タイトル未定2026/06/27 11:14
姉?らしき人物と妹?らしき人物が放つ絶望的な不和のオーラを前に、私の脳の処理が一瞬でフリーズする。
しかし、
傘さんはその空気すら一切気に留めず、ただ淡々と、私をさらに警察署の奥へと連れて行こうとした。
地下駐車場から続く薄暗い廊下を抜けた先、そこは警察署の内部とは思えないほど、
冷たく無機質な「病室」が並ぶ区画だった。
その中の一室の前に立ち、傘さんが感情の消えた手つきでドアを開ける。
室内に一歩足を踏み入れた瞬間、私は自分の目を疑った。
「……っ、鳧先輩! ?」
そこにいたのは、夢喰堂の大大好きな鳧先輩――
その人だった。だが、その部屋のベッドの真上に、あり得ない格好で「浮いている」人物こそが鳧先輩だった。
髪は、毒々しいまでの鮮やかな紫。
鳧先輩はベッドの上で横になるどころか、パチパチと青白い火花を散らす『 電気浮遊 』によって、重力を完全に無視して宙にぷかぷかと浮いていた。
さらにその顔面、目元から頬にかけては、のたうつような『 蛇の刺青 』がねっとりと刻み込まれている。
「ふははは! 我の前に平伏すがいいたわけども! ……いや、我の眠りを妨げるとは、いい度胸ではないか。……まぁよい、我は寛大であるからな」
一人称は「我」。その態度は、不自然なほど『 尊大 』だった。
かと思えば、次の瞬間にはフッと普通のトーンに戻ったりと、キャラの安定しない偉そうなオーラを全身から放っている。
「おい、そこな『 お主 』たち。我の渇きを癒すため、今すぐ冷たい水を持ってこい。これは命令だ、逆らうことは許されんぞ」
初対面の傘たちに対して、当然のように放たれる横暴な命令口調。
その光景を目の当たりにした傘さんは、ガチでドン引きして一歩引いていた。
だが(… 鳧先輩、めちゃくちゃカッコいいし、可愛い……!!)
誰も助けてくれない狂った日常に絶望していた私の目に、その紫髪の尊大な鳧先輩は、
圧倒的な「非日常のヒーロー」のように輝いて見えていた。
偉そうにふんぞり返っているのに、キャラがブレまくってどこか抜けているところが、
たまらなく愛らしくて可愛いと思ってしまったのだ。
そんな私のキラキラした視線に気づく風でもなく、鳧先輩は血まみれの傘さんを傲慢に見下ろして、開口一番そう吐き捨てた。
「……血が出たまま病院を歩くな」
「……、ここは警察署です、」
傘さんが冷ややかな声音で静かにツッコミを入れる。
「そうなの? ここって」
鳧先輩は顔に刻まれた蛇のタトゥーをピクリともさせず、まるで他人事のように平然と言い放った。
「……まあ良い。病院で血は縁起悪いから、やめろ」
警察署だと訂正されたはずなのに、鳧先輩は1秒で自分のルールへと脳内をリセットし、再び上から目線の命令口調でそう言い放った。
口調はめちゃくちゃ尊大で態度も偉そうだが、言っている内容は
「怪客人はさっさと治療しろ」という、わりかし確固たる自分の考え(芯)に基づいた正論。このブレなさと、ポンコツ気味な可愛さのギャップに、私はさらに感動を深めていた。「お主……」鳧先輩が浮遊したまま、私に向かって細い指先を突きつける。その瞬間、私の頭の中で、これまで聞いたことのない不気味な電子音が、大音量で鳴り響き始めた――。




