表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/36

都市の外縁部は割と厄介ごとで溢れている

余り娼館に長居して本格的な営業時間になれば迷惑を掛ける事もあり、可愛らしく頬など膨らませて鈴城教官への “恨みつらみ” を義母に報告しているミコトに囁いて、そろそろお(いとま)する(むね)を告げる。


「ん、わかった」


こくりと頷いて聞き分け良く口を(つぐ)んだ猫さんの頭を軽くポフり、その様子を生暖かい視線で見守っていたアオイさんと向き合うも、僅かに機先を制されてしまう。


「うちの娘の扱い方、良く理解しているじゃないか、ユウ坊。これからも仲良くしてやってよ、現化能力者は自由に生きられるけどさ、危険と隣り合わせだから」


幻獣襲来で建屋が半壊した(おり)、閉鎖を余儀なくされる瀬戸際で義娘の可能性なども熟考して財閥の孤児院へ預けたらしいが、直後に多額の低金利融資を打診されて受け入れた負い目が消えないのか、娼館の(あるじ)は力なく微笑んだ。


裏で手を廻したヴァネット先生の善意でしかないものの、(こく)な話だなと内心で溜息して素直に了承の意を返す。


「勿論です、おれも弱い部類なので助け合いは必要ですから」

「ユウは私がいないと駄目、一緒にいるべき」


幾度かの対幻獣訓練を共に乗り越えた(ゆえ)か、どや顔で(のたま)うミコトの得意げな態度に釣られたアオイさんは素の笑顔を見せる。


生みの親が途中で育児放棄(ネグレクト)した事により、かなりの引っ込み思案だった義娘の成長を純粋に喜んでいるのだろう。


「言うようになったね、それでいいんだよ。このご時世、弱気になった奴から間引かれていくんだ… って、話し込んでいたら切りがないね」


「すみません、第七孤児院の門限もありますから」

「あおい、またくる」


しゅたっと片手を掲げたミコトと室内より立ち去る間際、ふと顔を合わせていない知己(ちき)がいる事に思い至り、少しばかり確認する。


「ユキさん、まだ来てないですよね、今日はお休みですか?」

「実はあたしも、さっきから気になってたのよ、それ」


ちらりと壁に貼り付けたシフト表を一瞥して、顎先に手を当てた娼館主が若干表情を曇らせた。


治安が悪い外縁部では何かしらのトラブルに巻き込まれる事も日常茶飯事であり、ざっくばらんな性格の人が多い若手の娼婦でも、比較的に生真面目な当人を(かんが)みれば身が案じられてしまう。


「帰りの道すがら、一度立ち寄ってみます」

「助かるよ、体調とか悪い場合は休んで良いって伝えておくれ」


「えぇ、部屋にいたら言付けておきます」


手短な了承を頼んできたアオイさんに返して軽く頭も下げ、入ってきた時とは逆側の裏口より、細い路地裏へと出た。


日が暮れた午後七時前、(にわ)かに活気づき出した飲み屋の並びを抜けて、営業中の立て看板を店頭へ出した風呂屋の前も通り過ぎ、可及的速やかに歓楽街の界隈より離脱する。


前回、興味津々でついてきたオウカが数人の破落戸(ごろつき)に絡まれ、止める間もなく血祭に上げて治安部隊に通報された経験を活かして、余計な厄介事に巻き込まれる前に撤退したのだが…… 娼館から1㎞ほど歩いて、辿り着いたユキさんの部屋が既に事件現場となっていた。


軽快なステップで階段を上っていたミコトがぴくりと耳を震わせ、振り返っておれの服裾を掴む。


「雑多な気配二つ… どっちもゆき姉の音じゃない、泥棒?」


「…… 血の匂いは?」

「この距離で分からない、大丈夫」


つまり、殺されたという理由で個人を識別できる音が拾えない訳でもなく、単純に本人が居ないだけのようだ。


さりとて現状を放置するのも気は引けるようで、どちらかと言えば受け身な猫さんが小声で話し掛けてくる。


「一応、確認する?」

「いや、止めておこう」


何らかの経緯により、ユキさんの身柄が押さえられている可能性も否定できない以上、この場で行動を起こすよりも、室内にいる相手の素性を明らかにしておく方が良い。


幸いな事に黒豹型幻獣(アーテルメルム)の変性因子を持つミコトの “絶対聴覚” なら、心臓のリズムや足音で標的の位置を把握できるため、集合住宅の近辺に車が止まってない事を手早く視認した上で路地裏へ潜む。


そこで時間を潰して待つこと十数分、様子見していた建物の階段から(いか)つい男達が降りてきたので距離を開けて尾行するも… 貧民層の暮らす雑多な街らしく襤褸(ぼろ)いバス停の前で足を止めてしまった。


「くッ、折角、節約したバス代が……」

「走る? 多分、余裕で追える」


小首を傾げた猫さんの言葉通り、低速な路線バスを追いかける程度、現化量子の影響で身体的な強度の上がっている適合者なら余裕だが、長距離の移動となれば体力的な問題も無視できない。


慎重を期して停留所にいた数名の(そば)まで近づいて混ざり、子どもの夜歩きに少々奇異な視線を向けられながら暫く(たたず)んで、やがて到着したバスに乗り込んだ。


なお、外縁区に幾つか根付いている無法者集団の一員と思しき二人が降りたのは工場街の近くで、怪しまれつつも一緒に降車した後、隣の区画に向けてさっさと歩き出す。


当然、彼らの興味が失せた頃合いを見計らい、(きびす)を返してミコトの可聴域から逃さないように追跡していくと、奥まった場所にある廃工場へ行き当たった。

|柱|º▿º*)遅筆ながらもボチボチと更新してます。

宜しければ広告下の評価欄やブクマをポチって応援してやってください♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 事件……! 続きが気になりますっ!
[一言] 更新お疲れ様です!(`・ω・´)ゞ ミコトの生みの親がまさかの育児放棄で、しかもそのせいで引っ込み思案になっちゃってたとは、人懐っこい今となっては全然考えられないですね 過去の事引きずって…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ