襲来
ピリリリリリリリリリリッ!!!!
頭を引っ掻き回すような大音量の電子音の正体は、部屋の隅にあるコンセントだった。
そこからパチパチと激しい火花が噴き出したかと思うと、あの焦げたパンの匂いが鼻を突く。
「うお、あっちちち……っ!」
電流とともに、コンセントから文字通り
『 射出 』
されるように転がり出てきたのは、絆創膏だらけの男――ビイビリだった。
しかし、彼の姿は電子の世界にいたときとは少し違っていた。
なんと、ビイビリの頭の上には、一匹の小さな三毛猫がちょこんと乗っかっていたのだ。「ふぅー、間一髪! あ、さっさとお二人さん、これこれ!」
ビイビリが頭を振ると、その頭上の三毛猫が、人間の言葉で、それもやたらと気の抜けたトーンでこう告げた。
「到着」
猫が、喋った。
そのあまりにも締まりのない空気を、紫髪の異形が完全に切り裂いた。
それまでベッドの上でプカプカと浮いていた鳧先輩が、次の瞬間、文字通り視界から消え失せた。
移動の軌跡すら見えない、完全な瞬間移動。
「――喧しい」
低く冷徹な声が響いたときには、鳧先輩はすでにコンセントの真ん前に出現していた。
彼女は顔の蛇タトゥーを獰猛に歪めると、凄まじい速度でその拳をコンセントへと叩き込んだ。
ドガァァァンッ!!!!
鉄拳をモロに喰らったコンセントが木っ端微塵に砕け散り、激しい爆発とともに火花がボカンと燃え上がる。
「ひぎゃっ……!?」
コンセントから出てきたばかりのビイビリが悲鳴を上げる間すらなかった。
瞬間移動の勢いをそのまま乗せた鳧先輩の容赦のない追撃が、ビイビリの無防備な腹部へと深々と突き刺さる。
ドコォッ!!!
「が、はっ……、」
あまりの衝撃に、ビイビリの口からドロリとした鮮血が勢いよく飛び散った。
腹を殴られた彼の身体は、まるで紙屑のように真後ろへと吹き飛び、病室の頑丈なコンクリートの壁に激しく叩きつけられる。
ベチャリ、と重い音を立てて壁から床へと崩れ落ちるビイビリ。
彼の口元からは、今も赤黒い血がダラダラと流れ落ちて止まらない。
「ナイス」
病室の入り口から、パチパチと拍手をするような、乾いた声が響いた。
いつの間にか部屋に入ってきていた、あの『激安』のロゴを着た妹?らしき人物だった。
彼女は耳の無数の針ピアスをジャラリと冷たく鳴らし、床で血を吐いているビイビリと猫をゴミのように見下ろした。
「死ねやカスども」
妹が、細い指先をチッと小気味よく鳴らす。その瞬間だった。
壁際で倒れていたビイビリの身体に、あり得ない異変が起きる。
彼の皮膚を内側から突き破るように、無数の鋭利なナイフが次々と飛び出してきたのだ。さらに、目や鼻、耳といった身体の
『 穴という穴 』から、せき止められていたダムが決壊したかのようにドバドバと激しい血が噴き出し、床をまたたく間に真っ赤に染め上げていく。
鋭利なナイフが次々と飛び出してきたのだ。一方、彼の頭の上にいた三毛猫の身体からも、同じように肉を裂いて無数のナイフが突き出ていた。
しかし、その化け物染みた猫は、全身を刃物だらけにされながらも、全く怯む風はなかった。
「……まず」猫は、人間の言葉でそう短く、不快そうに吐き捨てた。
次の瞬間、猫の小さな口が大きく裂けるように開き、その喉の奥から、血塗られた巨大なナイフがゴボリと勢いよく吐き出された。
人間の常識を完全に無視したその反撃の兆候を前にして、針ピアスの妹は、自身の
『 pq Aポルア 』の追撃を止め、ただ退屈そうに髪を弄った。
「やはり、一筋縄ではいかないか……」




