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雨には傘をいかがですか?

地裏の濡れたアスファルトを激しくこすりながら、白黒のパトカーが私の目の前で急停車した。

赤色灯の禍々しい光が、薄暗いコンクリートの壁を赤く染め上げる。

ガチャリ、と運転席のドアが開いた。

それと同時に、開いたドアの向こうから、ザー……ザザ……という奇妙な雨音が吹き込んできた。

ただの雨じゃない。耳を澄ませば、それは無数の小さな声が重なり合った、不気味な囁き声だった。

『……ねえ……たすけて……おいていかないで……』喋る雨だ。

異常気象すら日常の一部となった世界

こんな気味の悪い雨の中、一人の女性警察官がパトカーから降りてきた。

彼女は、私の耳と肩から流れ落ちる凄惨な血の量を見ても、眉一つ動かさなかった。

それどころか、ただ淡々と、私の目の前にすっと警察手帳を突き出してきた。

手帳の金属部分が、やたらとピカピカしている。どんよりした空の光を奇妙に反射して、眩しすぎて目がチカチカするほどだ。

「私は、こういう者です。……『かさ』と名乗らせていただきます」

「傘……? あ、はい、羽場めん子です……」変わった名前だな、と頭の隅で思いながらも、私は彼女に縋り付くしかなかった。

傘さんは嫌悪感すら示さない迷いのない手つきで、私の血塗れの身体をがっしりと支えた。

「まずは車へ行きましょう。話はそれからよ」

促されるままに、私は白黒のパトカーの後部座席へと滑り込んだ。

バタン、と重いドアが閉まる。


車内は外の市民たちの「こわW」というふざけた笑い声や、雨の不気味な囁き声が嘘のように静まり返っていた。


ここでようやく、傘さんは助手席のダッシュボードから、いもしなびた、だけど近未来的なデザインの医療キットを取り出した。

「動かないで。少し冷えるわよ」彼女がキットから取り出した奇妙な缶スプレーを、私の左耳と左肩の悲惨な傷口に向けて吹き付ける。

パチパチ、パチパチパチ。炭酸のようできめ細やかな泡が私の傷口で弾け、一瞬だけひんやりとした感覚が広がった。するとどうだろう。

これまでずっと脳を焼き焦がしていたあの地獄のような激痛が、嘘のように一瞬で引き、完全に消え去っていったのだ。

「……あ、痛くない。すごい、本当に治ったんだ……!」私は感動して、思わず自分の左耳があった場所に触れた。――だが、指先が触れたのは、ただの平らな皮膚と、肉の滑らかな断面だった。

「え……?」ない。耳が、戻っていない。肩の肉も、ごっそりと抉れたままだ。ただ「痛み」という脳への信号だけが、あの怪しいスプレーによって強制的に遮断されているだけだった。肉体は物理的に損壊したままだというのに、全く痛まない。そのあまりにもアンバランスな感覚に、私は鳥肌が立つのを感じた。

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