猫は七代祟る生き物だと、忘れてはいけない
若干、自信喪失気味となって鍛錬場の中央で跪き、四つん這いの姿で暫く項垂れていたお姉さんだが… むくりと立ち上がり、砂埃を払いつつ歩み寄ってくる。
「済んだことは気にしないッ、それが私の良いところ!」
「開き直ったようで何よりです」
「…… あんた、一言多いって言われない?」
「ん、ユウだから、仕方ない」
「多分、悪気はないんだろうけどね」
したり顔の猫さんがコクコクと頷き、さらりとオウカがフォローしてくれるものの、口は禍の元なので密かに注意しなければと自戒しておいた。
兎も角、これで午前の訓練は終わりのため、軽く肩を叩いて通り過ぎていったソウジに続いて、皆と昼食を取りにラウンジの厨房まで移動する。
何故か、探索者のお姉さんも一緒に……
「ここの料理って美味しいのよね? 鈴城先輩から前に聞いてたから、ミス・ヴァネットに利用許可を貰っておいたの」
「えぇ、主に豆腐や鶏肉を使ったタンパク質中心の… むぐぅ」
「自分の趣味嗜好を他人に押し付けるのは感心しないわ」
ふいに背後から寄りかかってきたオウカの両手で、肩越しに口元を塞がれ、言論封殺の憂き目に遭う。
別に好きで食べている訳じゃなく、全ては筋肉質な身体に仕上げるためなので、折を見て認識のズレは解消しておきたいところだ。
(よし、今日は焼き鮭定食にしよう)
何とは無しに決断して、厨房から顏を覗かせた遠坂さんへ注文など済ませ、四人で定位置となっているグランドピアノ付近にある円卓の座席へ腰を下ろす。
そこまで付いてくるのは抵抗があるようで、ささっと自身の昼食を頼んだ探索者のお姉さんはラウンジ内を見渡した後、独り蕎麦を啜っている鈴城教官の下へ歩いていった。
「ん~、戦闘職の養成機関で縁があったらしいけど……」
「技量や地力の差は大きいから、接点がなさそう」
素朴なオウカの疑問にぼそりと呟けば、苦手な訓練から逃亡するたびに捕まり、簀巻きにされているミコトが遠い目となってしまう。
「すずしろはニンゲンじゃない、きっと人外」
もはや恨み募って呼び捨てだが、当の本人は一切気にしておらず、いつもの事なので誰も窘めはしない。
なお、剣術の師でもある御仁は見掛けで亜人種と判別できなくとも、“電気ネズミ” という旧暦で流行った黄色いモンスターのような小型幻獣の因子を持っており、帯電能力の異能を備えている。
身体に留めた電流で強靭な筋肉を活性化して、神速の斬撃を繰り出したり、縮地をやってのけたりする事から、“絶対聴覚” の異能を発動した猫さんでも逃げ続けるのは困難だ。
「ネズミに追い立てられるネコとは、これ如何に……」
「ふふっ、上手いこと言うわね」
「とか言って俺も、お前らも教官から一本取った事ないじゃねぇかよ」
「財閥陸軍の教導官に土を付けるとか、ハードル高すぎだろ、ソウジ」
何でもヴァネット先生の謎人脈や、藤堂氏の娘に対する親馬鹿のお陰で貸し出されているらしく、偶に軍事施設を借りて行う基礎空挺課程の跳出塔訓練及び、滞空しているヘリからのファストロープ降下などは教官の発案との事だ。
多様な指導を受けられるのは良いとして、財閥管轄下の都市群で想定外の事態が起きた際、即時投入される特殊作戦班の人員になるべく、日々鍛えられている気がしなくもない。
疑惑含みの視線を鈴城教官に向ければ、適当な相槌で上機嫌のお姉さんを軽くあしらっている。
積極的に絡んでいく彼女の様子を眺め、雑談中に届けられたダージリンの紅茶を少しだけ啜ったオウカが小声で言葉を紡いだ。
「浮ついた話なんて全然聞かないけどさ、普通にモテそうよね」
「どうだろう、かなりの堅物だから一概に言えないかも」
「あと、性格も悪い」
すかさずディスってきたミコトの主観による指摘は聞き流し、当たり障りのない平凡な会話を続けていれば、料理の乗ったプレートを給仕さんが運んできてくれる。
一通り注文した料理が出揃うのを待ち、まとめて配膳してくれるので残りの品もすぐに卓上へ並び、最後に “ごとり” と小振りな鉄鉱石の入った小鉢が置かれた。
「鉱石喰らいの奴ら、本当にこれが美味いとか思ってんのかね?」
「多分、味覚が人と違うんだろう」
さっそく一欠けら摘まんだソウジは件の幻獣に起因する強靭な顎でかみ砕き、疑わしさと諸共に一部酸化して赤みがかった鉱石を飲み下す。
皮膚が疎らに硬質化して岩肌な亜人種ではあれども、その味覚は普通の人間と変わらないため軽い悪態を吐ついた。
「鉄の味しかしねぇ、身体の維持に必要なのは本能でわかってるんだけどな……」
「それなら、愚痴は控える。折角のお昼だから楽しく頂きましょう」
「ん、異論はない」
にこやかに釘を刺した鬼娘や賛同する猫さんにソウジが押され、苦笑しながら真っ当な料理の方にも箸を伸ばしていく。
おれも周りに合わせて焼き鮭を齧り、午後の訓練に備えた腹拵えを済ませていると、向かい側の席で白身魚フライを食むミコトと目が合った。
「んぅ?」
お魚咥えた猫耳少女が小首を傾げる姿にふと思い立ち、最終週の休日に特段の予定はない事を確認した上で語り掛ける。
電気ネズミ、ピ〇チュウのようなナニカです(;'∀')
|柱|º▿º*)遅筆ながらもボチボチと更新してます。
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