猫耳少女は靡かない
-新暦23年の初夏-
まだ風が吹けば涼しさを感じる季節の荒野に四菱重工D4系ディーゼエンジンの駆動音が響き、ショートボディの中型トラックを “平べったく” したような八輪式の装甲車が道なき道を走破する。
一応は10人乗りとの事だが、財閥陸軍の車両なので快適性よりも実用性が重視されており、操縦席に意外と多才なエイナ主任、助手席に鈴城教官、後部車体の左右に設けられたベンチシートへ引率役を含めた8人も着座しているため少々狭苦しい。
そんな状況で徐に自称猫さんのミコトは短機関銃のマガジンを外し、可愛らしいポーチより取り出したガンオイルを銃口内に振り撒いて、柔らかくて丈夫な真鍮のブラシを突っ込んだ。
「短銃身だと機関部に発射ガスが吹き掛かり易いから、整備は大変そうね」
「ん、日々掃除が必要… でも、持ち運びと取り回しは善き」
「弾丸の加速距離が減じて、ライフリングの安定効果も薄くなる分だけ、遠距離の精度が落ちるけどね~」
あぁ、だから狙撃銃はロングバレルなんだなと納得していると、小首を傾げた猫さんが対面にいた某探索者のお姉さんを見遣る。
「…… 銃使い?」
「あたしの紫焔弾は後天性の異能なのよ、発現するまでハンドガンも使ってたわ」
若干、興味ありげな態度に喰いつき、鈴城教官の後輩であるところのリィナさんが話を振るも、元々が人見知りなミコトは適当に相槌を打つのみで、手元の愛銃に視線を落としてしまった。
素っ気ないネコ科亜人種の少女と、袖にされた仲間の様子を眺め、車内では足元に寝かせてある螺旋槍を扱う目付きの鋭い男が苦笑する。
ふと目が合った手前、こちらも似たような表情で頷き返しておいた。
彼の他には大小の半月を組み合わせた腕盾が特徴的な大剣使いや、研ぎ澄ました鉈剣二本を扱う短剣使いが野外実践のため、ヴァネット先生の手配で雇われている。
何でも、ここ暫く目的地である旧学術都市に輸送車両で赴き、文明崩壊後の混乱期に飢えた人々が食用として受け入れた大猪の幻獣ファングホッグや、外殻が鉄素材になる亡霊騎士ホロウ・リッターなどを専門に狩っていたらしい。
(比較的に低リスクで実入りの良い獲物を選んでいる以上、現実主義的な探索者パーティなんだろうね、気が合いそう)
極致化計画に取り組んでいる第七孤児院では表立って主張しないものの、生物としての高みを目指すとか、比類なき現化能力者になるとかよりも、無難に生きていければ本望なのである。
ただ、幻獣の因子を持つ亜人種に向けられている偏見を力でねじ伏せ、黙らせようと考えている鬼娘のオウカや、人という種の限界を求める先生に付き合うのも吝かではない。
(まぁ、死なない程度に頑張ろう)
懲りずに幾度も出した結論を踏襲していたら、蜂蜜色の髪を肩口付近で切り揃えた短剣使いの女性が話し掛けてくる。
「四人ともさ、今回が野生幻獣との初実戦でしょう? なんて言うか、随分と落ち着いている気がするけど……」
「そっちのユウと私は一緒に初陣を済ませているし、残りの二人も対幻獣訓練は十分に重ねているから、余裕があるんでしょうね」
さらりと物怖じしない態度で戦闘用ドレス姿のオウカが答えて、薄っすらとした微笑を口元に浮かべ、それを聞いた側は動じずに飄々と受け流した。
恐らく、大まかな返答を想定していたであろう相手は途切れさせる事なく、次の言葉を並べ立てる。
「確か、街中で中型種の大猿が暴れた時だっけ? 報道番組で見たから覚えてる」
「財閥幹部の娘が仕留めたって話だが、坊主もいたのか?」
「えぇ、もうばっちり巻き込まれたんですけどね、空気扱いですよ。構ってくれたのは治安部隊の厳つい方々だけです」
勿論、二時間近くも取り調べ室に拘束されて、根掘り葉掘りと事情聴取された件を思い出しながら、確認してきた螺旋槍の使い手に同意の言葉を返した。
やっと開放された後、一緒に連行された鬼娘な御令嬢を心配していたら、親父さんの旧友である公安局長と御茶を済ませて、先に帰宅したという非道な仕打ち。
思い起こせば周囲の人達に紛れて逃げるよう促したにも拘わらず、纏っていた赤い瀟洒なウェイトドレス(鉛入り50㎏相当)を脱ぎ捨て、鈍器代わりに下着姿で殴り掛かったのは彼女のため、理不尽極まりない。
「…… これが上級国民という奴か」
「中核都市 “芙蓉” の行政を司る四菱財閥の立場だと、藤堂氏の御令嬢を前面に出した方が市民に対して、良いプロパガンダになるでしょう?」
さり気なく会話に割り込んできたリィナさんの意味ありげな視線を追うと、詰まらなさそうに見返すオウカに辿り着くあたり、彼の御仁と関わりを持つ意図も引率役の受諾動機になっているのだろう。
時折、鈴城教官に向ける熱っぽい乙女の眼差しを見る限り、仲間の探索者達よりも打算的な部分は少ないのかもしれないが……
(悪い人ではないし、手が掛からない範囲で応援させて貰おう)
密かに決意を固め、乗り物酔いで吐きそうになっていたソウジを警戒すること暫し、幾度か幻獣の群れを置き去りにした装甲車は目的地へ侵入した。
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