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ドブで育った鶏

「車から出ないで」かささんは冷徹な声でそう言い残すと、素早い動きでパトカーのドアを開け、喋る雨の中へと飛び出していった。

外の雨たちは、衝突の衝撃に驚いたのか『……ひっ……なになに……あぶない……』と

怯えたような声を漏らしている。

私はパニックになりながら、血に汚れた窓越しに前方の景色を凝視した。

パトカーのフロントガラスから、約6メートルほど先のアスファルト。

そこに、一人の女性――地獄から這い出てきた悪魔、クセルが倒れていた。彼女の首は、人間の構造を完全に無視したあり得ない角度に、ぐにゃりと折れ曲がっている。

それは救急救命士や凄腕の外科医であっても、その生涯で絶対に目撃することのないような、医学の常識を完全に破壊した壊れ方だった。普通なら即死という言葉すら生ぬるい凄惨な状態だ

傘さんは雨に濡れながら、その凄惨な死体へとゆっくり近づいていった。

そして、折れた首を冷ややかに見下ろしたまま、低く鋭い声を放つ。

「……君が、あの男の子の耳を切ったのね?」

その問いかけが、夜の闇に溶けた、まさにその瞬間だった。

ピクリ、とクセルの指先が動いた。

ボキ、ボキボキボキ。乾いたプラスチックをへし折るような不快な音が、雨の囁きをかき消す。完全に折れていたはずの首が、ぐにゃりと不自然な回転をしながらゆっくりと持ち上がった。

「あはっ……!」クセルは首を真横に折ったまま、のそりと立ち上がった。人間の常識を完全に破壊した姿のまま、彼女は満面の笑みを浮かべて傘さんを見つめる。

「さすが、天下のおいぬちゃん。ご主人様への忠誠心で頭を下げて、尻尾を振るのだけは一人前。……おまけに、鼻だけはよく利くねぇ――」

首が曲がったままの悪魔は、歌うような高い声で警察を激しく煽り立てた。

理解が追いつかない。首が折れているのに、なぜ生きている?なぜ普通に喋っている?恐怖で歯の根が合わなくなる私を置き去りにしたまま、喋る雨の路地裏で、警察と悪魔の最悪な対峙が始まろうとしていた。

天下のおいぬちゃん」と挑発された傘さんは、しかし取り乱すこともなく、ただその冷徹な瞳の奥に、確かな苛立ちの火花を灯した。

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