないしな」
苦笑交じりに伸ばされたソウジの右掌を握り、座り込んで身体を休めていた状態から立ち上がる。軽く砂埃を払って視線を戻せば、孤児院併設の演習場にヴァネット先生が入ってくる姿を視界の端へ捉えた。
「色々と課題は山積みですが、二人ともお疲れ様です」
「ん… 頑張った」
ずずいと近寄り、ここぞとばかりに頭を差し出したミコトの猫耳など撫でる先生に対して、期待に添えていない気まずさもあって視線を逸らす。
それでも、彼女の柔らかい声はしっかりと耳元へ届いた。
「別に良いのですよ、適正値が低くかろうが、異能がなかろうが。大切なのは目的を達成し得る総合的な完成度、他の部分を弛まず磨き上げて、人という種の限界を超越するならそれも一興です」
師曰く、最良な結果を導き出せるなら手段は何でも構わず、複合的な要素の内で一つ二つ欠けていても問題はない。他で覆せば済む話だ気合を魅せろと、研究者らしからぬ妄執的な精神論を展開してくる。
極論、自分一人の力に固執する必要も無く、より大きな力を集めるというコンセプトも第七孤児院での試みにあるのだと告げられた。
「強くなってくださいね、いつか旧暦を終わらせた37体の神獣を屠れるくらいに… いつだって英雄は取るに足らない群衆の中より出てくるのですから」
「あまり無茶を言わないで欲しいです、先生」
「それよりも、仲間内で最弱を脱するのが優先よね」
楽しげに揶揄ってくるオウカに触発された訳でなくとも、心機一転で翌日の早朝から木刀を握り、毎日千回の素振りと施設近隣の走り込みを実践する。
一応、世界を変質させた “無限の霧” に含まれる現化量子の適正を得たこともあって、初日から何とか朝食前に済ませる事ができた。
(雨垂れ石を穿つ、継続は力なり!)
などと、自分に言い聞かせながら早朝鍛錬を継続して早一年…… いつしか流麗な動作で延々と木刀を振れるようになり、密かな成長を感じていたおれに無情な現実が突きつけられる。
"素振りに最適化” された剣戟は今日もあっさりとオウカの木製戦斧に弾かれ、すっぽ抜けた木刀が乾いた音を立てて地面に転がった。
「はぁっ… 鈴城教官はさ、腕力と体力は付くから、自分で気づくまで放置しろと言ってたんだけどね。単調で軽すぎるのよ、あんたの斬撃は」
呆れ顔の彼女は基礎鍛錬だけを繰り返しても、実際の戦闘では通用しないと懇切丁寧に説明してくれる。包み隠さない憐みの視線を向けながら。
「ぐぬぅ、言われてみれば納得できる。というか、もっと早く教えてくれよ……」
名状し難い虚無感に打ちひしがれて膝から崩れ落ち、図らずも孤児院の中庭で四つん這いになってしまう。結局、得られたものはフィジカルな強さのみであり、冷静になると途端に効率の悪さが理解できた。
「一体、どうすれば?」
「自分で考えなさい、その頭が飾りじゃないならね」
ひらひらと片手を振ったオウカが反転し、丁度外に出てきたミコトと入れ替わりに孤児院の本館へ戻る。未だ脱力しているおれの傍にきた猫耳少女は小首を傾げた後、無言で慰めるように頭をポフポフしてくれた。
「ッ、まだだ、まだ終わらんよ」
「ん、よく分からないけど一緒に頑張ろ?」
優しく髪を撫でつけて励ましてくれるものの…… 施設で課された戦闘訓練の都度、 敏捷性の高い猫さんには容赦なく瞬殺され、膂力で到底かなわない鬼娘の戦斧に叩きのめされ、頑強な身体を持つ鉱石喰らいに殴り負けること追加で二年。
最近では我武者羅に身体を動かすより、与えられた環境に対する感謝と思索に費やす時間が長くなっていた。
木刀での素振りにしても、漫然と毎日千回を繰り返して自己満足するのではなく、一撃に懸ける修羅の如く全神経を集中して振り抜き、改善すべき点を都度検証した方が遥かに効率的なのである。
思考を交えた剣戟を幾千幾万と重ね、やがて術理に添った動きが無意識下で行われるように…… さらにはその段階を踏破して、身体の反射に頼らず理詰めの刃が振れるまでを目指す。
何やら一周廻って、原点に立ち返っている気はしなくも無いが、先ずは眼前の課題から堅実に取り組むのが筋だ。
「“刀剣の扱いは力学的” って、そんなの教官は最初から教えてくれていたのにな」
剣戟は膂力だけに頼らず、弧を描くような円軌道と速度に伴う運動エネルギーも乗せることで破壊力が増し、極まれば只人の身でも鉄塊を断つ。
現に新暦の黎明期、“復活の日” から世界に満ち始めた現化量子の適合者など僅かだった頃、超絶な技量だけで幻獣を仕留めて人々を護っていた先達の映像資料は残っており、穴が開くまで幾度も見ている。
「神域の斬撃なんて程遠いけど……」
肩と腕、手首の筋肉を円滑に連動させ、膂力を余さず速度に転換し、刹那の剣閃を走らせる。
揺ら揺らと落ちてきていた庭木の葉が二つに裂かれ、即座に返した木刀の剣圧で四つに割断された。
第二ヒロインのオウカは漢字にすると桜花、語感的には鬼娘なのでオーガをもじってます(*'▽')




