ここをキャンプ地とする!!
「よし、ここをキャンプ地とする!!」
「流石に森を出てすぐの場所はヤバいでしょう、リィナ」
「… 了解した。達者でな」
「骨が残っていたら、帰りがけに拾ってやる」
危地を抜けた直後、某探索者のお姉さんが胸を張って高らかに宣言するも、先ほど仲良くなった短剣遣いのセーナさんや、仲間達に冷たくあしらわれる。
「うっぅ~、先輩、事件です。私が “いぢめ” られてます、助けてください」
「悪巫山戯は程々にしておけ、手早く安全な場所を確保するぞ」
猶もめげない彼女はインカム越しに窮状を訴え、一時停止している装甲車内の鈴城教官へ絡みにいくが、すげなく窘められて無駄な抵抗を諦めた。
そんな遣り取りを聞き流して、旧学術都市の遠景を見るため前方へ出れば、おれの左隣から嚙み殺したようなオウカの笑い声が聞こえてくる。
「仲が良いわね、彼ら。探索者って… 皆、あんな感じなのかしら?」
「分からないけどさ、一つの指標にはなるかな」
「おいおい、傍から見るとこっちも同類だろう」
「ん、私達も仲良し」
片耳掛けの骨振動式ヘッドセットから聞こえるソウジの軽口にミコトが合わせ、無駄にキリッとした声を響かせてきたので少し笑みを浮かべつつ、参照資料にもあった天体観測所の残骸を眺めた。
この極東地域に限らず、新暦の世では何処の財閥も宇宙開発など夢の夢、第二次世界大戦後の冷戦期を含んで一世紀以上も積み重ねた技術は失われ、今や衛星一つ打ち上げるのが至難の業である。
貴重な資源を投じられた四菱電機の衛星が最後に製作されたのは二十数年前となり、それもヴァネット博士の興が乗らなければ計画倒れとなっていた筈だ。
奇特な性格上、開発段階でバックドアを仕込んで、個人的にデータを抜ける仕掛けくらい仕込んでいそうだが……
(どうにも懐が深すぎて理解できない人だね、うちの先生は)
自由奔放な人物像を捉え兼ねている間にも、地図片手にエイナ主任と相談していた鬼娘が顔を上げ、北北東の方角にある建物を遠目に見遣った。
昨日のブリーフィングでも言及されていた現区域の総合病院と思われる。
「何か目ぼしい物が残っている可能性は無いけど、建物自体まだ壊れてない方だし、病室やフロア構造を考えたら護り易いわ」
「じゃあ、なるべく小競り合いは避けて宿泊予定地へ向かうという事で……」
「ん、先導する」
ぴんっと獣耳を立て、“絶対聴覚” の異能を発動させた猫さんの後に続き、楕円を描くような廻り道を通って移動していく。
そのお陰で幻獣と出遭わずに済んでいるのだが… このままだと多少の問題があるのを見過ごせず、セーナさんが口を挟んだ。
「昼は素っ気ない軍用食で十分だとしても、夜はどうすんのさ?」
「俺達は別口で食糧を持っているが、お前らは調達するのも課題だろう」
「あぅ… 忘れてた、ちょっと待つ」
呟いて止まったミコトが命中精度の低めな短機関銃を下げ、腰元のベルトにストラップ状の金具で繋ぎ、代わりにホルスターよりベアリング等の製造をしている老舗メーカーの拳銃 “P13” を引き抜く。
「また、玄人が好みそうな逸品を……」
「りぃな、うるさい」
やや愛想に欠ける態度で遮り、蔓草に覆われた瓦礫の小山が点在する表通りで数秒ほど佇んでいたかと思えば、素早く愛銃を水平に構えて斜め36°の方角に弾丸二発を撃ち込んだ。
間髪入れずに甲高い獣の悲鳴が響いて、目測で約十数メートル先の茂みから、よたよたと出てきたアナグマが力尽きて斃れる。
「… 仕留めた、大自然の恵みに感謝♪」
「薄々思ってたけどさ、めっちゃ優秀よね、子猫ちゃん」
「うちのリィナと交換するか?」
「酷いッ! あ、でも、向こうには鈴城先輩いるから、大歓迎かも?」
何やら寸劇を始めた “屑鉄工房” の探索者達はさておき、どや顔で振り返って見詰めてくるミコトの要望を受け入れ、すすっと差し出された頭を撫ぜながら、その脇を通り抜けた。
致命傷を負って足搔く獲物の間近に跪き、先生に貰った愛用の Micro Knives 社製ナイフを振るって、耐え難い苦痛より開放してやる。
他の面々が周囲を警戒する中で少しの時間だけ合掌して、この場で手早く血抜きを済ませてから狩猟用の麻袋に入れ、足元で風に揺れていたシソの葉も詰めて装甲車へ放り込んだ。
「手際が良いな、慣れてるのか?」
「事前学習の成果… というか少しは手伝えよ、ソウジ」
「余り細かい作業を求められてもな……」
「私も無理ね、狩猟とかジビエ料理の知識が無いわ」
屈託のない態度で戦力外宣言した孤児院の先達二人には頼れないため、仲間内で野外調理を担う羽目になるのは避けられないようだ。
それを見越して、ラウンジの厨房を仕切る遠坂氏に頼み、食に携わる知識と各種調味料を授かっているので抜かりはない。
(惜しむらくはタンパク質の摂取に特化した献立を作れない事か……)
この機に筋肉食を布教しようと企むも、現地調達できる素材に限りがあり、諦めざるを得ない状況に人知れず溜息を吐いた。
遅筆ながらも日々、筆を走らせています。
皆様の応援に感謝です(୨୧•͈ᴗ•͈)◞ᵗʱᵃᵑᵏઽ*♪




