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姉上は渡しません  作者: 燈明春


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17話

サリーナの部屋。


まだ朝食も終わっていない時間だった。


ハルトはいつものようにサリーナの隣に座っていた。


向かいの席は空いている。もちろん使わない。

ハルトにとって向かいは遠いのだ。


そんな時、扉がノックされた。


入ってきたのは騎士団長のライトだった。


ライト「失礼します。」


ハルト「何?」


ライトは一枚の報告書を差し出す。

「北の森で魔獣の群れが確認されました。」


ハルトは報告書を受け取る。視線を流した瞬間、眉が動いた。

「……結構多いな。」


ライトが頷く。

「村への被害が出る前に討伐したい。」


ハルトなら一人で終わる。

王国中の誰もがそう思っていた。


だが――

その時だった。


サリーナが口を開く。

「私も行きたい。」


部屋が静かになった。

ハルトが固まる。

ライトも固まる。


サリーナは真面目な顔だった。

「怪我人が出るかもしれないし、回復役がいた方がいいでしょ?」


正論だった。


だが。

ハルトは嫌そうだった。

「危ない。」


即答。


サリーナは苦笑する。

「ハルトがいるじゃない。」


ハルト「いる。」


サリーナ「なら大丈夫でしょ?」


ハルトは黙る。

確かに守れる。でも心配だった。ものすごく。


サリーナはそんな婚約者の手を握った。

「一緒に行きたい。」


ハルトは弱かった。サリーナのお願いに。


数秒後。


小さくため息を吐く。


ハルト「……絶対離れないなら。」


サリーナが笑顔になる。

「うん。」


ハルトは顔を背けた。


少しだけ耳が赤かった。



数時間後。


北の森。


巨大な転移魔法陣が展開される。


光が弾ける。


現れたのはハルト、サリーナ、ライト率いる騎士団だった。


森は異様な空気に包まれていた。


木々が倒されている。


爪痕もある。


ライトが周囲を警戒する。

「近いな。」


その時。


遠くから咆哮が響いた。


地面が揺れる。


騎士たちの表情が引き締まる。


森の奥から現れたのは巨大な熊型魔獣だった。

全長五メートル以上

真っ黒な毛皮。赤く光る瞳。


騎士たちが息を呑む。


ハルトはため息を吐いた。

「弱そう。」


魔獣が怒り狂ったように突進する。


その瞬間。

空気が凍った。


ハルトが片手を上げる。ただそれだけ。


魔獣の足元から氷が噴き上がった。


一瞬で全身を凍結。


巨体が動きを止める。


パリンと砕けた。


騎士たちが沈黙する。


ライトが額を押さえた。

「毎回思うが加減しろ。」


ハルト「襲ってきたから。」


反省ゼロだった。



その時だった。


森の奥からさらに複数の気配が現れる。


十体。


二十体。


大量の魔獣だった。


騎士たちが武器を構える。


だが。


ハルトは前に出る。


サリーナを庇うように。


ハルト「下がってて。」


サリーナは首を振った。

「私も戦う。」


ハルトが振り返る。


心配そうな顔だった。


サリーナは微笑む。

「大丈夫。」


そう言って魔法を発動する。


柔らかな光が騎士たちを包んだ。

身体能力強化、防御強化、疲労軽減。王国最高峰の支援魔法だった。


騎士たちの表情が変わる。


ライトが驚く。

「これは凄いな。」


サリーナが笑う。

「頑張ってください。」


その瞬間。


ハルトの機嫌が良くなった。

「さーちゃん凄い。」


誇らしそうだった。


自分のことのように。



戦闘は一方的だった。

前衛には騎士団。


後方にはサリーナ。


そして最前線には――


氷の王子。ハルトが立つ。


次々と現れる魔獣。だが近づけない。


氷。


氷。


氷。


圧倒的だった。魔獣たちは凍り付き、砕け、吹き飛ぶ。完全な蹂躙だった。



討伐終了後。


騎士たちは疲れていた。


しかしハルトは元気だった。


その代わり。


サリーナが少し疲れていた。


支援魔法を使い続けたせいだ。


ハルトは即座に気付く。

「疲れた?」


サリーナ「少しだけ。」


その瞬間。


ハルトがしゃがんだ。


サリーナ「?」


ハルト「乗って。」


サリーナ「え?」


ハルト「疲れてる。」


真顔だった。


騎士団全員が見ている。


サリーナは恥ずかしい。


だがハルトは気にしない。


ハルト「早く。」


結局。


サリーナは背中に乗ることになった。


騎士たちが微笑ましそうに見ている。


ライトは苦笑した。

「殿下、本当にサリーナ様が好きなんだな。」


ハルトは即答した。

「うん。」


迷いゼロだった。


サリーナの顔が真っ赤になる。


だがハルトは気にしない。


背中の温もりを感じながら少しだけ笑った。


「また一緒に来ようね。」


それは魔獣討伐の感想ではなく。


サリーナと一緒に過ごせたことへの喜びだった。

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