第2話(街の薬屋)
アルセディオン領の商店街の外れには、レンガ造の薬屋がある。建物こそ古いものの、取り扱う薬の種類は多く、店の端に置かれた机と椅子は薬を受け取りに来た人々の待ち合いや、休憩スペースとなっていた。
ある朝、店の薬師が開店準備を終えカウンターに立っていると、幼い頃からよく知った少女が勢いよく入ってきた。
「フィン!あなたついに正式に薬師になったのね!」
「そうなんだよ、ニーナ!国家試験に合格して、これでやっと僕も薬師として薬を調合できる!」
まるで自分のことのように嬉しそうな少女は、手に持っていた小袋を手渡す。
「はい、これお祝い。手首に着けると邪魔になるだろうからこの飾りは足首とかに着けてね。じゃあ私は店の手伝いあるからまたね!」
慌ただしい少女を見送り、受け取った小袋を開こうとしていると、再び扉が開いた。
「今日からフィンが薬師として働くと聞いたぞ。店ではいつも茶汲み担当だったからのう。これで少しは役に立つな。」
「そんな茶汲み担当の淹れたハーブティーをいつも嬉しそうに飲んでたのはどこの誰なんだか。今日は関節痛の湿布薬だろ?用意するからちょっと待ってて。あ、ドルトン爺さんが僕の最初の患者だよ。」
「ほっほっ、それは楽しみじゃのう。」
ドルトンを椅子に座らせると、一度店の奥で茶葉と湯をポットに入れ、蒸らしている間に簡単に問診を行う。全ての質問に答えを『いつもの』で済まそうとするのはこの老人の悪い癖だ。話を引き出し終え、ポットからカップに黄金色の液体を注げば、周囲にはふわりと甘い香りが広がった。
「はい、カモミールティー。これ飲んでちょっと待っててね。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
奥の部屋には、壁一面に薬草やスパイスの入った棚が並ぶ。机の上には鍋やすり鉢など調合に使うための道具が広がっていた。
「何かお手伝いすることはございますか。」
薬草の在庫管理をしていた男が声をかける。
「ありがとう、ルーク。でも大丈夫。自分で最初から最後まで作るわ。」
そう伝えていくつかの材料を棚から取り出す。鎮痛効果のある薬草を数種、湿布のベースとなる穀物の粉。そして裏の川から引いてきた水。薬草はすり鉢ですり潰す。水は土の魔石を用いたろ過装置を通して不純物を取り除き煮沸する。そうして準備が整えば、材料を入れたボウルとろ過した水を並べ、少年は水の上に手をかざす。
すると水がふわふわと浮かび、水の玉へと形を変えた。一つ一つの大きさが揃っていき、黒い前髪の下、眼鏡越しの少年の瞳が満足そうに細められた。
「一つが10g、この量の薬草と粉なら十五個分ね。」
ちょうど十五個の球をボウルに落とす。あとは材料を混ぜ合わせ、容器に詰めれば完成だ。
「……できた。」
「座学で学んだことも実習で身につけたこともしっかりと活かせていますね。それに、いつ拝見してもフィオノーラ様の水魔法の精確さは見事です。」
「ありがとう。手順についてはあなたの作業をいつも横で見せてもらったおかげよ。」
少し前髪を整えてから表に戻る。
「フィン、儂の薬はちゃんとできたか?」
――フィンとは、私フィオノーラのここでの名前である。黒い鬘を被り、父に作ってもらった瞳の色を変える魔道具眼鏡をかけ、小さな頃からこの店を手伝っている。
「ちゃんとできたよ。塗るときはスプーン一杯分、清潔な布の上に塗ってしっかり固定してね。」
「おうおう。フィンの初めての薬だからの。大事に使わせてもらおう。」
「……ありがとう、ドルトン爺さん。」
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