14話
不気味な笑い声が神殿中に響いた。
黒い魔力はゆっくりと人の形を取っていく。
闇そのものを纏ったような巨大な影。
その姿を見た瞬間、ジックの顔色が変わった。
ジック「砂喰いだ、あれを封じるために契約が必要だったが…..。」
ハルトはサリーナを背中に庇ったまま睨みつける。
ハルト「お前が呪いの元凶か。」
黒い影が笑う。
砂喰い『我を前にしても怯えぬか、氷の王子。』
ハルト「怯えてる暇ない。さーちゃんの前から消えろ。」
ハルトとジックが砂喰いに全力で魔法を放つが、あまり効いている様子はない。
そのとき、サリーナの回復魔法が神殿を包む。
暖かな光が黒い影を焼いていく。
砂喰い『ぐあああああっ!!』
初めて砂喰いが悲鳴を上げた。
ジック「効いている……!」
ハルトの黄金色の瞳が細められる。
勝機を見つけた。
ジックは即座に砂の魔法陣を展開する。
ジック「氷の王子!」
ハルト「何。」
ジック「今だ!」
ハルトは頷いた。
二人の魔力が同時に解放される。
砂の鎖が砂喰いの身体を拘束する。
氷がその全身を覆い尽くしていく。
砂喰いが暴れる。
神殿が揺れる。
天井が軋む。
だが逃がさない。
ハルトはさらに魔力を注ぎ込んだ。
砂喰い『離せェェェ!!』
ハルト「断る。」
冷たい一言だった。
その時。サリーナが前へ出る。
ハルトが慌てる。
ハルト「さーちゃん!」
だがサリーナは首を横に振った。
サリーナ「大丈夫。」
優しい光が両手に集まる。
暖かく眩しくどこまでも清らかな光。
砂喰いの表情が初めて恐怖に染まった。
砂喰い『その力は……!』
サリーナ「もう誰も苦しめさせない。」
光が解き放たれた。
轟音。
神殿全体が白く染まる。
砂喰い『やめろォォォォ!!』
ハルトの氷が核を貫く。
ジックの砂槍が続く。
そしてサリーナの光がすべてを包み込んだ。
パリン――
ガラスが割れるような音。
黒い魔力の中心にあった核が砕け散る。
砂喰い『馬鹿な……。』
砂喰いの身体が崩れ始める。
砂喰い『千年待ったのだぞ……。『こんな……終わり方……。』
最後の黒い粒子が光の中へ溶けた。
そして。完全に消滅した。
⸻
静寂。
誰も動かなかった。
百年前から続く呪い。
ザルハーン王国を蝕み続けた元凶。
その存在が、今完全に消え去ったのだ。
ジックは膝をつく。
ジック「終わった……。」
信じられないように呟く。
ハルトは興味なさそうに振り返った。
そして真っ直ぐサリーナの元へ向かう。
ハルト「さーちゃん。」
サリーナが微笑む。
サリーナ「うん。」
次の瞬間。
ハルトは思い切り抱きしめた。
サリーナ「きゃっ。」
ハルト「無事でよかった……。」
震える声だった。
ずっと張り詰めていたのだ。
サリーナはそっと背中を撫でる。
サリーナ「心配かけてごめんね。」
ハルトはさらに抱きしめる力を強めた。
ジック「もう二度と攫われないで。」
サリーナ「それは私じゃなくてジックに言って。」
二人の視線がジックへ向く。
ジックは苦笑した。
ジック「安心しろ。もう攫わない。」
ハルト「当たり前だ。」
即答だった。
⸻
その時。
神殿全体が大きく揺れた。
ハルト「崩れるぞ!」
砂喰いの消滅によって神殿そのものが限界を迎えていた。
天井が崩れ始める。
石柱が倒れる。
ジック「封印の要だった神殿だ。長くは持たない。」
ハルトはすでに巨大な転移魔法陣を展開していた。
ハルト「さーちゃん。」
サリーナ「うん。」
当然のようにサリーナを抱き上げる。お姫様抱っこだった。
サリーナ「ハルト……。」
ハルト「離さない。」
⸻
転移魔法陣が輝く。
ジックが最後に神殿を振り返る。
長年ザルハーンを苦しめてきた呪い。
その終焉の場所。
静かに目を閉じた。
ジック「……終わったな。」




