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白薔薇に水を  作者: 岩藤ぽんた
フィオノーラ・アルセディオンの苦悩
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第4話(挑戦)

『騎士団に納品するポーションを作ってみないか』

魔法騎士団所属の母の言葉を頭の中で反芻する。

 魔法騎士団とは、アルヴェリス王国騎士団の中でも特に魔法の扱いに長けた者が集まった組織で、母エルサーラも所属している。見た目に反して武闘派の母は、長兄を出産するまでは前線で隊長を務めていた。ただし、父や騎士団とも話し合った結果、現在は衛生特務隊長として、有事の際は後方指揮を務めるものの、平時は王国騎士団全体の生存率を高めるために日々働いている。そんな母から思いもよらない提案を貰ったのが数時間前。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 夕食の席でのこと。

「フィーも働き始めてもう3ヶ月ね。薬作りは慣れてきた?」

「はい、簡単なものが中心になりますが、素早く作れるようになってきました。」

「それはよかった。何事も、何度も何度も繰り返すことで自分のものになっていきますからね。」

「はい、お母様。」

「それはそれとして、もう少し難しい薬を作ることには興味はないかしら?大量の薬草を使うことになるけれど。」


 予想外の提案だった。母曰く、最近宮廷薬剤室と連携して新薬の開発を進めており、その中で市井の薬師でも腕の良い者には調薬の一部を委託する案が挙がったらしい。ただし、それには安全面を考慮し騎士団内の隊長級以上の推薦が必須とのこと。


「フィーはこういう特別扱いみたいなことを好かないというのはわかってるのだけどね。ただ、貴女の薬に対する誠実な向き合い方と、楽しそうな表情をみていたら、親として少し手を差し伸べたくなってしまったの。」

「勿論私も事前にエルサーラから相談は受けていた。その上で、公爵家当主としてフィオノーラが国に貢献できる素晴らしい機会だと思っているよ。」

「……少し、考える時間をいただいてもよろしいでしょうか。」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 自室の机の前でぐるぐるとまとまらない思考を繰り返している。

ーーやってみたい、挑戦してみたいとは思っている。それに、これは公爵家の人間としてまたとない機会だ。ただ…少し怖い。


「ミー、いるかしら。もし居たら出てきてちょうだい。」

窓の外が風でざわめいた。暫くして、部屋の中央に光が舞い上がりスラっとした大人の女性が現れる。

『あら、フィオから呼ぶなんて珍しいわね。悲しそうな顔をしてどうしたの。』

ミーは、森を司る私の契約精霊だ。精霊というのは本来は人間のような固有名は無いらしい。しかし「森の精霊」と呼ぶのは当時4歳の私には難しかったため、契約した時からミーと呼ばせてもらっている。私はミーに今の悩みを打ち明けた。

『それで?フィオはその仕事をしたいの?したくないの?』

「やりたいに決まってる。薬師としてこんな光栄な機会は無いもの。」

『それならもう答えは決まっているじゃない。入口の扉は開いてる。ただし、扉を開けた先で何をするかは貴女次第よ。まぁ私も貴女が望むなら力を貸せるしね。』

「ありがとう、ミー。明日の朝お母様達に伝えるわ。」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 そこから目まぐるしい日々が始まった。昼間はフィンとして働き、夜は新薬の調合実験。

 調合書を貰うまでは、どんな珍しい材料でどんな複雑な手順のものが来るのだろうとヒヤヒヤしていたが、受け取った紙に記載された内容は、珍しい材料も多少は用いるものの、至ってシンプルだった。しかし、調合を始めてから、このレシピの難点は材料や手順ではなく温度管理だということに気が付いた。

 通常のポーションは、沸騰したお湯に材料を決められた順番で投入し、規定の時間が経ってから取り出し、濾して冷ませば完成する。しかし、今回のポーションは水の段階から材料を投入し、沸騰ぎりぎりの状態を保ちながら抽出しなければならない。温度調整には水の魔石と火の魔石の力を用いるため、大量の魔力を使う必要はない。その代わり、二種の魔石に流す魔力を絶えず調整し、常に糸を一定の太さで紡ぎ続けるような精密な制御が求められる。


「……できた!」

試行錯誤すること数週間、使う魔力量が少ないとはいえ、集中力を切らさず長時間魔力を供給し続けることは私の魔力量では至難の業だった。特に初期は何度も供給量を見誤っては魔力切れを起こして倒れそうになった。そして、やっとの思いで完成させた青色のポーション。

「よく頑張ったな、いい出来だ。」

「ありがとうございます、ロクサード様!」

ルークはもちろん、時折ロクサード様にも様子を見に来ていただきながら制御の感覚を掴むことができた。


 何本も作成を繰り返して、ある程度安定して作れるようになり気付いたことがある。机の上の二本のポーションを見比べる。

「同じ作り方をしても、若干の違いがある…?」

「そのようじゃな。最初は温度管理かと思ったが、ほぼ同条件でも違いが出ておる。」

「水の濾過具合も同じ。分量も違いが出るほどずれていないはず。となると…もしかして。」

ロクサード様と効能の違いについて考えていく中で、私は一つの可能性に辿り着いた。急いで薬草棚を漁って今日のポーションに使用した薬草を取り出す。

「ロクサード様ご覧ください。こちらが右のポーションに使った、今朝採った薬草です。そしてこちらが、一昨日採って左のポーションに使ったものです。もちろん収穫タイミングもあるかと思いますが、ここ最近日照りが続いて、昨日やっと雨が降りました。ということは、日照時間や水分量などの薬草の品質によって効能が変わるのではないでしょうか。」

「いい仮説だ。だが、今日のものだけではまだ弱い。」 

「はい。おっしゃる通りなので、今後はポーションを作りながら薬草の生育状況との関連性を調べてみようと思います。」

「ほほっ。生き生きしておるのう。報告楽しみにしておるぞ。」


ーー明日からまた実験と検証頑張らなくちゃ。


第4話の最後まで読んでいただきありがとうございます。


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