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先手必勝

一方、彼の頭の上にいた三毛猫の身体からも、同じように肉を裂いて無数のナイフが突き出ていた。

しかし、その化け物染みた猫は、全身を刃物だらけにされながらも、全く怯む風はなかった。

「……まず」

猫は、人間の言葉でそう短く、不快そうに吐き捨てた。

次の瞬間、猫の小さな口が大きく裂けるように開き、その喉の奥から、血塗られた巨大なナイフがゴボリと勢いよく吐き出された。

それと同時に、猫の身体がドロドロとした黒い影のように歪み、急速に膨れ上がっていく。

またたく間に人間の四肢が形作られ、そこに現れたのは、なんと一人の『人のような姿』をした異形だった。

しかし、それは完全な人間ではない。

頭頂部にはピクリと動く「猫の耳」が生え、お尻からはしなやかな「尻尾」が伸びている。さらに、その口元から覗く「歯は猫」そのものの、鋭く尖った無数の犬歯だった。

その猫の異形は、血塗れのナイフを床に転がすと、何事もなかったかのようにペコリと頭を下げた。

「はじめまして。ボクは、未歯みはといいます――」

凄惨な病室の空気にはおよそ似つかわしくない、丁寧な「あいさつ」を彼が始めた、まさにその瞬間だった。

そのあいさつが終わる前に、鳧先輩が再び空間を飛び越えていた。

「――目障りだ」

未歯の目の前に唐突に出現した鳧先輩は、その胸ぐらを容赦なく掴み取ると、凄まじい怪力でそのまま「真後ろへと猛烈に押し込んでいく。

「――っ、ので、以後お見知り置き……をっ!」

背中をコンクリートの壁に激しく擦りつけられ、凄まじい摩擦の火花を上げながらも、未歯はバグったように律儀にあいさつの言葉を紡ぎ続けていた。

ドガァァァンッ!!!!最後は、これ以上ないほどの爆音とともに、鳧先輩の鋭い蹴りが炸裂し、未歯を壁の奥深くへと完全に押し込んだ。

「――服を着ていたほうがつかみやすい」

鳧先輩は冷酷にそう吐き捨てると、掴んでいた未歯の衣服を恐ろしい怪力でひったくり、そのまま天井に向けて上空にぶん投げた。

重力を失ったかのように、未歯の身体が病室の高い天井へと跳ね上がる。

「――1億万ボルトかける!!」

空中に浮遊する――鳧先輩が、狂ったように両手を広げて絶叫した。

それと同時に、彼女の顔面に刻まれた蛇の刺青タトゥーが、爆発的な青白い光を放ち始める。

「水で、威力倍増!!!」

鳧先輩がそう叫び、空間の水分を一瞬で沸騰させた。

直後、彼女の両手から、部屋全体を真っ白に染め上げるほどの絶大な雷撃が放たれた。

ドガガガガガガガガァァァンッ!!1億万ボルトの雷撃が上空の未歯を直撃した。

超高電圧によって未歯の身体はまたたく間に酸化し、黒く焦げ付いていく。

それだけにとどまらず、熱膨張を起こした皮がベロリと剥がれていき、生々しい肉組織が剥き出しになって飛び散った。

光が収まり、上空から床へとボトリと落ちてきたのは、もはや原型がない、異形なような形の肉塊だった。そこには猫の耳も, 尻尾も, 人間の四肢の面影すら残っていない。

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