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姉上は渡しません  作者: 燈明春


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16/18

16話

ニマルディア王国の王城は、かつてないほどの賑わいに包まれていた。


今日は第二王子ハルトと第一王女サリーナの婚約披露宴。


王族、貴族、各国の使節団まで招かれた盛大な宴だった。


大広間には無数のシャンデリアが輝き、楽団の演奏が優雅に響いている。


だが。


会場中の視線を集めていたのはただ一組だった。


ハルトとサリーナである。


純白のドレスに身を包んだサリーナは、誰もが息を呑むほど美しかった。


その隣には正装姿のハルト。


普段より少し髪を整えた姿は、まさに絵本に出てくる王子そのものだった。


もっとも――


本人は周囲など全く見ていなかった。


ハルトの視線は最初から最後までサリーナだけに向いている。


カキは遠くから見てため息を吐いた。


カキ「おい。」


ハルト「何。」


カキ「少しは周り見ろ。」


ハルト「見てる。」


カキ「見てないだろ。」


ハルト「さーちゃん見てる。」


即答だった。


カキは頭を抱えた。


ライトが肩を叩く。


ライト「いつものことです。」



宴が始まり、来賓たちが次々と祝福に訪れる。


サリーナは笑顔で応対していた。


だが。


ハルトはずっと隣にいる。


ぴったり。本当にぴったり。


少しでも人が近づけば視線を向ける。


男性貴族が話しかければさらに近づく。


若い貴族令息が笑顔で話しかけた瞬間など、


サリーナの腰に手を回していた。


サリーナ「ハルト。」


ハルト「何。」


サリーナ「近い。」


ハルト「婚約者だから。」


万能の言い訳だった。



やがて音楽が変わる。


舞踏会の始まりを告げる曲だった。


国王が微笑む。


国王「主役たちが最初の一曲を。」


会場から拍手が起こる。


ハルトは当然のようにサリーナへ手を差し出した。


黄金色の瞳が優しく細められる。


ハルト「さーちゃん。」


サリーナ「うん。」


その手を取る。


大広間の中央へ進む二人。


楽団の演奏が始まった。


ハルトの手がサリーナの腰を支える。


もう片方の手は優しく指を絡めるように握った。


サリーナ「緊張してる?」


ハルト「全然。」


そう答えたが。


少しだけ握る手に力が入っている。


サリーナは小さく笑った。


「嘘。」


ハルトが少しだけ視線を逸らす。


図星だった。


サリーナの前では最強の魔法使いも形無しである。



ゆっくりと踊りながら。


ハルトは誰にも聞こえない声で囁いた。


「綺麗。」


サリーナの頬が赤くなる。


「ありがとう。」


ハルトは首を横に振る。


「違う。」


「え?」


「思ってたよりずっと綺麗。」


真顔だった。


サリーナは思わず目を逸らす。


ハルトはそんな反応を見て微笑んだ。


そしてさらに近付く。


「今日ずっと思ってた。」


「何を?」


「自慢したい。」


サリーナは思わず吹き出した。


「何それ。」


ハルトは真剣だった。


「俺の婚約者だって。」


その言葉に胸が熱くなる。



曲が終わりに近づく。


会場中が二人を見守っていた。


だがハルトにとっては関係なかった。


今見えているのはサリーナだけ。


ずっと昔から好きだった人。


守りたいと思った人。


そしてこれから一緒に未来を歩く人。


ハルトはそっと額を寄せる。


触れるか触れないかの距離。


黄金色の瞳が幸せそうに細められる。


「さーちゃん。」


「なに?」


「今日。」


ハルトは少し笑った。


「人生で一番幸せ。」


サリーナの瞳が優しく揺れる。


「私も。」


その答えを聞いた瞬間。


ハルトは本当に嬉しそうに笑った。


氷の王子と呼ばれる彼が見せる、サリーナだけのための笑顔だった。


そして大広間には大きな拍手が響く。


誰もが祝福していた。


ニマルディア王国の王女と王子。


二人の未来を。


そして何より――


誰よりも幸せそうな婚約者たちを。


宴はまだ続く。


けれどハルトにとっては十分だった。


隣にサリーナがいる。


それだけで、世界は満たされていた。

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