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姉上は渡しません  作者: 燈明春


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13/18

13話

地下神殿が震えていた。原因はハルトだった。

銀髪からあふれた魔力が冷気へ変わり、石床を瞬く間に凍らせる。祭壇も石柱も天井も、白い霜に覆われていく。

ザルハーン王国の兵たちは、誰一人として近づけなかった。

ハルトの怒りが、そのまま魔力になっている。

サリーナは祭壇の上からその姿を見つめていた。

見たことがないほど怒っている。

それでも、自分を見る目だけは優しかった。


ハルト「怪我は?」


サリーナ「ないよ。」


ハルトは短く息を吐いた。

それだけで、少しだけ肩の力が抜ける。


だが次の瞬間には、もうジックへ視線を向けていた。

空気がさらに冷える。


ジックはそんなハルトを見て、薄く笑った。


ジック「随分嫌われたものだ。」


ハルト「当たり前だろ。さーちゃんを二回も攫ったんだからな。」


ジック「少し違う。」


ハルト「何が。」


ジック「今回は契約に呼ばれただけだ。」


ハルトの額に青筋が浮かぶ。

ハルト「だから許されると?」


ジック「思っていない。」


ジックはあっさり認めた。


そして、初めて真剣な顔になる。


ジック「だが必要だった。」


サリーナが眉をひそめる。ハルトの目も細くなった。

ジックは祭壇の紋様へ視線を落とす。


ジック「この契約を完成させなければ、ザルハーンは滅ぶ。」


ハルト「嘘つけ。」


ジック「嘘ではない。」


その声に、いつもの余裕はなかった。


サリーナは気づく。

この男は、何かを隠している。


ジックはゆっくりと口を開いた。

ジック「百年前。ザルハーン王家は呪いを受けた。」

ハルトは黙って聞いていた。


ジック「王族の魔力が、代を重ねるごとに枯れていく呪いだ。」

サリーナが息を呑む。


ハルト「今の王族は?」


ジック「俺が最後だ。俺の代で終わる。契約の儀は、本来その呪いを抑えるためのものだった。」


サリーナは祭壇を見た。

だから、あれほど執着していたのか。

だがハルトは、少しも揺らがない。


ハルト「だからって。さーちゃんを利用していい理由にはならない。」


ジックは答えない。

反論できなかった。

それが事実だからだ。


ハルトは一歩前へ出る。

足元の氷が音を立てた。


ハルト「事情なんてどうでもいい。俺にとって大事なのは、さーちゃんだけだ。」


ジック「本当にお前は変わらないな。」


ハルト「お前に言われたくない。」

その瞬間、ハルトの周囲に無数の氷槍が現れた。

数十。数百。

神殿を埋め尽くすほどの冷気が、殺気とともに立ち上る。

兵士たちの顔が青ざめた。

ジックも表情を引き締める。


ジック「交渉は終わりか。」

ハルト「最初からする気ない。」

氷槍が一斉に放たれた。

轟音が走り、神殿が揺れる。

ジックの前に砂の壁が幾重にも展開される。

だが、一枚、二枚、三枚と、氷槍は次々に砕いていく。

砂が舞うより早く、氷が押し潰した。

ジックは後方へ飛び退く。

「化け物か!」

ハルト「知ってる。」

即答だった。

さらに氷の刃が襲いかかる。

ジックも砂嵐を巻き起こす。

氷と砂。

相反する魔法が激突し、爆発音が神殿中に響き渡った。

サリーナは思わず身を乗り出す。

どちらも本気だった。

だが、押しているのは明らかにハルトだ。

冷気は砂を凍らせ、砕き、押し流す。ジックの防御は崩されるたびに組み直されるが、その速度を上回る勢いで氷が迫る。


その時だった。


祭壇の契約紋が、突然強く光った。

全員が動きを止める。

光は神殿全体へ広がり、床の紋様を赤く染めていく。

嫌な予感が走った。


ハルトは即座にサリーナへ駆け寄る。

ハルト「さーちゃん!」

だが、遅かった。

祭壇中央の古代文字が次々と輝き始める。

ジックの顔色が変わる。

「まずい。」

ハルトが睨む。

「何だ。」


ジックは初めて焦った表情を見せた。

「契約が暴走している。」


神殿が大きく震える。

天井から砂が落ち、床の紋様が赤く脈打つ。

そして祭壇の奥、誰も触れていないはずの巨大な石扉が、ゆっくりと開き始めた


ゴゴゴゴ……。

重い音が響く。

その奥から現れたのは、禍々しい黒い魔力だった。

ジックの顔から血の気が引く。


ジック「そんな……。」


ハルト「何だあれ。」


ジック「百年前にザルハーンへ呪いをかけた存在だ。」


沈黙。


次の瞬間、石扉の奥から低い笑い声が響いた。


『ようやく開いたか。』


神殿中の空気が凍り付く


ハルトでさえ、本能的な危険を感じた。

それでも彼は迷わない。

サリーナを自分の後ろへ庇う。それだけは、即座だった。


黒い魔力が蠢く。

不気味な笑い声が神殿を満たした。

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