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私の屍を乗り越えていけ!

これまでは二本小角の御令嬢も交えた三人で会話した記憶しかないため、若干の緊張と共に姿勢を正せば抑揚に頷いた藤堂氏はこれ見よがしに深く溜息した。


「この後、娘と二人で午後の御茶を(たしな)む予定だったが……」

「キャンセルでもされましたか?オウカは気侭(きまま)ですからね」


「むぅ、分かった風な口を()くな、貴様も連れてこいと連絡があったのだ。親子水入らずの時間を邪魔するとは不届き千万だぞ」


旧暦と違い、新暦では軍属や富裕層しか持てなくなった携帯端末を軽く左右に振って、娘絡みだと恣意(しい)的かつポンコツになってしまう財閥幹部が(いきどお)り、年甲斐もなく地団太を踏む。


その様子に頬を引き()らせたエイナ主任は(おそ)(おそ)る、遠慮がちに横合いから(うかが)いを立てる。


「あの、仕事がありますので、ユウを任せて第七孤児院に帰っても?」


「分かった、私が預かろう」

「では、宜しくお願い致します」


こちらが何かを言う(ひま)もなく、愛想笑いを浮かべた美人の科学者さんがそそくさと鍛錬場から離脱して、おれはドナドナされる事が確定した。


流れ的に美味い物を(おご)って貰えるにしても、炭水化物の取り過ぎは筋肉に宜しくないので留意すべきかと思案しつつ、(きびす)を返して駐車場へ向かう友人の父親に続く。


なお、その愛車は舗装されてない荒野も走れる軍用車の四菱シープであり、何やら(こだわ)りがあるらしく所々がカスタマイズされていた。


「途中で娘を拾うから、後部座席に乗りなさい」

「はい、お邪魔しますね」


ひと声掛けて運転席へ回った藤堂氏に従い、ドアを開けて先ずは助手席のシートを前に倒す。


クーペ型にありがちな乗り(がた)さを体感した上で、革張りの席に腰を下ろしてベルトも締めれば、(ゆる)りと4WDの車体が動き出した。


「「……」」


軽快なエンジン音が響く無言の車内にて、恐らくお互いに気まずい思いをする事暫(ことしば)し、商業区の大通りへ至ったところで武骨な御仁が唐突に語り掛けてくる。


「葦原君… 戦いとは、常に二手三手先を見据(みす)えて行動するものだ」

「つまり?」


「貴様に娘はやらんッ、どうしてもと言うなら私の屍を乗り越えていけ!」

「…… 先の読み過ぎです、自重してください」


室内鏡に映る鋭い視線に苦笑するものの、過酷な環境下で平均寿命が短くなっている新暦だと、十代後半での結婚も珍しくない。


子育てなど多角的に考慮した場合、婚期を早めようと考える若年層も多いため、あながち的外れと言えなかったりもした。


(生物としての本能的な部分で、種の存続に対する危機感があるのかね)


再びシープの駆動音のみになった空間で、ばつの悪さを誤魔化すように取り留めがない推論を黙々と重ねていたら、ブレーキによる負荷が身体に掛かって減速した車両が路肩へと寄せられていく。


そこには帽子で小角を隠したオウカが(たたず)んでおり、いつもの如く普段使いを意識した控えめとは()え、臙脂(えんじ)に白を合わせたドレス姿のため… 街角に馴染まず目立っていた。


「ん、時間通りね、パパ♪」

「ふっ、私が可愛い娘を待たせる訳がないだろう」


どや顔で言い切った父親に向け、屈託なく微笑んだ彼女は手慣れた所作で助手席へ乗り込む。


「ユウもお疲れ様、合同演習のことは御店に着いてから聞くわね」

「余り期待に添えない内容だから、お手柔らかに……」


言葉の末尾を濁すことで、少々誤魔化していると車両が滑り出し、再び人通りの多い区画を低速で進み始めた。


構造上狭いクーペ型の後部座席から、仲良く談笑する富裕層の父娘を何となく眺め、必要性に駆られて自身の服装を一度(かえり)みる。


(無駄に格式張った店とか、遠慮したいなぁ)


第三孤児院に出掛ける都合もあり、上質な白シャツに黒のジーンズなど着ているが、二人の装いとは多少の温度差があった。


ざっくばらんに見えて細やかな配慮を忘れないオウカなので、無難な場所を選んでくれているのだろうが、(まと)わり付く一抹の不安が払拭できない。


戦々恐々としている間に連れて行かれたのは…… 小洒落た雰囲気の中華料理屋で、軒先に掲げられた屋号に鳳凰(フォンファン)茶樓(チャグワン)と記されている。


鉄骨の土台に木材を組み入れ、暖かな印象を与える店舗の内部はガラス張りになっており、表通りから見えない庭園が見渡せるようになっていた。


歡迎(ファンイン) (いらっしゃいませ)」

對于三个人(ディユサンガイエン)有空位嗎(ユーフォンエイマ)? (三人分の席はあるか?)」


是的(シィダ)這邊請(ツゥビェンシン) (えぇ、此方へどうぞ)」


シックな黒の中華服姿のウエイターと藤堂氏が()()りを済ませ、白布(クロス)の掛けられたテーブルへ案内される途次(みちすがら)、七割程度といった込み具合の客席を一瞥した限りでは大半の利用客が華僑のようだ。


耳に届く会話も全て中国語のため、中核都市 “芙蓉(ふよう)” で暮らす異国人達の憩いの場になっているのかもしれない。


「ここの特級点心師が作る料理、凄く美味しいのよ」

「…… うん、とっても本格的な気がするよ」


悪戯っぽい微笑を浮かべて囁いてきたオウカの髪から、(ほの)かに漂う香に少し心臓の鼓動を早めながらも、棒読みのように平坦な声音で応じる。


午後の御茶(アフタヌーンティー)” と聞いていた事から、勝手にイングリッシュな印象を持っていたので、突然の飲茶(ヤムチャ)に何とも言えない表情のまま窓際の席へ着いた。

分かる人には分かりますけど…シャ〇大佐の台詞をもじってます♪

|º▿º*) 遅筆ですけど、ボチボチと頑張っていきます


『続きが気になる』

『応援してもいいよ』


と思ってくれたら、下載の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一難去ってまた一難、ユウくんはまたまた修羅場……なのでしょうか? [一言] 更新ありがとうございます!
[一言] 更新お疲れ様です!(`・ω・´)ゞ お父さん、お仕事ではなかなか怖い人なのに本当にオウカが絡むとダメですね、、オンオフがちゃんと出来てると言うか娘に弱いと言うか、まさかいきなりそういう話にな…
感想一覧
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