とある後衛探索者の災難と若さゆえの過ちについて
少しずつ確実に所謂 “筋肉食” と呼ばれる料理以外も、第七孤児にあるラウンジの厨房で注文するようになってから暫く、今日も今日とて訓練の日々である。
「あぁ、もうッ、当たらないわね!!」
「… うぅ、痛いの嫌い」
傍から見るとビビッているミコトはそれでも軽快なステップを刻み、コスパが良い依頼に釣られた訓練相手の探索者が掌より放つ紫焔弾を躱す。
亜人種特有の変性因子に由来する優れた動体視力と合わせて、“絶対聴覚” の異能も発動している猫さんに一撃を入れるのは容易ではない。
(少なくとも、おれには無理かな?)
ぴんと立てた獣耳で本来は聞き取れる筈もない心拍数の変化や呼吸を掴み、先んじて回避行動を取っている事から、躍起になればなるほど微細な情報を与えて翻弄されてしまう。
故にミコトと対峙したなら、自分から仕掛けると読まれやすいので、迎撃に徹するのが仲間内での常套手段になっていた。
今回に関してはヴァネット先生が思い付き、鈴城教官がアレンジした “ひたすら遠隔攻撃を躱しながら接近して標的に触れよう” という訓練なので、雇われ探索者のお姉さんは積極的に攻撃せざるを得ない。
怖がって大きく避けているにも拘わらず、短時間で円滑に懐へ飛び込んだミコトが、彼女の鳩尾に逆襲の猫パンチを叩き込み、ほっとひと息吐いた。
「うぷッ、何で急所狙いなのよ!? 普通に痛かったし!!」
「あぅ、御免さない」
ぺたんと獣耳を伏せて謝っているが、厳密には黒豹の幻獣アーテルメルムの因子を保持している事もあり、その一撃が体格に似合わず矢鱈と重いのは致し方ない。
(何度、腹に食らって吐きそうになった事か……)
若干遠い目をしているうちに流石というべきか、現化錬成による属性弾の連発と思わぬダメージで乱れていた呼吸を即座に整え、やや苛立った表情の現役探索者がこちらへ視線を投げる。
「初手の鬼娘といい、気弱な猫ちゃんにまで掠りもしなかったけど、今度こそはぶち当てるッ!!」
「災難だな、ユウ」
「……順番変わろうか?」
お先にどうぞと仕草でソウジを促せども、肩を竦められてしまい、とぼとぼとやる気満々な相手の前に進み出た。
勿論、オウカやミコトよりも敏捷性に劣るため、避けられない事も想定して拳に嵌めた革製グローブに一瞬だけ、現化量子の淡い燐光を纏わせて鉄鋼並みの強度に引き上げる。
「ふぅん、柔軟性を維持しての材質硬化とか、随分器用ね」
「いえ、身体強化と物質干渉の系統しか扱えませんので……」
「なに贅沢言ってんのよ、過半数以上の現化量子適合者がその基礎系能力しか持ってないじゃない」
やや得意げな顔付きになった探索者のお姉さんは右掌を上向け、そこに瞬間的な紫焔を生じさせる。
数少ない現化能力者の内、さらに恵まれた存在だと誇示する彼女に手合わせ前の一礼をした直後、ゆっくりと掲げられた右掌がこちらの顔面に突き付けられた。
「もう油断しないわよ、私の名誉のために遠慮なんてしないんだからッ!」
「そんな宣言されても困ります」
溜息混じりに振るった右拳のショートフックで放たれた紫焔の初弾を打ち上げ、続けて飛んできた次弾も左拳のジャブで跳ね返してから、手早く済ませようと直線的な動きで突撃するも……
既に驚き慣れたらしく、彼女は軽快なバックステップで一定の距離を維持しつつ、次々と遠隔攻撃を繰り出してくる。
「ちょッ、ゴールが動くとか、やめてください!」
「ふふっ、ミス・ヴァネットから逃げるなとは言われてないわ!!」
微笑んだ現役の探索者が気安く投げつけてくれる紫焔の弾道を見切って躱し、回避し切れない一部は硬化済みグローブ越しの両拳で弾いて、徐々に彼我の距離を詰めていく。
単調な連続射撃では留められないと判断した相手は斜め前方目掛け、そろそろ目が慣れてきた弾丸を撃ち込んだ。
それがミスの類ではないと瞬断して、オウカ達の時とは段違いな本気度合いに悪態を吐くと同時、微妙な角度で地面に衝突して跳ねてきた一撃を裏拳で打ち払う。
「跳弾攻撃とか、勘弁してください」
「あら、君も大概に規格外だから、隠し玉くらい使って良いでしょう?」
こちらの厭戦的な態度に見せた彼女の余裕を天与の機と見做し、徐に腰を落として両脚の筋肉も撓めてから、肉を切らせて骨を断つべく吶喊する。
僅かに遅れて放たれた二発の弾丸は跳ねさせる事を意識しているため、自身の正面から少々逸れており、最短経路で飛んでくる訳ではない。
グローブと同じく現化能力で補強した戦闘服の左脇腹や、右肩にも弾痕を刻まれながら肉迫して、特段の狙いを付けず無造作に右掌を突き出した。
「ひゃん!?」
何やら可愛らしい声と柔らかな触り心地など感じて手元を見遣れば、Bカップ以上と思しき胸がそこにあって、がっつりと握り締めている。
恐る恐る近場で身体を休めていたオウカとミコトへ振り向くと… 案の定、冷めきった胡乱な眼差しが向けられるも、当の本人は愉快そうに二人とおれを見比べていたので、後学の為に遠慮なく揉みしだかせて貰った。
「あん♪ こらッ、興味があると言っても限度が過ぎるぞ、少年!」
「すみません、つい… 認めたくないものですね、若さゆえの過ちとは」
旧暦アニメで有名な某大佐の台詞を引用して謝りつつも、振り下ろされた手刀を反射的な首振りで避けてしまい、そのまま肩を叩いたお姉さんの怒りに油を注いでしまう。
「そう思うなら、教育的指導は素直に喰らいなさいよ… えぇいッ!」
「ぐぉッ、割と手加減なしの一撃ですね」
甘んじて追加の制裁を受けてから、最後に残ったソウジと入れ代わり、鍛錬場の隅へ引き下がって待ち構えていたオウカ達の非難にも耳を傾ける。
なお、その様子を観察してにやついていた某探索者は次の訓練開始から数秒で、鉱石喰らいの異能 “土類錬成” の餌食となり、地中より生じた土塊の槍数本に挟まれて容易く達成課題のボディタッチを許していた。
遅筆ですが頑張って筆を走らせています(*'▽')
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