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白薔薇に水を  作者: 岩藤ぽんた
フィオノーラ・アルセディオンの苦悩
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第5話(少しずつ)

 薬草の品質によってポーションの効能に違いが出るのでは、という仮説を立てて数日。検証条件の洗い出しは済ませたものの、検証用の薬草が育つまでは多少の時間がかかることもあり、少しゆっくりとした時間を過ごしていた。

 今朝ルークに運んでもらった分で、成功済のポーションは約百本。お母様から伝えられていた納品本数をやっと達成できたので、近いうちに検査と納品のために持っていかなければ。

――フィオノーラとして王宮に行くのは、少し気が重いな。


 そんなことを考えていると表のカウンターから声がかかった。

「フィンー!お母さんからクッキーもらったの!お客さん居ないならお茶しましょう。」

ニーナが遊びに来てくれたらしい。念のためルークの顔を見上げると、笑顔で頷いてくれている。

「ちょっと待ってて。お茶の準備してからそっちに向かうよ。」

今日は寒いから、ジンジャーティーにしよう。それから…。棚に並べていた蜂蜜の小瓶もトレイに乗せてニーナの元へ運ぶ。

「お待たせ。今日はジンジャーティーにしたよ。お好みで蜂蜜もどうぞ。」

「わあ。私ハニージンジャー好きなんだ。ありがとう。」

ニーナは幼い頃からこの店に遊びに来てくれる、一つ年上の服飾店の女の子だ。社交界でも学園でも中々同性の友人を作れなかった私が、唯一といってもいいくらい仲良くしている。

「そういえばね、今度初めて私の作った服が店に並ぶの。」

「凄いじゃないか。僕もいつかニーナが作った服着てみたいな。」

「フィンは男性にしてはかなり華奢だから、もし作るなら既存のパターンは使えなさそうね。もっともっと勉強して頑張るから、その時はぜひ特注で作らせてね。」

 お茶の途中でお客様も何人か来たけれど、ルークが対応し、皆フィンとニーナを微笑ましく見守ってくれていた。

――この街の人は温かいな。


 ニーナとのお喋りに花を咲かせていると、新たにお客様がやって来た。

「フィオノー…」

「い、いらっしゃいませノイラー様!今日は急にどうしたんですか?」

思わず勢いよく立ち上がり言葉を遮る。私の慌てた様子に兄も状況を察したのか、少し気まずそうに笑っていた。

「いや、領地の様子を見たついでに寄っただけさ。後はそうだな…ハニージンジャーティーの香りに釣られて?」

「え、ノイラー様ってあのアルセディオン公爵様のところの?」

兄がニーナの方へ身体を向き直す。

「初めましてお嬢さん。アルセディオン公爵家次男、ノイラー・アルセディオンと申します。フィンのお友達かな?」

「はい。ニーナと申します。すぐ近くの服飾店で働いていて、フィンとは小さい頃から仲良しなんです。」

「それは素敵だ。フィンから時々聞いていた頑張り屋の友達というのはきっと君のことだね。」

「ちょっと、おに…じゃなくてノイラー様!でも本当にニーナは凄いんです。今度自分の作った服が店頭に並ぶんですよ。」

「二人ともよく頑張っているんだね。じゃあ僕もそんな二人の話を聞きたいからお茶を一杯いただこうかな。」

最初は緊張していたニーナも、お兄様の気さくな雰囲気に最後には打ち解けていたようだ。ただし、きっと後日、どうしてあんなに公爵家の方と親しげなのかは聞かれるだろう。何か言い訳を考えておかなきゃ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 数週間後、本格的に仮説の検証が始まった。これまでに、日照時間や水分量、肥料の量など、それぞれ条件を変えて育ててきた薬草を使ってポーションを作る。さらに収穫後の経過時間による違いも含め、ノートに記録を取りながら一つずつ仮説を潰していった。

 そして見えてきたことは大きく二点。

 一つはやはり、薬草の品質とポーションの効能には関連性があること。通常の品質の薬草であれば、調合書通りに作ることで基準を満たすポーションを作ることができる。しかし、そのポーションを、簡易試験の定番である「少し傷をつけた植物に薬剤を与える」方法で検証すると、回復の速度が異なることが記録できた。

 二つ目は、全て満たすことで薬草の品質が上がるわけではないということ。例えば水分。毎日十分な量を与えた薬草と、数日置きに与えた薬草。後者の方がポーションの効能は高まった。恐らく、適度な水分不足が薬草に何らかの負荷を与え、その結果、薬効に関わる成分が濃くなったのだろう。

「……ここまでが、今わかったことなのですがいかがでしょうか?」

パラパラとノートを捲り終えたロクサード様が私を見る。

「研究としてはもう少し突き詰めたい部分もあるが、充分良くできておる。特に負荷を与えて成分が濃くなるというのが面白い。この件とは別でカッツレーゼ卿のところにでも研究させてみようか。」

「ありがとうございます。ぜひカッツレーゼ学長の研究レポートが完成した暁には拝読したいです。」


 その日の晩、改めてレポートを読み返しながら考える。

――全てを整えることよりも負荷を与えた方が効果が高くなる場合がある。しかしそれを意図的に再現するにはどうすればいいのだろう。薬草本来の成分を最大限引き出す……そうだ、この方法ならもしかして。


第5話の最後までお読みいただきありがとうございます!


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