ネコ科は本来、森林性の生き物だったりする件について
「旧暦時代の国家が威信を賭けて、傘下の公的研究機関や学校を集積した学術都市、そのウェストエリアにあった緑豊かな人工庭園ねぇ……」
水源距離と塩基性土壌の兼ね合いで生じた樹木限界の傍、八輪式の装甲車より降り立った二本小角の御令嬢が開口一番に呟く。
懐疑的な態度で赫い瞳を細めたオウカの言葉通り、周辺区画を侵蝕しながら不格好に広がった庭園の成れの果ては巨大な樹木の森にしか見えない。
「数十年も人が住んでいなければ、自然回帰も已む無しかと」
「そうだけど… 視界の悪さ、雑多な環境音が判断の邪魔になるわ」
ざっと周囲を見渡して、野外実践の指揮を任された鬼娘は戦域把握に務めるが、隣では黒豹幻獣の本能を刺激された猫さん(自称)が機嫌良さげに獣耳などピコつかせているため、どうにも締まらない状況だ。
こちらに続いて車外へ出てきた引率役のリィナさんも、そわそわと落ち着かない様子のミコトを眺め、小動物染みた可愛さに思わず頬を緩める。
「あぁ、触りたい、もふもふなケモ耳」
「決定的に嫌われるから、止めときなさい」
「やるなら全て終わってからにしろ、仕事に支障が出たら困る」
仲間の短剣遣い達に釘を刺され、しょんぼりしている某探索者のお姉さんに苦笑していたら、装甲車の外部拡声器が振動版を振るわせた。
「すぐに状況を開始する。今回の目的は小型幻獣の間引きと糧食の確保、旧市街地での一泊だ。“鉄屑工房” は装甲車及び極致化計画対象者の護衛に徹しろ、うちの子らに経験を積ませるのが主目的だからな」
「了解です、鈴城三佐。柿崎伍長、任務に微力を尽くします!」
「… あんた、もう四菱の軍人じゃないでしょう」
財閥の奨学金を返し終え、晴れて退役したと聞くリィナさんを鉈剣の柄で軽く小突き、同輩の女性が肩を竦める。
その様子に皆で微笑した後、自然と各々の視線は戦斧を抱えたオウカに集中した。
「事前の打ち合わせに従い、車両が侵入し易い南東ルートから街区を目指しましょう。車体の左側は私とソウジ、右側をミコトとユウに任せるわ」
「お手並み拝見だな、俺達は後方に付かせて貰おう」
螺旋槍を担いだ纏め役の指示で探索者パーティ、鉄屑工房の4名が後詰めとなり、ざっくりとしか整備されていない森の道を進んでいく。
旧学術都市の庭園は自然拡張された領域を含めて3600ヘクタールほどの広さがあり、徒歩で抜けるには多少の時間が必要という事だが…… 歩き始めて十数分もすれば、後ろの猫さんが服裾を引っ張ってきた。
「十時と三時の方角、中型の獣脚類… 他にも一匹こっちに迂回してくる」
「なら、それは二人に任せるわ。ソウジは左側のを御願い」
手早く割り当てを済ませて、持ち前の筋力で跳躍したオウカが装甲車の天板に飛び乗り、留まる事無く右斜め前方に生え揃った樹々の合間へと吶喊する。
僅かに遅れて愛用の短機関銃を腰だめに構えたミコトも、忍び寄っていた捕食者に向けて弾幕を見舞った。
「ッ、グウゥ!?」
待ち伏せからの奇襲により、逃げ出した獲物を強靭な顎で捕えるつもりだった体高3~4m前後の衝角を生やした恐竜が負傷して呻き、苛立たし気に踏み込んでくる。
呼応して小竜景光(偽) の鯉口を切ると、微かな金属音を聞き取ったミコトが射撃を止めてくれたので、前衛としての務めを果たすべく駆け出した。
(こうも樹木が多い場所で、尻尾の一撃はない)
つまり、何かしらの体内器官による遠隔攻撃か、噛みつきに行動が限定されるため狙いを付け難い非直線的な動きで肉迫して、相手にとって丁度良い間合いで脚を緩める。
「グオォオオォ――ッ!!」
当然の如く降ってきた大顎を紙一重で横手に躱し、背後にあった樹木の幹が噛み砕かれる音を聞きながら、晒された首筋の頸動脈を致命的なまでに深く切り裂いた。
苦し紛れに振るわれた爪撃も飛び退って避け、数秒も経てば対峙していた衝角付きの恐竜は失血で斃れる。
それを以って位置的に近いオウカの様子を覗うも、既に標的を仕留めていた。
「ん… 問題なさそう」
何やら獣耳を立てていた猫さんの呟きに被せてソウジの声が掛かり、差し迫った脅威の排除が確認できると意識は襲ってきた相手に向かう。
背後から引率役の一人が歩み寄ってくる気配がした事もあり、大体の予想を付けてから振り返らずに尋ねる。
「これはディノニクスの亜種ですか」
「うん、正解、この辺に結構いるの」
「…… 食べられる?」
「めっちゃ、肉硬いし、止めといた方が良いわよ」
小首を傾げたミコトの頭を片手でポフり、短剣遣いの女性は旧学術都市の庭園で狩るなら大猪の幻獣か、普通のカモシカや兎だと教えてくれた。
他は御免被りたいと言外の圧力が籠められていたので逆らわず頷いておき、加工品の材料になる獣脚類の爪牙を少しだけ頂いて、積み込んだ装甲車と共に再び市街地を目指す。
その途上で、地中から奇襲を仕掛けてくる数メートル級のワーム等とも遭遇したものの、天然の音響探知機と化した猫さんのお陰で円滑に撃退して、緑に浸蝕された市街地まで至った。
遅筆ながらも日々、筆を走らせています。
皆様の応援に感謝です(୨୧•͈ᴗ•͈)◞ᵗʱᵃᵑᵏઽ*♪




